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「友蔵、ちょっと来てくれ」
 親父の声だ。玄関のほうから聞こえる。色打掛を身にまとった姉貴は、別人のように綺麗で、変に緊張する。
 家の前には、近所のおばさんや子どもたちがすでにたくさん集まっていた。 そんなみんなが注目する中、家族で写真をとろうと言い出したのは、やっぱりおふくろだった。
 親戚のおばさんたちが、見に来てくれた人たちに花嫁菓子を配っている。 この地域独特の風習で配られるそれは、ピンクと白の二色の甘いふやき菓子だ。 今どきの子どもたちには敬遠される代物かもしれない。
 ひとしきり撮影が終わると、後はバスが到着するのを待つばかりだった。
  外山 裕 とやま ひろし 。三十五歳。姉貴の結婚相手は十ちかくも年上。 そんな年まで独身でいたって言うんだから、あんまりいい男じゃ(ルックスが)ないだろうと、 勝手に解釈していた。
 だけど、違ってた。男の俺から見ても「おぉ!」っと思ってしまうくらいいい男。 スラッと背も高くて、俺や兄貴よりずっとたくましい。 つい「姉ちゃん頑張ったな」とほめ言葉が口をついて出そうなくらい。 その男前が、この年まで独身だったというのも不思議だった。
 まあ、それは、いろんな人と付き合って、結婚っていう枠に納まるのを嫌ってたってことらしい。 姉貴のめげない性格が功を奏したってことかな。
 バスが到着した。俺の緊張はピークに達しようとしていた。 それというのも、式が執り行われるのは、新郎の生家。つまり杏の家だ。
 バスに揺られること十分強。庭の広い外山家に到着した。
「お前が緊張してどうする」
 兄貴がからかうように覗き込んできた。シカトする。今の俺はそれどころじゃない。 杏の顔が見えた。ドレスアップしている。いつも可愛いけど、もっと可愛い。
 なんだか落ち着かないな。杏が視界の端に俺を見つけると、にこっと笑った。
「おぉっ! 激マブ。今笑いかけたぞ」
 お前にじゃないよ、まったく。世の中の女全員が自分を見てると勘違いしてるんじゃないだろうな。
 まず最初に親族全員で記念撮影。
 こんな日に、厚い雲に覆われて今にも泣き出しそうな空は、新郎か新婦に片想いでもしてたみたいだ。
 写真店の人たちは、雨が降り出す前にと大忙し。俺は、集合写真が苦手。顔が固くなる。 姉貴は、いつのまにか、白無垢姿になっていた。
 一番前に緊張気味に座って、着物の裾を直してくれるのを息を潜めて見守っている。 こんなとき、姉貴は、どんなことを考えてんのかな?
 撮影を終えると、いよいよ結婚式。 厳かな空気の中、三々九度や指輪の交換がのんびりとしたテンポで流れていく。 袴姿の裕さんは、かなり様になっている。姉貴も負けず劣らす。 お似合いだなんて微笑ましく見ていて、少しだけ緊張がほぐれた。

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