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「それでは、親族の紹介をさせていただきます」
 その言葉に、ほぐれた緊張がすぐ元に戻る。新郎の父、杏のおじいちゃんの口から、紹介がなされていく。 自分の兄弟関係から始まって、新郎の兄弟へ。
「新郎の兄の 外山 悟司とやま さとし です。その妻、 杏子 きょうこ 。その子ども、新郎の姪の杏です」
 緊張のご対面。別に俺に紹介されたわけじゃないけど、杏の両親とほぼ真向かいに座っている俺は、 変に意識してしまう。杏は両親のいいとこ取りの愛娘ってカンジ。
「新郎の姉の 倉田 早智子 くらた さちこ です。その夫、 孝行 たかゆき です」
 あれ? 倉田って。裕さんの姉だというその人を見て首をひねる。 でもまさか。そんなに偶然が重なるわけないよな。
 新郎側の親族紹介が終わった。次は親父の番。相手側の親に比べるとうんと若い親父が、 どもりながら、紹介を続ける。ついにそのときが近付く。
「え、新婦の息子の……あっ、いや、弟の祐介です」
 おい、そりゃまずいだろ親父。汗を拭く親父。俺の隣で、兄貴が笑いをこらえながら、頭を下げる。
「同じく、新婦の弟の友蔵です」
 あぁ……ついにバレてしまった。この恥ずかしい名前。頭を下げる。杏は、どう思っただろう。
 視線を上げることが出来ない。親父の冷や汗ものの親族紹介は、何とか終わった。
 親族ぞろぞろのこの状況では、杏と会話どころか、顔をまともに向き合うことも出来ない。 もどかしいけど仕方ない。
 披露宴会場になるホテルまでは、バスで移動。それまでに姉貴は、ご近所に挨拶回り。 だけど、ついに泣き出した空のせいで、それは困難を極めた。
 結婚するって大変なんだと、同情して、自分は後継ぎじゃないし、楽したいなぁって先のことを考えていた。
 ただ、隣にいるイメージはどうも杏じゃないみたい。それも妙な話だけどな。
 披露宴会場入り口はざわざわとしていた。始まるまでにまだ少し余裕があった。 奥のほうでは、すでに来ている招待客が、飲み物をとりながら談笑している。
 俺は落ち着きなく、新郎新婦の友人が手伝ってくれている受付の脇をうろうろしていた。 そこへ、杏が不意に近付く。ちょっとバツが悪い。
「すごく緊張してる? 友蔵君」
 ゲッ。いきなり突っ込むなよ。顔に似合わず、キツイじゃん。俺が渋い顔をしていると、背伸びして 耳元に話し掛ける。俺がちょっと背を縮めるようにして。
「知ってたよ。名前。気にしてることも、だから隠してたことも」
「えっ?」
「また、明日。ゆっくり話すから」
 そう言うと、両親の元へ行ってしまった。その様子を見ていた兄貴が近寄ってくる。
「あの可愛い子と何話してたんだよ」
 面白くないとでもいう顔で、兄貴は俺に詰め寄る。
「目、付けてもだめだぜ。俺の彼女なんだから」
「え? そうなのか。何だ。誰とも付き合う気なんかないんだと思って……」
 兄貴が言葉を切る。
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