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 カッコつけすぎ? でもそんな風にしか言えやしない。杏のこと、どれだけ知ってた?  何が好きで、何に興味持ってて、何を求めてたか。
 孝史はどんな恋愛やってるんだろ? 俺も美咲のこと好きだって気付いたんだけど、何とかならない?  なんて言えるわけないじゃん。孝史はそれ以上何も言わなかった。沈黙は苦手だ。この距離埋めたい。
「そういや、倉田、外山になったんだってな」
 こんなこと、言いたいわけじゃないのに。
「それって気にしてんのかもしれないけど、美咲のこと、 じいが前みたいに、名前を呼び捨てにしてても、俺はなんとも思わないよ」
「へぇ、余裕あるんだ」
 言ってからハッとする。バカだ。嫉妬を声に出すなんて。
 だけど、チラッと視線を動かした俺を孝史は微かに笑みさえ浮かべた様子で、 不思議そうに見ていただけだった。
 そして。
「そんな風に見えるんだ? 結構、ギリギリのところで持ってるだけなんだけどな」
 え? 何で? 美咲にすごく頼りにされてるじゃん。だって、親の離婚は一大事だろ。 俺たち高校生って、大人に近くても精神年齢かなり低いよ。 頭で割り切ってても、どうしようもなく腹が立ったりするよ。 何でだよって叫びたくなるよ。
 涙を見せられるのは余程の相手じゃなきゃ、こっちだってキツイし。あっ、 そうか……だよな。それを受け止めるのって、かなりパワーいるよな。 孝史の言うギリギリって、そういうことなのかな?
 何も答えなかった俺に「じゃ、また明日」と孝史が帰って行く。そういや、孝史はちょっとでも美咲が俺のこと好きだったって、知ってるのかな?
 ……そんなこと考えている俺は、自己中だ。




「前から仲はよくなかったらしいんだけどね」
 バイトから帰ると,居間から姉貴の声が聞こえてきた。 いくら実家が近いからって、あんまり入り浸るのもなんだと思うけどね。
「ただいま」
「あ、友。杏ちゃんと別れたんだって?」
 姉貴は俺の顔を見るなりそう言った。情報早すぎ!
「べ、べつに俺が泣かせたとかそんなんじゃないから、姉ちゃんに迷惑かけることもないんだろ?」
「まぁね」
「それより、姉ちゃん。嫁にいった自覚あるの?  義兄 にい さんは?」
「今日は接待で遅くなるんだって。それに用もなく来たわけじゃないわよ。ね、母さん」
「電話でもよかったんだけどね」
 俺の晩御飯を用意しながら、おふくろが言葉を返す。姉貴が頬を膨らませる。でも何となく幸せそうな……。
「友、おじさんになるんだって」
「へ?」
 おふくろの言葉の意味をすぐに理解できなかった。
「今日、病院行ってたの」
「え? どっか具合でも……あ」
 そっか。そのとき、頭の中で想像してしまった。当然知らないわけじゃないし。
「なんだ、そっか。だけどおじさんはないよな。実際そうだけどさ、絶対そう呼ばせない」
「ハハッ。そうよね。”友蔵おじちゃん”って一体何歳? って感じだもんね」
「笑うなよ。シャレにならないんだから」
 くそっ。うらむぜじいちゃん。本当は兄貴がこの名前だったはずなのに、 親父が決めてたからって次に取っておくことないのにって死んだ人に文句言っても虚しいだけか。
 晩御飯に箸をつけ始めたところで、姉貴が不意に話し掛ける。
義姉 ねえ さんとこの子、同じクラスだよね」
 グッ! 急に話振るなよ……喉詰まっちゃうし。
「あぁ」
「元気してる?」
「うん。とりあえず、見た目は元気そうだけど」

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