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 杏が俺にとって初めての彼女というのには訳がある。周りの奴らが言うには俺は究極の面食いなんだとか。 自分じゃ、よくわかんないけれど。でも、確かに、言い寄る女の子はいても、 見た目が少しでも気に入らなければ 話す気すら起こらない。
 別に冷たくあしらうって訳でもないけど、絶対、誤解されるような優しさは見せない。 つれの中には「片っ端から、手をつければいいじゃん」なんて軽々しく言うやつもいるけれど、 そういう付き合い方は、どこか間違っていると心の中で、セーブしている。
 正式な付き合いは、杏が初めてだけど、俺は童貞じゃない。そこには、兄貴、 祐介 ゆうすけ が深く関わっている。
「相変わらず、もてるな。これじゃ、外山ちゃんも気が気じゃないよな〜」
 商品整理をしていた店長が、さっきの様子を見ていて声をかけてくる。
「そうでもないっすよ。あいつそういうの無頓着みたいだから」
「へぇ、昨日の今日でよく分かってんだ」
「まぁね」
 髪をわざとカッコつけて、かきあげる仕種に、店長は、ククッと笑った。



『今日ね、すごくかわいいワンピ買ってもらったんだ』
 電話の向こうの杏は、上機嫌。バイトが終わって家に帰って、落ち着いたところ。受話器を持ったまま、しばらく考え込んでしまった。
「買ってもらったって……友達に?」
『うん』
「うんって、そんなの普通友達が買ってくれたりするものか?」
『え? だって、賢ちゃんはよくプレゼントくれるよ。それと同じじゃないの?』
「え? ちょっと待てよ。賢ちゃんて男?」
『そうだけど』
 杏はあっけらかんと答える。受話器を持った俺の手から力が抜けた。ベッドにもたれかかった姿勢も崩れる。
「あのさ、俺って杏の何?」
『彼氏』
「それじゃ、その賢ちゃんとか言うやつは?」
『友達。あ、もしかして友君妬いてる?』
「いや、別に」
 冷静さを装って答える。頭の中に兄貴の冷たい言葉がよみがえってくる。
 ”やきもちなんて妬かせるもんで妬くもんじゃないんだよ”
『よかった。信じてもらえて。なんだか嬉しいな』
 可愛いな〜〜。杏のはにかんだ顔が浮かんで一人で照れまくる。 だけど、ここでビシッといえない自分も情けないような複雑な気分。 確かにやきもちなんてかっこ悪いと思うけど。

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