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「俺はあんたを認めない」
 そいつはものすごい形相で、俺をにらみつけると、杏を自分の側へ引き寄せた。
 カラオケ帰り。駐車場で鉢合わせ。杏は俺の出方を待ってるみたい。
「板垣」
 美咲が側で、俺の背中をつついたけど、必死で取り戻そうとか、そんな気持ちは湧いてきそうもなかった。 何にも言わない俺を見て、杏が一瞬寂しそうに笑った。
「もういいよ。私もマジだったわけじゃないし。賢ちゃんのほうが優しいし、マメだしずっと楽。 顔だけの友君なんかもう要らない」
「杏ちゃん、そんな言い方」
 美咲の反論を、俺が止める。だって、そう言われても、仕方ない。優しさもマメさも目の前にいるこの男より、 ずっとレベルは低かったに違いない。賢ちゃんとかいうやつは、杏の腰にしっかり手をまわして、 自分の物だって主張してるようで、ダサイと思ったけど、 その反面、こいつは俺と違ってマジなんだと羨ましくなった。
「美咲ちゃんにこれ返しとく」
 杏がバッグから、がさがさと取り出したのは、見覚えのある写真。え?
「えっ? 杏ちゃんこれ……」
 驚きを隠せない様子で、美咲が慌てて写真を伏せる。 それって俺。杏が隠し撮りしたって言ってた写真。それが、なんで?
「美咲ちゃんちに遊びに行ったとき偶然見つけて。あ、コンビニの人だって。顔は好みだったから、 美咲ちゃんの好きな人が、どんな人か確かめたかっただけ」
 美咲ちゃんの好きな人? 杏、ヘンなこと言うなよ。美咲は友達で同士で、それから、孝史の彼女なんだ。 周りの奴らが、どう誤解していようと、俺と美咲の間にそんな感情存在しない……はずだ。
 言葉に詰まった美咲に、杏が続ける。
「彼氏、いるんだよね。意外だった。美咲ちゃんてすごく一途なカンジしてたから。 でもその方がいいよ。友君は、恋愛に向いてないみたい」
 断言されても否定できない。杏と付き合ってみて、初めて自分の性格に気付く。
 熱帯夜になりそうな今夜は、蒸し暑くて、風でも吹いていれば救われそうな気持ちも、どんどんよどんでいく。
 杏は、言いたいことだけ言うと、男の単車に乗せられて帰っていった。 その姿を見て何もかも負けたような気がした。何のために付き合って、何のためにバイトしてたのか?
 あいつは、見た目はそりゃ超ラブリーな彼女ゲットで、単車も、持っててさ。あれ? 考えてることおかしい。 そうじゃないだろ。
 杏が、「私の彼」だって自慢してた写真の持ち主が、美咲だったんだよ。どうなってんの?  どんな言葉を続ければいいのか、俺は迷ってそこに立ち尽くすだけで時間が過ぎていく。
 いまだ放心状態の美咲に視線を移す。そんなこと考えたこともなかったけど、美咲って美人だ。
 杏と比べるとずっと高い百六十八センチ(くらい)の身長も、長い手足も、華奢な体も。 切れ長の目に長いまつ毛も。整った鼻筋も、引き締まった口元も。
 いつも一つにまとめている髪も、そのうなじも……。 これって、変態オヤジっぽい発想。俺の視線に気付いた美咲が苦笑する。
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