精霊の季節



「旋律魔術科三年、ロジェリーフ・アンダルシアです」
「わざわざ名乗らなくてもいいだろう。最後まで進路を決めていなかったのはお前だけ
だ」
「そうでしたね」
「……それで、本当に行くんだな?」
「はい」
「決心は変わらないか。近頃は音に奥行きが出てきて、更に良くなってきたんだが……。
将来有望な音楽家を失うのは正直言って惜しい」
「音楽は続けますよ。バイオリンは僕の半身ですから」
「そうか。それならば私に反対する理由は何もない。向こうでも頑張ってくれ」
「はい」

 僕は外国へ留学することにした。
 バイオリニストになるためじゃない。
 精霊使いになるための訓練を受けるのだ。
 どうやら、僕には生まれつき精霊使いとしての素質があったらしい。
 精霊使いは自然に宿る精霊に名を与えることで、その精霊に仮の魂を吹き込むことがで
きるという。
 枯れ果てたはずの百日草から最期に彼女が姿を見せたのも、僕が彼女の名を呼んだため
ではないかと、僕と話した精霊使いは説明していた。
 その人に精霊使いとしての素質を見出された僕は、新たな地で新たな生活に身を置くこ
とを決めた。
 この国でも精霊使いとなる訓練はできるのだけれど、自然の豊かなところで習った方が
上達は早い。
 水も空気も澄んでいて、そして何より、緑が多い国だ。

 向こうに着いたら百日草の種を蒔こう。
 いつかまた、彼女に会えると信じて。

END.


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