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「美咲ちゃんだっけ?」
「うん」
「美人だよね」
「会ったことあるんだ」
「ううん、写真で見ただけ」
「……」
 姉貴が何か言いたそうに、俺を見る。 ミーハーなおふくろは、テレビの歌番組に見入っていて、こっちの会話に入ってきそうもない。 親父は風呂に入っているのか、姿もない。
 箸の動きを止める。姉貴の視線が怪しいから。
「何?」
「いとこだよ」
「ん?」
「杏ちゃんとその子」
「知ってるよ、そのくらい」
「ふうん」
「なんだよ。さっきから」
 いい加減、その態度に腹が立ってきた。何が言いたいのか、さっぱりわからない。
「友って分かりやすい。好きなんでしょ? その美咲ちゃんのこと。しかもかなりマジ」
 えっ? 嘘? そんな簡単に見抜かれちゃう?
「バッ……そんなんじゃないよ。
孝史の彼女だし」
 慌てると却って妙だし、トーンを抑える。 だけど、表情引きつってるかもしれない。
「え? 孝史って友と仲のいい? 北川くんだっけ?」
「そう」
「じゃ、ますます厳しいじゃない」
「何が?」
「あんたの恋の行方」
「はいはい。勝手に想像して楽しんでて」
 付き合ってられない。このまま喋ってたらボロ出そうだし、逃げたモン勝ち。 姉貴は意味深に笑ってから俺の前を離れると、テレビから流れる音楽に、おふくろと一緒になって、体を揺らしていた。
 ムキになって食べていた俺を見て、風呂上りの親父が一言。
「お、いい食いっぷりだな。友蔵おじちゃん」
 まったく……。




 日増しに、秋の訪れを感じる。 道端に、ぽつぽつ咲き始めていた彼岸花が、満開の時期を迎えようとしていた。
 正式名称、 曼珠沙華 まんじゅしゃげ 。昔から、この花って不思議だった。種をまくでもなくどうして毎年、 この時期にちゃんと咲くんだろう。別名の通り、彼岸の頃をピークに真っ赤な花を咲かせる。 自分はここにいるんだと主張する。
 俺の存在理由はどこにあるんだろう。 美咲が笑う。孝史の名を呼ぶ。自分の気持ち、持て余してる。どうすればこの迷路から抜け出せるんだろう。

 バイト帰り。美咲の住む団地の前。目に入ったのは孝史の原付。だからってスピード落とした俺ってバカだ。 俺に気付いた孝史が、手をあげる。シカトするわけいかないし、ブレーキをかける。
 それと同時に心にもブレーキかけなきゃ。
「バイトの帰り?」
「あぁ、そっちは?」
 って聞いて、どうなるもんでもないのに。
「配達。ここの山本さんちまでビール届けに」
 なんだ、そっか。ホッとしている自分は、なんて自分勝手なんだろう。
「孝史、忘れ物」

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