「行くなよ」 「え?」 美咲の声、震えてる。俺も心臓爆発しそう。美咲ってこんなに小さかったっけ? 「合コンなんか行くな」 「どうして?」 「美咲が、他のやつと意気投合するのなんかイヤだ。しょうがなくったって、そんなの受け入れたくなんかない」 言った! くらくらする。どうしよう。 「だったら、どうしてもっと早く言わないのさ」 えっ? 慌てて美咲から手を放す。だってこの声。 ガラッ。目の前の教室のドアが開く。そこに孝史の姿。そして……その後ろに数人の男女。どうなってんの? 「え?」 「え?」 美咲も同じように驚いている。ドッキリカメラの仕掛け人じゃないみたい。 「まったく、じれったいったらないよ」 「そうよね。やってられませんってカンジ?」 大げさに両手広げてる。口々に文句を言ってる。何がどうなってんのかさっぱり分からない。 「じいはお節介な元カノに感謝するんだな」 孝史が言った。え? 杏? あぁ! あいつ、後は自分でって言ってたのに。 もしかしてこれって結局、助けられたのか? 参ったな。 「ま、後は、お二人でごゆっくり」 「合コンはこっちだけで、予定通りするから、気にするな」 「じゃーな」 みんなが帰っていく。最後に孝史が美咲の肩を叩いて、「よかったな」って言ってる。 何もかも知ってたんだよな。やっぱいいやつ。孝史の優しさに完敗。 だけど、俺は俺のやり方で進むしかない。でも……何となく、中途半端じゃん。頭の中で別のこと考えてる。 孝史も合コン行くのか? カラオケ苦手なのに、とか。杏は、孝史になんて言ったのかな? とか。 「はぁ……。なんか頭の中、真っ白ってカンジ」 そうそう、そんな感じ。ってふたりっきりじゃん。……そりゃ、最初からそうだったけど、でもこれからどうすればいいって言うんだ。 これは孝史の最後のイジワル? 「あ、バイト大丈夫なの?」 美咲の声に時計を見る。あ、もうこんな時間? 「そろそろ行かなきゃ」 「じゃ、先帰っていいよ」 「あぁ、うん」 言葉に従った。教室を出た。このまま家に帰って、原付で飛ばせば間に合う。ってそうじゃないだろ? このまま帰ったら、今までの繰り返しじゃん。だって、そうだろ。きっと今、あの教室で。 くるっと向きを変える。今歩いた廊下を逆走する。 「美咲」 ほら、やっぱり。 「もう、ひとりで泣くなよ。辛いときは、俺の胸貸してやるから」 「クサすぎ」 「笑うなよ。男のプライド傷つけんな」 別に本気で怒ったわけじゃない。美咲だって分かってるんだろ? 「今も借りられる?」 「もちろん」 胸を張る。美咲が飛び込んでくる。小さなしゃっくりあげながら、泣いてる。 こんなに弱かったのに、気付いてやれなくてごめんな。 こんな俺のこと、好きでいてくれてありがと。 友情関係も親類関係も越えて……恋愛関係って照れるけど、心地よい緊張。 異常な速さの胸の音がリアルでいいな。 「早く帰れよ」 寸前。その足音で、営業スマイルならぬ優等生スマイル(そんなのあるのか?) 「は〜い」 見回りの教師の後ろ姿に、吹き矢の物真似。タイミングよく首の後ろを掻いてる。 美咲が笑う。寒さも吹き飛ぶHOTなカンジ。それだけでかなり幸せ。 |