続 打倒 コントラバス!(その1)
3月2日

”はあ。重た・・・”
 ようやくそこ   お目あての店が入居してるビルの玄関前にたどり着き、肩のバカでかい荷物をおろして上を見上げ、ふーっと大きなタメ息をひとつつくあたし。

 そう、ついにこの日、あたしはMY愛器−コントラバスを修理に出すことにしたのだ。前々から修理に出そうとは思っててお金は用意していたのだが、あたしの健康状態とかその他もろもろの理由が重なり、今日まで伸び伸びになってしまったのだ。修理内容は、弦高を下げてもらうこととがまずひとつ。
 だって、すげー弾きにくいんだもん、左手が。前にも書いたけどさ。でも、その時はあたしが初心者で握力がないからだって思ってたんだよね。でも、いろんなお店でいろんなコントラバスを10台くらい見て回った結果
”やっぱあたしの弦バスってば弦高高過ぎ”
という結論に達したので、ずっと修理に出す機会を狙ってたのだ。

 それともうひとつはテールピースの交換。あたしのテールピースは金属製なのだ。それが少々気に入らないので、木製のものに取り替えてもらうことにする。

 そんなわけで今日突如やる気が出たので(楽器屋さんでは、楽器を自宅まで取りに来てくれるサービスはやってないそうだ。んなわけで自分でエッチラオッチラ運んでくしかない)、持って行くことにしたのだ。
 ここでほんとは理想を言えば、車に積み込んで楽器屋の目の前に横付けするのが一番いいんだけど、あたしは車の運転に自信がない(ペーパー歴3年半です。運転自体は好きなんだけどさ)。わが家で車をメインに運転するのは母なのだが、母は”冬の街中をそんなデカいもの載せて運転するのイヤ”とか言ってるし。そうなると公共交通機関を使って持って行くしかない。けれども、地下鉄や普通の歩きはともかく、バスに乗れるかどうかが自信がないのだ。いや、体力がないとかじゃなくて、乗り降りの時に幅が足りなくて通らないんじゃないかというのが不安なんだよね。それで家から最寄り駅までハイヤーで行こうかなあと思ったが、さすがに見かねたらしく、母が地下鉄駅まで車で送ってくれることになった。

「こんなものほんとに車に積まさるの?」
「お店の人はセダンタイプの車なら大丈夫って言ってたよー」
 それで助手席のシートを倒し、ぶつけないようにそーっと中に押し込む。
 おー、入った入った。
「あらー、コントラバスって意外に小さいのねえ」
 母が妙な感心の仕方をしていた。小さくないってば・・・

 そして地下鉄駅で落っことしてもらい、車で走り去る母を見送ったあたしは、思いっきり深呼吸をして気合いを入れ、コントラバスを肩に担いだ。

 せーのっと!

・・・うげ、重た。右肩にもろに食い込む。まあ、わかっちゃいたけどさ。
 そんでもって駅構内によたよたと入り、まずは第一関門、自動改札機の通り抜けである。さて−
 改札機横の荷物載せ台に衣裳類の入ったバッグを置き、楽器を床に置いて改札機に切符を通す。そして楽器を今一度担ぎ−

 ごわん!
 
上の方からいやな音がした。
”うあっ!”
おそるおそる上を見上げると、コントラバスのうず頭が手を伸ばしても届かないほど高い所にある監視用カーブミラーにぶつかっていた。
”いけないいけない、気を付けなくちゃ”
改めて気を取り直し、今度はさっきより若干低めに楽器を持ち上げてそろそろと改札を−

 ガスッ!

今度は改札機に楽器をぶつけてしまった。
”あうちっ!やばいやばい。駒がズレたらどうしよう(註2)。ま、多少ズレたっていいか。どうせこの後すぐ修理出すんだしな”
てなこってさらに気を取り直し、上と横に気を付けて改札を通ろうとした瞬間−

 ピンコーンパンコーン♪

 あたしがあまり長い間改札機から切符を取らないでいたので、取り忘れと判断されて警報が鳴ったらしい。

だーっ!うるせー、わがっちゅー!
(津軽なまり)

 てなわけで改札を通るだけでひとネタかせげてしまったコントラバス運び。でもまだまだ続くぜ珍道中(笑)。 
 さて、すったもんだのあげくに改札を通り抜け、エレベーターでホームへと上ったのだが、とつぢょとしてデカいもん抱えたおねいさんが現れたものだから、ホームで地下鉄待ってる人みんな目を丸くしてます。予想だけどその時のみんなの気持ち
”あんなもの持って歩くなんて大変そう”
ありがち。
”邪魔だよんなもん持って公共の交通機関乗るなよ”
これもよくありがち。
”いいなあ。僕も(私も)欲しい”
こんなふうに思ってくれる人がいるといいなあ
”あんな重いものを女の子一人で運んでるなんてかわいそ。車で送ってくれる彼氏とかいないのかしら”
るさい、おーきなお世話だよ(笑)。てなわけであたしはみなさんからの好奇と羨望と迫害の視線を(勝手に)一身に感じてます−あああっ!やめてっ!あたしをそんな目で見ないでっ!・・・ちょっとエクスタシー(笑)。

 そんなわけでやって来た地下鉄に乗り込むあたし。でもさすがに椅子には座れないから立ってるしかないのだが、立ち位置にもこれまたえらく気を使う。
 乗り降りする人の邪魔になっちゃいけないのは当然だが、だからといって乗降口から離れてればどこでもいいってわけじゃない。まさかロングシートに座ってる人の真ん前に楽器持って立ってるわけにはいかないから、あたしの立ち位置は基本的に開く乗降口とは反対側のドア。そして地下鉄を降りるときには最後に降りる。で、ホームに人が誰もいなくなるのを待ってからおもむろに移動を始めるのであった。

−なんだかなあ。身軽な時なら絶対やらない&考えないような気配りをしないといけないんだなあ、コントラバス運ぶ時ってのは。

 −そして地下街を歩いて、地上へと出られるエスカレーターの前までたどり着いた。
”ふうーやれやれ”
安心しきってエスカレーターの床に楽器を置き、あとはおとなしく上まで運んでもらうのみとばかりにひと息つくあたし。ところが−

がったん!

いきなり上からコントラバスが降ってきた。”どぅわっ!ずげげげっ!”
つまり、上りエスカレーターだから乗って少ししたら「グワー」と階段がせり上がるのだが、そのことを考えずに無造作に床に置いたもんだから階段で楽器のおしり(?)が押し上げられ、斜めに傾いてしまったのである。

がったん!ばったん!どったん!

”おおお、ヤバイヤバイヤバイ!”
 楽器がエスカレーターを転がり落ち始める。それを防ぐべくあたしは手を伸ばしたが、重いのと態勢が悪いのとでしっかりとは支え切れない。それで楽器ごとあたしも何段か転げ落ちてしまった。
”痛でででで!膝の傷口が開くうう(両足に力をこめて踏ん張ったため)”

バスッ!ドタッ!ばたばたがたーん!

・・・音は派手だが、これは間一髪であたしは態勢を立て直し、楽器をやっとナイスキャッチした音です。決して最悪の事態が起きた(ネック折れ、魂柱−「こんちゅう」と読んでね−倒れetc)音ではありません。でも、絶対今ので楽器のボディーに傷がついたなー。それに、今の一部始終を階段おりて来る人(ここのエスカレーターは上りしかなかった)に”なんだなんだ?”てな目で見られるのもまた何ともはずかしいものであった。まあ後ろから上って来る人が誰もいなかったからいいか。

 こうした幾多のドタバタ劇の末、やっと冒頭の場面になるんですねえ。ようやくあたしは楽器屋にたどり着いたのでありました。ふぅぅぅう(-.-;)

んで。
「こことあそことあちらを直してぇ、で、余裕がありましたらこちらもよろしくお願いしますぅ。25000円くらいで納まればいいなーと思ってますけどー・・・」
 お店の若いお兄ちゃんにあれこれ修理内容を依頼するあたし。しかもヤケに舌足らずな口調だし(笑)
「そうしましたら、こちらの楽器は工房にお運びしましてそれからお見積をお出しします。来週中にもお電話さしあげまして、お値段面で了解を得ましてから修理に取り掛かりますので、それでよろしいでしょうか?」
「いいですよー、よろしくお願いしまーす」
てなわけで楽器を置いて店を出たのであった。

 んで、エレベーターで1階におり、
”んーんん、やっと重たい楽器から解放されたー”
思いっ切り伸びをして深呼吸をする。そして
”さ、北大のサークル会館に行ってベスト100パーティに参加してくるか!”
 そう。実はあたし、楽器を修理に出したのはパーティに行くついでだったんだよね。だからコントラバスと一緒に衣裳やダンシューも持って歩いてんの。・・・なんか、最近こんなんばっか(笑)。

 ちなみにベスト100パーティが終わった後、飲み会に参加して深夜に帰宅したら母が
「お姉ちゃん楽器屋さんから電話来てたわよ」
だそうな。ふぅん、もう見積りできたんだ。早いねえ。じゃ、明日でも折り返しかけてみるか。
 てなわけであたしは明日の電話に備えて(別に身構えなくてもいいって笑)はやばやと(と言っても深夜一時)床についたのだった−

註2:駒は弦の張力で楽器の上に立っているだけです。楽器にのり付けされてるわけでもなければクギ打ちetcで固定されてるわけでもありません。そんなわけで、ちょっとした衝撃でもすぐに倒れたりズレてしまったりします。