「美咲ちゃんだっけ?」 「うん」 「美人だよね」 「会ったことあるんだ」 「ううん、写真で見ただけ」 「……」 姉貴が何か言いたそうに、俺を見る。 ミーハーなおふくろは、テレビの歌番組に見入っていて、こっちの会話に入ってきそうもない。 親父は風呂に入っているのか、姿もない。 箸の動きを止める。姉貴の視線が怪しいから。 「何?」 「いとこだよ」 「ん?」 「杏ちゃんとその子」 「知ってるよ、そのくらい」 「ふうん」 「なんだよ。さっきから」 いい加減、その態度に腹が立ってきた。何が言いたいのか、さっぱりわからない。 「友って分かりやすい。好きなんでしょ? その美咲ちゃんのこと。しかもかなりマジ」 えっ? 嘘? そんな簡単に見抜かれちゃう? 「バッ……そんなんじゃないよ。孝史の彼女だし」 慌てると却って妙だし、トーンを抑える。 だけど、表情引きつってるかもしれない。 「え? 孝史って友と仲のいい? 北川くんだっけ?」 「そう」 「じゃ、ますます厳しいじゃない」 「何が?」 「あんたの恋の行方」 「はいはい。勝手に想像して楽しんでて」 付き合ってられない。このまま喋ってたらボロ出そうだし、逃げたモン勝ち。 姉貴は意味深に笑ってから俺の前を離れると、テレビから流れる音楽に、おふくろと一緒になって、体を揺らしていた。 ムキになって食べていた俺を見て、風呂上りの親父が一言。 「お、いい食いっぷりだな。友蔵おじちゃん」 まったく……。
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