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「やだな、別にやっかみ混じりの噂だよ。男前なのに彼女作んないからってね、北川先輩と仲良かったし」
「でも、単にチョ〜面食いってだけだったみたいだし、気にすることないじゃん」
 二人組は杏に向かって、多分にひがみの混じった視線を送ってから、その場を後にした。


「ゲッ。なんか凄まじいなその二人。一個下でも顔もわかんないけど。 だから、名前知ってたんだ。……けど、ホモはないよな」
 そんな噂があったなんて、知らなかった。チョーカッコわりぃ。頭抱え込む。 杏はちょっとだけくすっと笑うと話を続けた。
「だけど、初めての彼女っていうの、ほんとみたいで嬉しかった」
「あれ? 疑ってたの?」
 付き合い始めてすぐ、前の彼女のことを聞かれて、正直に話してた。 もちろん、正式にって関係のことだけで、余計なことは言ってない。
「そういうわけじゃないけど、友君、かっこいいから自信なくて」
「それは俺の台詞。杏、めちゃ可愛いし、男友達も多いみたいだし、俺のほうこそ自信ない」
 実際、何人かの男友達の話を聞かされている。そのたび、『友達』を強調してるけど。 俺の言葉に、杏が淋しそうな顔をした。
「だけど、彼氏は絶対友君だけだからね。信じてね」
「あぁ、うん。分かってる。ごめん」
 嫉妬したみたいで、情けない。ちょっとはそりゃ、嫉妬もあるけど……参ったな。
「じゃ、あんまり遅くなるとなんだし、そろそろ帰ろ」
 先に立ち上がって、杏の腕を引っ張った。そのまま引き寄せ、いつものように軽く唇を重ねる。
「じゃ、おやすみ」
 杏が手を振る。昨日、初めて知った杏の家までは、街灯も人通りも割りとあるのでわざわざ送ったりしない。 歩いてすぐにつく距離だし。さぁ、俺も帰ろ。
 原付にまたがり、家に向かう。コンビニから少し走って、山をひとつ越えると俺の住む町。 山を下りきったところの信号は、まだ普通に作動していたけど、十時を過ぎると、点滅になる。 交通量の少ないところでは、常識。
 赤信号で止まったその斜め前に位置する「フード&リカー北川」のシャッターは、 当然下りていて、前の自販機だけが、明るい。そこに見慣れた黒い車。 兄貴のかな? 珍しい車種じゃないから、特定できない。 横向きだから、いくら視力のいい俺にもナンバープレートは見えない。
 信号が青に変わる。丁度、助手席から、背の低い女の人が降りた。 そして、運転席から男が……。あ、兄貴。
 だけど、止まるわけいかないし、そのまま原付を走らせた。女の顔は、見えなかった。
 見たところで、知らないほうが多いけれど。 お付き合いという言葉の正確な意味は、兄貴と俺とでは違うようだし。 ただ、こんな早い時間にこんな田舎にいるのは、珍しい。これから、出かけるのかな?  あまりここらで待ち合わせなんかしないのに。田舎は噂が広まりやすいから。
 いつも違う女性を連れているなんて、すぐバレちゃうから。

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