「旋律魔術科三年、ロジェリーフ・アンダルシアです」 「来たか。そこに座ってくれ」 「はい」 「それでだな、ロジェフ。早速だが、卒業したらどうするつもりか聞かせてくれ」 「まだ決めていません」 「バイオリニストじゃないのか?」 「僕のバイオリンは趣味のようなものですから、仕事にするのはどうかと思います」 「趣味を仕事にはしたくないか。だがな、やり甲斐のない仕事に追われてストレスを溜め 込むよりは、仕事を趣味にしてしまった方がずっと楽だとは思わないか?」 「趣味にストレスを感じることもありますよ。それに、僕の未熟な腕では、バイオリンだ けで食べてゆけませんからね」 「今はまだ未熟でも、早めに目標を決めておけば練習に身が入るんじゃないのか?」 「曖昧な目標では長続きしないと思いますが」 「……ま、いいだろう。お前の成績なら焦ることはない。今はゆっくり考えればいい」 「はい。ありがとうございました」
年度始めの進路相談。 先生の話では、僕の成績に問題はなかった。 けれど、僕には志望する進学先も就職先もなかった。 バイオリンを習っているとはいえ、必ずしも音楽関係の仕事に就きたいとは考えていな い。絶対に就きたくないなどと強情を張るつもりもないけれど。 将来の目標なんて何一つ思い浮かばない。 夢も望みも、願いも祈りも、今の僕には何もなかった。
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