打倒 コントラバス!(その3)
11月29日
 ようやくチューニングも安定してきた。てなわけで、いよいよ禁じ手(?)の荒業「ネックにシール貼り」を決行することにする。

 ご承知の通りコントラバスの指板には、押さえる目印となるフレットがない。それでよくギターやってる人に
「フレットがないのに押さえる位置よくわかるねー」
と言われるが、とんでもない。みんな悪戦苦闘しながら覚えてっているのだ。あたしのように指板にシール貼ったりさ。
 だが、シールぐらいならまだいい。高校時代にあたしがマンドリン部で使っていたコントラバスなんて、みんなドライバーでネックに傷をつけて目印にしていたのである。あ、あたしが最初にやったんじゃないよ。入部してコントラバスを担当することになった時にはすでにネックが傷だらけだったんだい。もちろん歴代のコントラバスやってた先輩方がつけたものである。今考えるととんでもないバチ当たりであるが、その頃は正しい音程を覚えるので必死だったんだい。許して・・・

 そんなわけで、まずチューナーを使って開放弦で念入りに音を合わせ、次に半音上がったところを押さえ、メーターがピッタリ0になる所を見つけたらそこにペタッとシールを張る。さらに半音上がったところでメーターが0になるところを見つけて、またシールを張る。この繰り返し−

 んにしてもこのシール張り、もしきちんと先生について習ったとしたら、見た瞬間
「はがしなさい!」
と言われること請け合いである。

12月1日
 やっと音程が安定してきたので、せっかくだからためしにいろいろ曲を弾いてみることにしようか。高校時代にやった曲からFDの曲までいろいろとね−

 弾いてみました。もちろんまだまだたどたどしいけどさ。でも、いざ弾いてしまえばそれなりいっちょまえにかっこよく聞こえるから不思議だ。シャレード’75の前奏とかウグローシュとか。あと、タミィとかラストワルツとかインペリアルワルツとかもピッツィカートでベース入れるとステキ。うーん、結構コントラバスって使えるもんだね。夢が広がってきたぞ。来年のAFが楽しみだなー。取りあえずデアルングルとラ・アデリータははずせないな。あと、余力があればSarit din bogdan Vodaやカロチャイウグローシュなんかもやってみたい。おおーすげえ。なんかほんとにAFってば「楽団」って感じになってきたぞ。バイオリンあり、ギターあり、キーボード2台あり、そしてコントラバス−うーん、ゴージャスだ・・・・

12月2日

 そろそろ教則本を使って基礎練習をすることにする。基礎練といっても、弦を押さえる左手の基礎練と弓を持つ右手の基礎練があるのだが、ここでは左手の方の話を中心に書きたい。

 さて、左手で弦を押さえるときの基本の手の形として「ハーフ・ポジション」というものがある。基本的にコントラバスは、弦を押さえるのに薬指は使わない。人差し指、中指、小指の3本を使って音を作っていくのであるが(ただし高音部になると例外として薬指が出てくる)、ギターやベースでいうところの第1フレットにあたる位置に人差し指を置き、2フレットに中指と薬指を並べて置き、3フレットに小指を置くのである。これがハーフ・ポジション。コントラバスの指使いにおけるすべての基本の手の形である。
 ただし、ご承知の通りコントラバスは楽器自体が大きいので指板の間隔も非常に大きい。半音の幅が約5センチあるのだ。ということは一音上げるのに10センチ、言い換えれば人差し指から小指を一直線上に10センチに広げ、そして中指と薬指をあかないようにそろえて、この2本の指をちょうど真ん中の5センチのところに置くのである。広げる大きさ的にはたいしたことはないが、いかんせんコントラバスってやつは弦が太い。だから、指に弦が食い込んでものすごく痛い。おまけにギターやエレキベースと違って、コントラバスではネックを握るのはご法度。つまり指だけで押さえるのだ。従って食い込み&痛さ指数倍増なんである。

 そんなわけで、ただ今このハーフ・ポジションと格闘している真っ最中なあたし。女性にしては手が大きい方だと自負しているが、いかんせん握力がないので、正しい形を保つのが非常に大変。5秒押さえているだけで手がプルプルしてくる。で、ネックから手を離すと、手が弦を押さえた形のまま硬直しているんである。そんな時ゃ右手で左手をほぐしてあげるのであるが、内心
”はあ、なまじ自己流でやってきただけに、今から正しいフォームを覚えるのって大変”
とタメ息にくれるのであった。だけど、見てろよコントラバス。おまえなんか指先ひとつで薙ぎ倒してやるからなー!(笑)

12月3日
 朝起きたらなんか左腕が痛い。左手の甲から腕にかけてつってる感じ。
”あれー?昨日なんかしたかなあ?”
と一瞬考えたが、すぐ思い出した。
”あーそうか。昨日コントラバス練習したんだっけ”
それで筋肉痛になるってことは、相当力が入りまくっていたらしい。

 だが、今のあたしは5秒も弦を押さえてられないほど力が弱い。ましてや曲を弾くなんてとてもとても。こんなんでほんとに上達する日が来るのかなあ?

12月5日

 最近、楽器屋に行くのが非常に楽しい。憧れのコントラバスが手に入った今、楽器の部品やら何やらを見て回るのがうれしくて仕方ないのだ。そんなわけで、早く仕事が終わった今日も楽器屋へ向かった−
 弓、楽器本体といったハード面をはじめ、松ヤニ、糸巻、テールピースといった周辺小物までいろいろそろってる。そいつらを見てはまた
”うふふ、うふふ”
とほくそ笑んでいるのであるが、んにしてもコントラバスの部品て、バイオリン・ビオラに比べて高いよなあ。例えば弦。バイオリンの弦の普通クラスのやつなら、4本セットで5000円もしないはずだが、コントラバスのそれは安くてもセットで22000円もする。一番細いG線でさえ1本4700円だし。それから駒。バイオリンの駒は厚さ3mmくらいで、その気になれば1000円も払わず手に入ると思うが、コントラバスの駒は1コ17000円。それも厚さ1cm以上もあって、まるで電動糸ノコで作った木工品て感じ。
 こんな風に、何かにつけ値段も高けりゃ大きさもでかい。すべてにおいてスケールがでかいぜコントラバス。

 はあ、なんでこんな手間もヒマも金もかかる楽器に惚れ込んじゃったかねぇあたし。だけどそのことを後悔はしない。

12月8日
 今使ってる教則本では少々物足りないので、もう一冊買いに行くことにする。いくつか立ち読みした中で気に入ったのは、稲垣卓三著「わかりやすいコントラバス教則本(佼成出版社発行)」。お値段は「税込み3090円」也。しかし、いざお会計をしてみると3150円取られた。
”え?”
 裏表紙をめくって奥付を見ると
”1989日12月25日初版発行”
となっていて、以後重版はされていない。
つまり、初版の時点では消費税は3%で税額90円だったが、現在は5%の150円になっている。だが、この教則本は消費税が5%になった後も重版されず、したがってお値段も手直しされないまま本棚に置かれ続けていた−

 人気がないのかこの教則本は(笑)。いや、コントラバスをやる人間が少ないから売れないんだと好意的に解釈しておこう。