そこから、五分もかからないうちに家につく。「板垣モータース」の看板。 親父の仕事は自転車、バイクの販売、修理。 俺がバイトしてる理由は、ここに並んでる。いくら親だって、そんなに甘くない。 欲しいものは自分で稼いで手に入れろってわけ。 「ただいま」 原付を車庫に入れてから、家に足を踏み入れ、気付いた。そういや、杏に美咲の話すんの忘れてた。 ま、いいか。いつでも。 居間では、おふくろが姉貴の前撮りの写真を広げて見入っていた。その写真っていうのは、結婚式の一ヶ月くらい前に、 披露宴と同じように化粧して、衣装着て、二人で撮ったアルバムの豪華版といったところかな。 最近は、わりと広まってるみたいだけど、この地域が発祥の地らしい。 結構、手が込んでいる。それでも姉貴のは、十枚綴りの分厚さでも、まだシンプルなほうなんだって。 おふくろは俺の帰宅に合わせてご飯をよそう。 「姉ちゃんの?」 分かりきったことを聞きながら、写真を覗き込む。モデル並みに気取って、ポーズとったりしているのが、目に入る。 女はいいけど、男は待ち時間が大変そう。俺は、遠慮したいな。 「亜季って、母さんに似てる?」 「さぁ? どっちかって言うと親父じゃない? 目元とか」 テレビのプロ野球中継に、夢中になっている親父に視線を送る。 「ただいま」 あれ? 兄貴。玄関から、兄貴の声が聞こえた。おふくろが「ご飯は?」と尋ねると「いらない」と短く答えて、 さっさと二階へ行ってしまった。さっきの彼女と何かあったのか? そこへ、電話のベル。 「あ、いいよ。俺が出る」 電話に近い場所にいたから、そう答えて、動かしかけた箸を置く。 「もしもし」 『あら? 友君、久しぶり。元気してる?』 「あぁ、はい」 甲高い声で、馴れ馴れしい喋りをしてきた彼女には、俺も覚えがあった。お互い、声だけでわかるのか? 妙な話だけど。 彼女とは、ダブルブッキングになった兄貴の代わりに付き合ったことがある。実は、初体験の相手。 『祐介いる? ケータイの電源切ってるみたいなんだけど』 っていうか、この辺入りにくいんだよ。 「あぁ、さっき帰ってきたとこ。呼んでくるから」 『じゃ、お願い』 二階の兄貴を呼ぶ。重い足取りで下りてきた兄貴はひどく不機嫌に見えた。 「もしもし?」 俺は、食事を再開する。おふくろはいつの間にか、自分の若い頃のアルバムを取り出してきて、姉貴のと見比べていた。 「あぁっ、またか……」 親父が、いいところで放送終了を迎えたプロ野球中継に、舌打ちをしたすぐだった。 「だから、もうそういう誘いには一切乗らないって言ってるだろっ。しつこい女は嫌いだっ!」 兄貴の声が居間中に響いた。 |