続 打倒 コントラバス!(その2)
3月3日

てなわけで電話。
と思ったら、
「お姉ちゃん楽器屋さんから電話ー。いつまで寝てんのー?」
下から母の呼ぶ声がした。
”んあー?今何時さ?”
と時計を見ると朝十時半。
”なんだ、まだ午前中じゃん。許容範囲許容範囲(←たぶん違う)
 んにしても、こっちからかけようと思ってたのに向こうからかけてきてくれたんだ。
 ちょっとらっきo(^-^)o”

てなわけで枕元にあったコードレスを手に取って電話に出る。
「もしもしお電話替わりましたぁ」
目覚め直後でまだベッドで寝そべりながら話してるにもかかわらず、やけにハイトーンヴォイス。
「あ、もしもしー、こちらキ〇ヤ楽器ですー、先日はどうもありがとうございましたー」
「あーいえいえ。こちらこそめんどくさいこといろいろお願いしちゃって、どうもすいませーん」

こっちが客なのにもかかわらずヤケに低姿勢なあたし。ま、仕事柄しょうがないんだが。取りあえず誰にでも敬語である。

「えーとですね、先日修理をお受けしましたコントラバスなんですが、実はですね、あの後弾いてみたらですね、指板の表面がボコボコなんですよー」
・・は?
「それでですね、この状態でお客様のおっしゃるとおりに弦高を下げてしまいますと弦が指板にぶつかって音がビビッちゃいますので、指板調整をさせていただきたいのですが−」
「あー・・・そういうことでしたらいいですよ。それも修理メニューに加えてください(おいおいそれって絶対25000円でおさまんないって)」
内心冷や汗たらたらである。
「それでですね、その分も加えた代金でお見積をお出しして、また改めてお電話差し上げますので、それでよろしいでしょうかね?」
「あーいいですよ。別に急ぎませんので」。
・・チン。受話器を置く。4万は超えるな、絶対。内心ソロバンをパチパチはじくあたし。
 なんか、あちこち手を加えるところが出て来たな。ま、これも安い楽器の宿命か。

 余談だが、この日は夕方からちょいとヤボ用でぢぢいさんに呼び出され、某所に二人でお出かけと相成った。それで待ち合わせ場所で待っていたのだが、ふとその時見覚えのある顔があたしの目の前を通り過ぎて行った。ももやに似ていた。それであたしは
”なんかももやみたいなやつが歩いてたなー”
と思ったら、ももやそのものだった(笑)自信がなかったから声はかけなかったけど。

 ほどなくぢぢいさんが現れて某所に連れて行かれることになり、あたしはぢぢいさんの後ろをのそのそついて歩いていたが、あたしと違ってぢぢいさんはももやをしっかり覚えていたらしく、やはり待ち合わせ(ただしあたしらとは別件)で人を待っていたらしいももやを見て
「おーももや!」
と声をかけて行った。その時のももやの顔ときたら! 
まるで、水族館でネオンテトラとかのかわいい系熱帯魚が飼育されてる水槽の中に、いきなりシーラカンスが現れて、ぷかーっとゆったり右から左へ泳いでいくのを見てしまったような、信じられないようなものを見たような顔をしていた。ま、あたしとぢぢいさんが2人きりで並んで歩いてるなんて普通考えられないショットだもんな(今考えてもあたしでさえ信じられないくらいだし)。

 どーでもいいけど、ももやってなんかいいニックネームだよな。アニメ由来のニックネームとしては「のび太」「ガンダム」「蘭丸」と並んで好きな名前です。あたしの中では。

そして見積も出て言われた値段で承諾し、修理期間に入りました−


3月30日

 今日はいよいよできあがったコントラバスを受け取りに行く日である。ほんとは3月21日に既に修理いっちょうあがりの連絡を受けていたのだが、処々の事情でこの日まで伸び伸びになってしまった。しかもこの日ってば休日出勤だったんだよね。そんなわけで仕事帰りの夕方6時に楽器屋に顔を出すことになった。

「こんにちわぁ。お世話かけましたぁ」
 やっぱり妙に舌足らず(笑)そして修理内容について一通り説明を受け、楽器を袋から出して見てさわらせてもらうことに。

 おー、だいぶ弦が押さえやすくなったぞ。あと、テールピースもまるごと取っ替えたせいでかなり音が変わったな。いい悪いは別にして。

 そうして楽器を隅々までチェックしていたら、ふとあることに気付いた。
「あれ、糸倉の中が綺麗になってますね」
「ええ。そこはサービスで手を加えてくださったみたいですよ」
やったラッキー。実は買ってしばらくしてから気付いたんだよね糸倉の中がきったないの(註3)。まるで木の皮をベリベリと引っぱがしてそのまんまほっときましたみたいな感じ。買った当時なんか楽器の目利きの知識なんてまるでなくて、んなとこまで見ないから、のちにそれに気付いた時は
”何じゃこのきったねえ糸倉の中は”
て思ってたんだよね。でも、たぶんどうにもできないだろうと思って半ばあきらめてた。そしたら修理工房の方ってばヤスリかけて最低限そういった木のささくれが目立たないようにしてくれたっていうじゃないの。やったあ(^O^)

 そして弓(フレンチの方。楽器を預けたときに弓も一緒に預けてた)出して弾き始めたが、そこに年配のおじさん店員がお兄ちゃんに
「フレンチ弓とジャーマン弓じゃ音が全然違うから、ジャーマンの方もお貸しして弾かせてあげなさい」
と小声で話してるのが聞こえてきた。
へー、違うんだ。あまり意識したことなかったな。

上がジャーマン弓、下がフレンチ弓です。ちなみにフレンチ弓の時の構え方は、バイオリン、ビオラ、チェロの弓と同じく上手持ちになります。

 んで、ジャーマンも借りてあれこれ弾いていると
「あのー、こちらの楽器、どちらのお店でお買い求めになられたんですか?」
おそるおそるといった感じであたしに聞く楽器屋の若いお兄ちゃん。
 え?なんでそんなこと聞くの?不安にかられるあたし。安かろう悪かろうの見本みたいな楽器だとかなんとか言われちゃうのかしら?どきどき。
「いやー、それがこちらで買ったものじゃないんですよー。玉〇堂で買ったやつでしてぇー」
「失礼ですがおいくらぐらいのものだったんでしょうかね?」
「(だからなんでそんなこと聞くんだっつの←不安&苛立ち倍増)いやーそれがとんでもなく安かったんですよー。新品なのに84000円でー。安すぎてなんか恥ずかしいですぅ。」

背後のウインドウには、25万とか40万の中級&高級コントラバスが陳列されてます。でも、よく考えたら(考えなくても)別に高い楽器だから作りがよくてイバれるとか、安いから恥ずかしいとか、そーいう問題じゃないよな。そしたらお兄ちゃんが
「いえね、修理工房の方が”かなりいい物だ”で感心してましたものですから、どちらでお求めになられたのかと−」

えーっ!?うそー。

いいものだってさ。それもプロの楽器職人さんからのありがたいお言葉(はぁと)。どこのメーカーの楽器がいいとか楽器を選ぶ上でチェックするべき箇所はどこかとか、全然なんの予備知識もなく買っちゃったけど、どうやらあたしの選んだ楽器は「当たり」だったらしい。やったo(^-^)oさすが中国四千年はダテじゃねえぜ(←?)。

 そんなわけで
「えー?修理屋さんてばそんなことおっしゃってたんですかぁ?やったー。うれしー」
突然お兄ちゃんに対する警戒心解きまくり(笑)。ちょっと楽器ほめてもらっただけなのに現金なものである。だけど、指板の表面がボコボコで糸倉の中が汚くて、それでも楽器としてはかなりいいってかい。何じゃそりゃ!(笑)

 そんなわけで、修理代金42385円もさほど苦にならずぽんと出し、ウキウキ気分で楽器を持って帰ろうとしたその時。
「あのー、これも工房の方が言ってらしたんですが、弦の寿命ががそろそろ限界きてるそうなんですよ。ですので、予算の都合がつき次第弦は替えた方がよろしいですよ」
 何だよ!結局あちこちボロボロなんじゃん。ほんとにこんなのが工房の人が言う通りのいい楽器なのぉ?(うたぐりの眼差し笑)

 −そして家に到着。その時、ふっと思い付いて体重計を引っ張り出し、コントラバスの重さを量ってみたら、約14kgありました。しかもこれって、倒れないように手で楽器を支えた状態での重さだから、きちんと量ったら15、6kgはあるだろうなあ。(ちなみに教授様、愛器アコーディオンの重さは何kgですか?)

 こんなものを弘前に運ぼうとしておりますあたしってば。正気の沙汰とは思えません。というか、好きじゃなきゃやってられねえって(笑)。
 そんなわけでよたよたしながら2階へ楽器を持って行き、カバーをはずして、修理が完了した新生コントラバスを使い慣れた自分の弓であれこれ試し弾き。
−うーん、今でこそまだまだこんなだけど、あと半年ちょいでバリバリにビフラートつけて、なおかつグリッサンドも自在につけられるくらいに上達しなくちゃならないんだなぁ(byデアルングル)。ほんとにできんのかぁ?すげえ不安・・・でもやる。やらいでか!


註3:この糸倉ってのは、音には直接は影響しない部分です。ここが汚いからといって楽器に実害があるわけではありません。
 ですが、こういった音に直接関係しない、なおかつ目に付きにくい部分を手抜きせずに仕上げられるかどうかが、腕のいい楽器制作&修理職人とそうでない職人の差(のうちのひとつ)と言われています。