流れ星にお願い


 わたしは藤宮萌。四人姉妹の末っ子の中学二年生です。
 周りからはマイペースな人のように思われているみたいで、「のんびり萌ちゃん」とか
「おっとりモエモエ」なんて呼ばれています。
 何もない道で転んでしまったり、眼鏡を掛けたまま顔を洗おうとしたり、ぼんやり空を
見ていることが多いので、そう見られても仕方がありませんね。
 今日も、わたしは丘の下の寂れた公園へ立ち寄り、端の欠けた古いベンチに腰掛けて、
西の空を紅に染める夕日を眺めていました。
 とても綺麗です。
 でも、日が沈むまで見ていると夜になってしまいます。暗くなる前に帰りましょう。
 わたしはベンチから腰を上げました。
 その時です。夕方の空に光が走りました。
 流れ星です。
 願い事はどうしましょうか?
 突然なのでなかなか思い付きません。これは困りました。
 このままでは、いつものようにお願いを言い終える前に流れ星が消えてしまいます。
 ええと、ええと、ええと……。
 あっ。思い付きました。
「可愛いペットがほしいですぅ」
 これを三回唱えれば良いのですね。
「可愛いペットがほしいですぅ」
 もう一回。
「可愛いペットがほしいですぅ」
 ああ、良かった。わたしは舌足らずなので、流れ星にお願いできたのは初めてです。
 流れ星さん、わたしのお願いを叶えて下さい。
 ずれた眼鏡を両手で直して、わたしはもう一度、茜色の空を見上げました。
「……あれぇ?」
 流れ星が、まだ消えていません。
 おかしいですね。流星は宇宙に浮かぶ小天体が地球の重力に引かれて落下し、大気との
摩擦によって光るものだと本で読みました。
 それが燃え尽きないということは――
「隕石ですかぁ?」
 白く輝く流星は真っ赤に焼けた隕石になって、まっすぐこちらへ向かってきます。これ
は避難した方が良いかも知れません。
 でも、わたしは運動が苦手なので、どんなに急いでいても「てくてく」としか歩けない
のでした。わたしは遠くに逃げることは諦めて立ち木の裏に隠れます。
 数秒後、火球と化した隕石が落下しました。
 舞い上がった砂埃が収まるのを待って顔を出すと、わたしの両手で抱えきれないほど大
きな隕石が砂場に円いクレーターを作っているのが見えてきます。
 と、その隕石が二つに割れました。
 中は空洞になっているようです。何か入っているのでしょうか?
 興味を引かれたわたしは「てくてく」と近寄って隕石の中を覗いてみました。
「……猫、ですねぇ」
 そこで眠っていたのは、黒く輝く綺麗な毛並みを持つ一匹の猫でした。
 宇宙から来た宇宙猫です。
 願い事が早くも叶いました。
「流れ星さん、可愛いペットをありがとうございますぅ」
 わたしは宇宙猫を拾って家路に就きました。


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