ここに三人の男女がいる。 一人は、まだ子供っぽさを残した十代半ばの少年。 一人は、童顔の割にメリハリのあるボディラインを持つ可愛らしい少女。 一人は、中性的な顔立ちをした背の高い美少年のような美少女。 駅前の大通りを歩いている三人は、同じ高校へ通う友人たちだ。 その中で最も男前な美少女、藤宮菫が口を開いた。 「あ、そうだ。十四日、暇かな? 今年もボクんチでパーティーやるんだけど」 「菫お姉様の誕生日ですわね。もちろん予定は空けていますわ」 姫咲愛美が高校一年生とは思えない胸の狭間に菫の腕をムッチリと固定する。 まるで菫と愛美がそ〜ゆ〜関係であるかのように誤解されかねない光景だが、妙に腕の収まりが良いので菫も振り払おうとはしない。 「オレも別に予定はないぞ。今年もみんな集まるのか?」 「心配しなくても大丈夫だよ。藍姉さんも来るって言ってたから」 「ど、どうしてそこで藍さんの話になるんだよ?」 菫の物言いに慌てたのは秋元武雄だ。 「オレは別に、藍さんに会いたくて菫んチに行くんじゃないんだからな」 「違うのかい?」 「主役は菫だろ。藍さんが来なくたって――」 「そういえば、藍姉さん、男の人を連れてくるって」 「マジで!?」 「ほーら、やっぱり藍姉さんじゃないか」 「だってほら、藍さんが男の人を連れてくるなんてさ、それだけで大事件じゃないか」 必死に言い訳する武雄。 菫の姉である藤宮藍は武雄の初恋の相手ではあるものの、藍からは男性として見てもらえていないことを痛感して、幼年期の終わりと同時に諦めている。 ところが菫は、今でも武雄は藍が好きなのだと思い込んでいるらしい。 おかげで、武雄が菫に対してどんなにモーションをかけても、菫は華麗にスルーパスしてしまうのだ。 「事件といえば、昨夜もバイオレットが現れたようですわね」 言った愛美は武雄に軽蔑の視線を向けた。 「そうそう。またバイオレットに逃げられたんだよね、武雄」 「わ、悪かったな!」 もう一つ武雄を悩ませているのが、巷を騒がせている怪盗、バイオレットの存在だ。 武雄は、姉が警察でバイオレット対策本部長を務めているコネを利用して、バイオレットの予告状が届いた場所の警備に参加している。 しかし武雄は毎度毎度バイオレットに逃げられているのだよ。 おまけに、一体どういうわけか、菫はバイオレットに肩入れすることが多い。 菫に一方通行LOVEをしている武雄としては、菫が他の男(バイオレットは男だと思われている)に熱を上げているのは面白くないのだ。 「昨日だってな、もう少しだったんだぞ。オレの特製トリモチ弾の射程があと三十センチ長ければバイオレットに命中していたんだからな。そうじゃなければ今頃は」 「今頃も何も、キミはトリモチを自分で踏んでジタバタしてただけじゃないか」 「な、なんで菫がそんなことを知ってるんだよ?」 呆れた声を上げる菫に武雄は慌てた。慌てて焦ってうろたえた。 「そっ、それは……ほら、涼子さんに聞いたんだよ」 内心では武雄以上に狼狽した菫はどうにか落ち着いた表情を作って言い逃れた。 バイオレットの正体が菫だなんて武雄に知られるわけにはいかないのだよ。 「それじゃ、ボク、先に行くよ。武雄も愛美も寄るところがあるんだよね?」 「ああ。ちょっと野暮用だ」 「菫お姉様とお別れするのは寂しいのですけれど……。ごきげんよう、お姉様」 「じゃあ、また明日」 動揺を隠して菫は小走りで立ち去る。 一方、残った二人の足は同時に駅前商店街を向いた。 「姫咲、お前もプレゼント選びか?」 「あら、秋元武雄さん」 菫を巡ってライバル関係にある武雄に、明確な敵意を込めて愛美が言う。 「あなたのような下賎の輩が菫お姉様にプレゼントだなんて身の程知らずなことを?」 「まあな。どうせ姫咲はチョコレートだろ?」 「これだから知能指数が貧しい方は嫌ですわ。聞けば、菫お姉様は毎年のようにチョコレートを贈られているそうではありませんか。そんなチョコレート責めを受けている菫お姉様にチョコレートをプレゼントするなど愚者の浅知恵――」 「菫はチョコレート好きだぞ。姫咲、知らなかったのか?」 「そんなチョコレート責めを受けている菫お姉様にチョコレートをプレゼントするからには、やはり手作りで愛情を注ぎ込むしかありませんわ」 菫の幼馴染である武雄と、菫と出会ってから一年足らずの愛美では、菫に関する知識量が違う。 だからこそ愛美は武雄を危険視しているのだよ。 「それでは秋元武雄さん、せいぜい愚民なりに菫お姉様への貢物を考えることですわね」 愛美は負け惜しみのようにも聞こえる言葉を残して人ごみの中へ消えていく。 「確かに、どうにかして考えないといけないんだよな」 特製トリモチ弾の製作のため資金不足に陥っている武雄も商店街を歩き出した。
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