孝史の説明を聞いて、感嘆の声をあげた友人に疑問符。
「だってさー」
その説明によると、工業高校の数少ない女生徒の大半が、俺狙いだったらしいんだ。
そんなモン? おかげで、自分たちは、振られ続けていたって言う。
だけど、告られたことなんかないぞ。声かけられるのは、たいていバイト中かその辺で、
同じ学校の女には、縁も関わりもなかったのに。
「お前はいいよな、黙ってても女のほうから寄ってくるんだから。
俺たち、努力しても報われないことのほうが多いって言うのにさ」
別にもてたいと思ってるわけじゃないけど、体型や肌の手入れとかは、
それなりに努力してるんだけどな。
それ以前の問題? それは、どうしようもない。そりゃ、この顔、嫌いじゃないけど、
そんなナルシーにはなれないって。
「で、どこで知り合ったって?」
「あぁ、バイト先のコンビニだって。俺は商売敵だし、行ったことないから知らないんだけど、そんな可愛いの?」
「確かにね。私には似てないし……」
気持ちをほぐそうと、微妙な笑いを取ったつもりの孝史の作戦は、失敗に終わる。
「倉田とは、いとこになるんだって?」
「うん」
誰もいなくなった放課後の教室。
一番後ろの席に腰を下ろした孝史と、掲示用の黒板に落書きを続ける美咲の姿があった。
「大丈夫?」
「平気。こればっかりはしょうがないもん」
チョークを持った美咲の右手が、震えているのが孝史の目にも、明らかだった。
それ以上、言葉の出なくなった後姿を見て、孝史は立ち上がり、美咲の右手に自分の手を重ねる。
「ごめんね。北川君には甘えてばっかだね」
「下心あるから」
まじめな口調で喋る孝史に美咲はくすっと笑った。
俺の知らないところで、ことは、急激に進み始めたらしい。
「これ」
「ん?」
差し出された写真を見る。あれ?
「俺ジャン。しかも、これ隠し撮り?」
そこには、俺がレジに立ってる姿が写っていた。バイトが終わった後、日課のように、少し杏と二人きりになる。
あまり長くいられないけど、結構楽しい。コンビニの外。座り込んで話してる。
「……バイトに入る少し前からね、チェックしてたんだ」
杏が照れくさそうにうつむく。ちょっと抱きしめたくなった。可愛いな、やっぱ。
「で、これからどうやって?」
俺の本名ばれたんだ?
「付き合い始めてすぐにね、学校で」
杏が思い返しながら話してくれた。
〜杏の回想〜
「あっれ〜? 板垣先輩ジャン。うっそ〜、外山さんの彼氏なの?」
「ほんとだ〜〜」
知り合ったばかりの同じクラスの二人組が、杏が友達に見せていた写真を覗き込んで話に入ってきた。
「知ってるの?」
「中学同じだもん」
「かっこいいよね〜〜」
「そうそう、超イケてるよね〜〜」
二人組は、なおも話を続ける。
「だけど、板垣先輩って不憫なあだなつけられてたよね」
「だよね〜〜」
「え?」
杏が不思議そうに二人を見上げる。
「知らない? そっか、自分じゃ言わないか」
「どんなの?」
もったいぶるように二人で目を見交わしながら、杏の質問に答える。
「じいとかおじいちゃんって呼ばれてたよ。だってまるちゃんのおじいちゃんと同じ名前なんだもん」
「ギャップありすぎ〜〜ってカンジ?」
「まるちゃんって、ちびまるこちゃん?」
「そう。友蔵心の俳句とかっていってんジャン」
「それからさ、すごい噂もあったよ〜」
「あ、知ってるっ!」
「ホモ説!」
声を揃えて、二人が大爆笑する。杏が顔をしかめる。一緒にいた杏の友人も怪訝そうに二人を見る。