My favorite classic numbers 2

 

No.13 フランツ・シューベルト 
    演奏:ミッシャ・マイスキー (Vc) 
       ダリア・オヴォラ (Pf) 1996年演奏  
    レーベル:Grammophon

1. アルペジオーネ・ソナタ イ短調
2. 歌曲集「美しき水車小屋の娘」~知りたがる男
3. 「ヴィルヘルム・マイスターからの歌曲集」~ミニョンの歌
4. 歌曲集「冬の旅」~幻   5. 「同」~辻音楽師
6. 夜と夢         7. 歌曲集「白鳥の歌」~海辺にて
8. 音楽に寄せて      9. ます
10. セレナーデ      11. 孤独な男
12. 水車職人と小川    13. 野ばら
14. 万霊節の連祷       15. 君こそは憩い

ソフトで柔らかな歌を歌わせれば右に出るものは居ないと思われるマイスキー
シューベルトと言えば、チェロ通の人なら聴かなくてもその音色が想像できるで
あろう。若き日にアルゲリッチと奏でたアルバムが有名のアルペジオーネソナタ
のリメイクで始まり、その後に歌曲群が14曲続く。これら歌曲はシューベルト
の作った膨大な歌曲集の中からマイスキー自身がセレクトした珠玉の曲で、彼の
弦で奏でられたシューベルトの旋律は、私たちを限りなく甘く優しい世界へ誘う。
前回のデュ・プレとは究極に違う演奏です。 シューベルトの歌に理屈なんか不要! 
その歌の中に身をゆだね、曲に包まれて眠りにつきましょう。セレナーデは
シューベルト出なければ描けないメロディーです。ご堪能あれ!

マイスキー
の出したアルバムには、同様に甘い楽曲がならんだベスト版が何枚か
ありますが、私個人はシューベルト一色のこのアルバムが一押しです。
興味があったら、前述のアルゲリッチと競演したAソナタも聴いてみて下さい。
2人の表情が見える演奏で、かなりおもしろいですよ。   H19.5.12記


No.12 ブラームス・ショパン&フランク:チェロソナタ集 
    演奏:ジャクリーヌ・デュ・プレ (Vc) 
       ダニエル・バレンボイム (Pf) 1968-71年演奏  
    レーベル:EMI 2枚組(写真左)

    

 12回目にして始めて御紹介するには遅過ぎるという誹りを受けてもおかしく
ないジャクリーヌ・デュ・プレ。 若くして不治の病に倒れ、映画にも執り
あげられたその人生は凄まじい。20才にしてその才能は高く評価され、彼女
の使用していた2台のストラディヴァリウス(共に当時で数万ドルもした)
も匿名の支援者から寄贈されたもの(1台は現在ヨーヨーマが譲り受けている)
である。 彼女の演奏は、短い人生を短期間に燃焼し尽くしたように激しく
聴く者を惹き付けてやまない。 代表作にエルガーのチェロ協奏曲(写 真右)
があるが、この曲は彼女の映画の全編を通じて流れているいわば彼女の代名詞
でもある。この曲ももちろんすばらしいが、個人的には夫バレンボイムとの
共演であるブラームスの2つのチェロソナタをお勧めしたい。冒頭の音色から、
ひきずりこまれるような魔力をもって迫ってくる。彼女の魅力の特徴は音色の
深さであろう。起伏と感情に富んだ音色は他の演奏者を寄せつけない。勿論
名器ダヴィドフに拠るところも無視できないが、同じ楽器を使用してもマーが
弾くのと彼女が弾くのとでは本当に違う。多分弦に当てる弓の強さが格段に
違うのではないかと思う。2番のソナタにおいてはその激しさはいっそう
著しい形をなす。2枚組のもう一枚、ショパンとフランクのチェロソナタ
おいては、すでに病が悪化したためか、ブラームスほどのパワーを感じない。
もちろんこれとて並の演奏とは隔たった豊かな表現力を期待して良い。何度も
聴くにつけ、その音色の表情の豊かさ、音色のふくよかさには感動を増す。
フランクの慟哭の第3楽章を聴いてみよう。フランクの嘆きがそのまま増幅
されて、デュ・プレにのりうつった様に弾く様は圧巻である。夫バレンボイム
の演奏を非難する声も耳にするが、婦唱夫随でこそ彼女の演奏は生きるのであり
サポーターとしてのバレンボイムの演奏は悪く無い。ピアノが彼女と競っては
いけないのである。  2007.4.1 記

No.11 ショパン:エチュード 
    演奏:マウリツィオ・ポリーニ (Pf) 1972年演奏  
    レーベル:Grammophon(写真左)

    

 久しく遠ざかっているアルバムがいくつか有るが、これもその1枚、
決して嫌いなわけではないが、一時夢中になって聴きすぎた反動かもしれない。
ポリーニというピアニストは機械のような正確さを特徴に言われ、玄人すじでも
好き嫌い(賛否ではない)が分かれる演奏家である。僕自身もずらっと持って
いるが、好んで聴かない。上手いのだが、聞きたい気持ちになりにくいのだ。
そのうまさも、このアルバムに至っては文句のつけようがない。ポリーニの
出発点でもあり、自信作でもあるこのアルバムは、他の追随を許さない、
圧倒的なテクニックで聴いた誰もが舌を巻く金字塔的演奏として名高い。
初めて聞いたときの驚きは今でも鮮明に脳裏に刻まれており、これを書くに
あたり、久しぶりに聴いてみたが、まさしく完璧なリズム、完璧な演奏で、
これを聴いたら次に誰も録音したくなくなるような域に達している。一音一音が
顕微鏡で見る如くに明確に分離され、こんな音符が並んでいたのねと新しい
発見ができる。それでいて、もたついておらず、スムーズでよどみない流れ、
機械と言われようと ここではそれは賞賛の言葉として受け取ろう。はっきり
言って人間業ではない。対照的なエチュードを聴いてみたければ、情緒的な
演奏ではブーニン、天才的なテンポとセンスで弾ききってしまうフランソワ
そして多分現在一番上手いと思われるのは、我らが 横山幸雄(写真右)
テクニックでポリーニとひけをとらないだけでなく、もっと軟らかく
しなやかに弾きこなしてしまう分、上といってもいいのだが、印象も薄くなり
がちでちょっと損かもしれない。自信家の彼のことだから、きっと「俺の方が
もっと上手いぜ」との確信で録音したに違いない。  

「別れの曲 ショパン・エチュード全集」横山幸雄 2000 ソニーME
                            2007.2.14 記

 

No.10 ショパン:夜想曲全集 
    演奏:マリア・ジョアン・ピリス (Pf) 1995-96年演奏  
    レーベル:Grammophon

  

 第2回にもご登場デュメイと一緒にブラームスのバイオリンソナタでご登場
いただいたピリスですが、今回はソロで再登場です。彼女のソロのピアノで
最も有名なものは一連のモーツァルトものですが、私個人としては、彼女の
ソロアルバムの中でも、ショパンのノクターンの演奏の中でも、このアルバムが
抜群の一押しです。美しいノクターンの全集をお求めになりたいなら、ぜひこの
ピリスをご堪能あれ。 きっと、彼女のピアノの魔力の虜になりましょうぞ。

まず1曲目(作品9-1)。ろうそくの揺らぐような危うい響きに最初の1音から
ぐぐっと引き込まれる。ピアノってこんなに美しい音出すんだって。
そして優美な美しさに、ただただ感服の有名な2番(作品9-2)、甘い香りで
始まる4番(作品15-1)、思索的なメロディーが魅力の6番(作品15-3)。
圧巻は8番(作品27-2)。天上から舞い降りてきたエンジェルに日の光が
降り注ぐような音色、この美しさはもはや地上のものではない。澄んだ音、
光の粒子が天上から粒になって舞い降りて来るのが見えるようである。
これ以上望むべきものがあろうか?最後の1分間は鍾乳洞の中で落ちる水音を
聴いているように1音1音を楽しめる。

2枚目にはいって、美しさの際だつのは16-18番、朝の若葉からこぼれる滴の
音色を描いたような16番(作品55-2)、オーロラを仰ぎ見るような清冽な音の
ほとばしる17番(作品62-1)、朝焼けの雄大な空間を感じさせる18番
(作品62-2)、どれも高音の音色と弾きっぷりが心を打つ。
そして戦場のピアニストで有名になった20番遺作、悲しみの色を
ピアノの音に載せて、ハートがキュッとなるほどに切ない。

誰もいないところで 静かな夜 ひとりそっとこのアルバムを聴いて見て下さい。
こころが震えるほど美しいタッチです。
これは録音時の違いかと思いますが、前半の1枚のほうがピアノの響きは
微妙なタッチがよくでているように思われます。   2007.1.26 記


No.9 愛の夢&ラ・カンパネラ〜未発表リスト名演集 
    演奏:ホルヘ・ボレット (Pf) 1972-73年演奏  
    レーベル:RCA

  

 今回はやや知られていないロマン主義、ボレットの登場です。ボレットは
リストの再来ともいわれるリスト弾きで、私の知りうる限り最もロマンティックな
ピアニストです。 そして今日ここにお示しするCDもリストものです。曲目的には
少し節操のない内容ですが、何しろ彼の演奏・録音などを総合すると、このCDが
一押しということに・・内容は以下の通りです。この録音がつい最近まで埋もれて
いたことに驚きを隠せません。(一般的には「未発表・・」と冠がつくものに、
ろくなものは無いのですが)

  1;愛の夢 
  2;小人の踊り(2つの演奏会用練習曲その2)
  3;ためいき(3つの演奏会用練習曲その3)
  4;葬送曲
  5;ラ・カンパネラ
  6;森のささやき (2つの演奏会用練習曲その1)
  7;半音階的大ギャロップ
  8;スペイン狂詩曲
  9;タンホイザー序曲


馴染みのある入門曲の1や5もとても魅力的に仕上がっています。
ラ・カンパネラの鐘の音も限りなく美しく響いて素敵です。
リストの中では優しく、静かなメロディーで知られる2,3,6も
ボレットならではの 美しい音色が最高です。宝石をちりばめたといっても
いいようなきらびやかで、かつキュートな音色満載の曲が続きます。
そして圧巻は4,8,9。これら3曲では美しさもさることながら、
むしろボレットのたくましさ、男らしさが前面に出ている演奏で、
まったく玄人ウケする名演になっています。
と、本当にばらばらな内容ですが、彼の良さを聴くという意味では、あらゆる
角度から堪能できるのではと思います。特に前半1-6までは、ボレットが
初めての方でも、彼の美しいピアノの音色にうっとりすること間違い有りません。
彼の美しさ満載の曲だけをひたすら聴いてみたい方は、以下のものをお薦めします。
ただ、彼の華麗なテクニックや録音は、それぞれ単独で聴くと気になりませんが、
比較試聴すると、 デッカよりRCAの方がいいように思います。

「ため息 ボレット/リスト名演集」1978-1985 デッカ/ポリドール
「巡礼の年 スイス・イタリア」   1982-1983 デッカ/ポリドール

                       2006.12.15記


No.8 4つのバラード/舟歌/幻想曲 
    演奏:クリスティアン・ツィマーマン (Pf) 1987年演奏  
    レーベル:Grammophone

    

 今回は今をときめく最高のピアニスト、K・ツィマーマンの登場です。最近
話題作が多い中、基本に返って彼のふるさとポーランドの先輩ショパンのバラード
の完璧なる名演。もともと完璧主義で有名なツィマーマン、ショパンの最高傑作と
いわれるバラードに真っ正面から取り組んで、研究しつくした細部まで計算された
演奏となっています。音は限りなく繊細で美しく、細かな所まで手を抜かず細密描写
のように描かれ、しかも重くならず、見事な表現力と流麗な曲想をこれでもかと
までに見せつけます。バラードの演奏として最高傑作と言われるのも納得の1枚です。
 しいてけちを付けるなら、ディテールが細部まで 描かれ過ぎて全体を見失いそう
になること、技巧や装飾の意図が見えて多少嫌みに感じなくもないですが、素直に
うまい!と思って聴くべきかもしれません。バラード4曲も素晴らしいですが、
舟歌もなかなか、 そして幻想曲もこれまたとびきりの名演で、彼の演奏が光る演目
といって良いでしょう。
 ツィマーマンの右側にあげたのは、同じショパンのバラードを弾くアルツール・
ルビンシュタイン
のアルバム(1959年演奏RCAレーベル)です。バラードの曲想を
最も骨太に掴んで何時聴いても聴き飽きない名演だと思います。細部の ディテール
は逆に不明確で、ツィマーマンには遠くおよびませんが、ルビンシュタインの演奏を
先に何度も聴いた上にツィマーマンを聴くと、ツィマーマンの仕掛けや技巧、
繊細な表現力が手に取るように分かります。ぜひ聴き比べてみて下さい。
18.11.11記

 

No.7 Horowitz In Moscow 
    演奏:ヴラディーミル・ホロヴィッツ (Pf) 1986年演奏  
    レーベル:Grammophone

  

1;スカルラッティ ソナタ ホ短調 K380
2;モーツァルト ソナタ ハ短調 K330
3;ラフマニノフ 前奏曲 32-5、32-12
4;スクリャービン 練習曲 2-1、8-12
5;リスト/シューベルト ウィーンの夜会
6;リスト ペトラルカのソネット 104 イタリアから
7;ショパン マズルカ 30-4、7-3
8;シューマン トロイメライ 子供の情景から
9;モシュコフスキー  花火 36-6
10;ラフマニノフ WRのポルカ

 今回は20世紀を代表するピアニスト、ホロヴィッツの登場です。
彼ほど年代によって演奏が異なるピアニストはいないと言われていますが、
ここに示すアルバムは最晩年のライヴ盤です。最晩年というと日本に来た時に
「壊れた骨董」と評されたように、往年のうまさに欠けるミスタッチの多い演奏を
イメージされる方が多いかと思いますが、このアルバムは多少のミスタッチは
あっても、それを越えるホロヴィッツの晩年のすばらしさが全面に出ている素晴ら
しい演奏です。それもそのはず、この演奏は1925年21歳で祖国(ウクライナ)を
離れて以来、実に61年ぶりの、それも1回だけの凱旋演奏会だったからです。
 音色は限りなく優しく、各々の曲の美しさを知り尽くした男が、お気に入り
曲をこれでもかというほど魅力的に演出してみせた演奏会といったら、雰囲気が
伝わるでしょうか。ですから、この曲はこんなに素敵だったんだーと目が覚める
思いで全曲楽しむことができます。ホロヴィッツの演奏は録音状態を含め
良不良の
差が著しいのが特徴ですが、このアルバムは流石に晩年のものだけあって、録音は
まあまあの音質で、ホロヴィッツの美しい調べをカバーしています。
 
ホロヴィッツの演奏は時代によって大きく変わると書きましたが、一貫して
言えることは、彼は観客の耳を楽しませるために、できる限りの自分を演出しよう
という気持ちが前面に出ていることではないでしょうか? 演奏スタイルが
時と共に変化しようとも、それだけはどのアルバムを聴いても同様に感じ
とれるように思います。若い頃のホロヴィッツは追々紹介しますが、まずは
曲の魅力をたっぷりと教えてくれるホロヴィッツの心を、この最
晩年のアルバム
から聴き取って、虜になっていただきましょう。  
18.10.12記

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