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『ごめんね。何も言ってなくて』
 電話口で杏の声。かけるより先にかかってきた。
「だけど、急にどうしたのさ」
『バレちゃって……友君と付き合ってること。親に』
「え?」
 声が裏返った。カッコ悪い。倒置法を使った杏の言葉に、事の重大さをゆっくり認識した。 杏の親は、すごい義理とはいえ、兄弟なんだ。姉貴に合わせる顔がない。 いや、別にそんな大したことじゃないけど……。 どこか気持ちが入ってないから、後ろめたいのか。
 電話の向こうで杏が説明している。 別れるつもりがないことを告げると、バイトを辞めて、 成績を落とさないよう努力するならと、 認めてもらったこと。
 このまま付き合いを続けることに疑問を感じながらも、杏がそういうなら、ま、いいかみたいな気持ちで、 「ありがとう」なんて口からでまかせ言っている。いいかげんな俺。
『どうして黙ってたの?』
 ボーっと話を聞いていたので、その問いかけに反応が遅れる。
「え? 何?」
『美咲ちゃんと同じクラスだってこと』
「あぁ……別に黙ってたわけじゃなくて、忘れてただけ。 それに杏と美咲がいとこだってことも姉貴の結婚式の後、初めて知ったんだからな」
『そうなんだ。美咲ちゃん、私と友君のこと知ってるの?』
「あぁ、結婚式の話した後に、言っちゃったけどまずかった?」
『ううん。それは別にいいんだけど……何か言ってた?』
 杏の声が微妙に上がった。ような気がした。
「何かって? 別に。どうかした?」
 回りくどいな。何が聞きたいのかさっぱり。
『あのね、もしかしたら、美咲ちゃんも友君のこと好きだったんじゃないかな? なんて』
 杏までそんなこと思うのか? それに、即答。
「まさか、それはないない。美咲にも男いるし」
『えっ! うそ?!』
 杏が、予想以上の驚きの声。さすがに、美咲の彼の話まで喋ったのは失敗だったと思いながら、 訂正するわけにもいかないし、それが自分の親友だってところまで話した。
『美咲ちゃんとあんまり仲良くしないでね』
「あ? 妬いてんの?」
 ちょっとだけ嬉しくなる。俺って単純。だけど……。
『そうじゃなくて、その彼氏に悪いでしょ? それに呼び捨てっていうのもね』
「あぁ……そうだな」
 気分が滅入る。杏が嫉妬しないことにも。美咲を呼び捨てにするべきじゃないことにも。 どんどんマイナス局面に向かっているような、体と気持ちが追いつけないカンジ。どうなってるんだか。
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