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「あ、そういや、聞きたいことあったんだ」
『何?』
「六月の第二日曜日のバイトなんで休み?」
『六月? ああ、おじさんの結婚式だ。どうしても出てくれって言われてて。それがどうかした?』
 あれ? ちょっと待てよ。記憶を辿る。脳みそのしわちょっと足りないかな?  でも、姉貴の結婚相手の苗字くらい覚えてるだろ? しっかりしろよ。
「プリンスホテル? そのおじさんの相手、 板垣 亜季 いたがき あき って言わない?」
『さぁ? 知らないけど、でもプリンスホテルだった。え? 友君の親戚?』
「姉貴」
『えぇ〜すご〜〜い。偶然! じゃ、友君も、式に出るんだ』
 杏の声が上ずる。楽しそうにはしゃいでるけど、俺は真剣に考え込んだ。
「あのさ、おじさんってどういう関係?」
『え? あぁ、お父さんの弟』
 ってことは当然、杏の両親も式に出るんだよな。で、披露宴もずっと一緒なんだよな?  それってちょっと複雑。
 それからしばらく、杏のほうだけ盛り上がったままその話を続けていた。 俺は、ただ、相槌打つだけで。
『それじゃ、また明日』
「あぁ、うん」
 プツッと電話が切れる。もうちょっと名残惜しそうにしてもいいんじゃない?  なんて受話器を恨めしく見てゆっくり通話ボタンを切った。
「ただいま〜〜」
 玄関から、姉貴の声が聞こえてきた。姉貴、亜季は二十六歳。OL。今回の結婚を機に寿退職するらしい。
 ボーっとしていた俺は家の前に止まったらしい車の音に、気付かなかったけれど、 走り去る車の音がようやく耳に届く。
「お帰り。外山さんと一緒だったの?」
「もちろん。お風呂あいてる?」
「うん。友がまだだけど」
 階下の会話は筒抜け。やっぱり姉貴の相手は、外山っていう姓だった。ちょっとだけ憂鬱かも。
「友、お風呂先に入るよ」
 階段を下りていった俺に、姉貴が声をかけてくる。
「どうぞ、入ってきたんじゃないんだ」
「ブッ」
 晩酌をしていた親父が吹き出した。
「バカッ。祐介みたいなこと言わないでよ」
 姉貴は顔を赤くして、慌てて、かなり高めの位置になる俺の後頭部をペシッと叩いた。
 年のわりに純情なんだよな。
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