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 期末考査は、散々だった。勉強に身が入らない。こんなに美咲にハマッている自分は、想像できなかった。
 周りが動き出す。 クリスマスムード一色に染まっている町の思う壺ってくらいに、学生達の気持ちも高まっていた。
 だけど、クリスマスって何するんだっけ? 一生懸命バイトで稼いだお金で、ホテルとか予約しちゃうわけ?  でも、田舎じゃ車持ってない高校生にとっては、厳しいよな。
 去年は何やってたっけ? やっぱバイトしてたな。 そういや、プレゼントだとかって、コンビニまで持ってきた子がいたっけ? あれ、どうしたかな? 覚えてないや。 俺っていい加減。みんなルックスに惑わされちゃダメだって。……美咲は俺のどこが好きなんだろ?
「板垣」
 背中から、美咲の声。耳まで赤くなる。ほとんど重症。
「なに?」
 いつの間にか、誰もいなくなった教室。これってチャンス到来。待ってよ。気持ちの準備できてない。
「イブの日空いてる?」
「バイトだけど」
「そっか、じゃぁいい」
 えぇ! そんなあっさり。帰ろうとする美咲を引き止める。
「あ、ちょっと、美咲。それって空いてたら、なに?」
「え? だって今、バイトだって」
 美咲がちょっと驚いた顔で、振り返る。どきどき。
「いや、でも空けられないこともないかなって」
 多分、フリーターさん達がこぞって休みを取りたがるその日は、今から頼んでも遅いと思うけど。 口からでまかせでも言ってみなきゃ、続き気になる。
「そうなの? 実は、みんなでカラオケ行って、クリスマスパーティーもどきしようって。 板垣も誘ってって、言われてて」
 なんだ。美咲だけの誘いじゃないんだ。そりゃそうだ。美咲がそんな神経図太いわけないもんな。
「もどきって何か裏があるの?」
「あぁ、うん。合コンだって」
「ふうん。美咲は平気なわけ?」
「なにが?」
「俺がその合コンに行って、他の誰かと意気投合しちゃっても」
「え? あぁ、だってそれは個人の自由だし。別に私がどうこう言えるわけないでしょ」
 美咲が戸惑い気味に答える。俺のことまだ好きでいてくれてる? こういう試し方って、ズルイかな? やっぱり。
「そんなこと分かってる」
「え?」
 美咲が言葉を続ける。顔を見せずに俺に背中向けて。
「人の気持ちが、思い通りにならないってことくらい分かってる。イヤだって思ってもしょうがないでしょ。 受け入れるしかないじゃない」
 淡々と喋る美咲。……あ、美咲は親のこととダブらせてるんだ。どうしよう。 今の俺にそんなパワーないよ。自分のことしか考えられない、俺なんか。
「ごめん。デリカシーのないこと言っちゃって。やっぱバイト休めないと思うし、パスする」
「私こそごめん。ちょっと、強さの電池切れ。充電しなくちゃ」
 美咲が振り向いて舌を出す。笑顔さえ見せて。十分強いよ。もういいよ。意地張らないで。
「じゃぁね」
 美咲が教室を出て行こうとする。ここで引き止めなきゃ、きっと後悔する。追いかける。
 教室を出る寸前。背中から抱き締める。ドラマみたいにうまくいくかな? そんなことどうでもいい。伝えなきゃ。
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