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「何が?」
「だから、恋愛はどちらか一方が思ってるんじゃうまくいかないってこと。 友君との時は私だけ。今は賢ちゃんのほうだけ」
「あれ? 俺のこともマジじゃなかったんじゃないの?」
「本気でそう思ってた?」
 杏が切なそうに見つめる。そんな目で見られても困るんだけど。だって自分で、そう言ってたじゃん。 問いかけの答えを探せない俺に、杏がポツリと話し始める。
「……だって、美咲ちゃんに負けたくなかったんだもん」
「え?」
 杏はゆっくりと真実をもらす。
 幼いときから、勉強もスポーツも勝てなかった美咲に、ライバル心を持っていたこと。 年の近いいとこって比較されやすいのかな?
 たまたま遊びに行った美咲の部屋で、 一目惚れしていたコンビニの店員、つまり俺の写真を偶然見つけたこと。 思わず持ち帰ったんだって。
 付き合っていくうちに、俺の気持ちが変化していくことに気付いたけれど、振られたくなかったこと。 プライド高いんだって。自分で言ってる。
 なんだ。それじゃやっぱり傷つけてたんだ。こんなこと杏の両親にバレたら、姉貴の立場ないよな。 っていうか、それ以前の問題。俺の責任。つっぱってたあの別れ際の言葉にさえ、気付いてやれなかった。
 マジ、恋愛向いてないかも。
「今度は友君の番。ちゃんと聞かせてね」
 わがまま杏。そんなこと約束なんかしてないよ。駆け引きって苦手だ。
「何が知りたい? ……好きなやつの名前?」
 もう、ヤケクソ。ここで、美咲の名前出したりしたら、また傷つけるんだろうな。 「いとこだよ」……姉貴の言葉ズシンとくるなぁ。
「そんなの知ってる。そうじゃなくて、美咲ちゃんもフリーになったらしいのに、友君が動き出さない理由が知りたい」
「え? 嘘? なんで?」
 焦る。頭の中真っ白。狼狽する俺に杏が微笑む。
「へぇ、そんな顔もするんだ。かなりマジモードなんだ。羨ましい」
 杏が軽く嫉妬する。ちょっとかわいいなって思ってしまった俺って、どうしようもないやつ。
 それより、杏の問いに答えはあるのかな? 俺はどうして動かないんだろ?
「あ、そうか。親友だって言ってたっけ? それでなの?」
 そうだな、多分最初は。今は、半分意地になってるのかも。伝える術を失って、行き止まりを繰り返すだけ。 引き返しても、同じ道にさえ出られないで、入り口すら見つけられない。 ぬるま湯のような曖昧な友情で、満足しようと自分に言い聞かせて、立ち往生していても、自ら進もうとしない。
 大体、そういつまでも俺のこと好きでいてくれるのか? 自信ない。 こんなことなら、卑怯でもあの時、抱き締めればよかったのか? 答えなんか見つかるはずがない。
 俺に新しい道を作るくらいの、勢いがなけりゃ。
「ま、後は、自分で何とかするしかないよ」
 沈黙したままの俺に、しびれを切らしたように杏が言った。「帰るね」と立ち上がる。
 寒さに背中を丸めて歩き出した杏を、呼び止めた。
「杏」
 振り返った杏に、これだけは伝えるべき。
「サンキュ」
「おやすみ」
 笑顔で手を振ってくれる。背中、押してくれて感謝するよ。 そろそろ本当に、この重い腰をあげなきゃならないもんな。
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