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ボクらの恋愛事情:第一章
 頭の中を整理しようとするけれど、クエスチョンマークの連続。
「ごめんなさい。私のせいで」
 そこに立っていた女子生徒が、ベッドの隣で頭をさげる。圭は、ホッとしたような表情を見せている。
「きっかけはそうかもしれないけど、佐伯さんだけの問題じゃないのよ。 立川 たてかわ 君、あなた、最近ちゃんと寝てないでしょ?」
 保健の先生が、ベッドに近付いてきてボクにそう問い掛ける。ちょっと怖い顔をして。ちゃんと寝てないんじゃなくて、寝られないだけなのに。
「あ……はぁ……」
 曖昧に返事をする。
「ゲームでもしてるの? 気をつけなくちゃダメよ。まだまだ成長途中なんだから、無理は禁物よ。とにかく、軽い脳震盪だけで異常ないようだし、 目も覚めたことだから、あなた達二人は、もう帰ってもいいわよ。 立川君は、もう少し寝ていく?」
 保健室の時計。ゲッ! 六時過ぎてる?? ウソッ? 慌てて体を起こしかけて、頭のふらつきに、またダウンする。このめまいは、睡眠不足から?
「牧田君、佐伯さんと帰る方向、同じかしら?」
「あぁ、えっと」
 佐伯さんという女子生徒が、圭に家がどの方向になるのか、聞いている。同じ方角のようだ。と、うん? 佐伯? 佐伯……さえき……どこかで耳にした?
 “やっぱさ、佐伯は別格だな”
 ボクの脳裏に、この前の会話が滑り込んできた。別格か、あぁ、なるほどね。分からなくはないかも。ボクはそう思いながら、佐伯さんを見ていた。確かに周りの女子生徒と比べて、成熟度は格段に上に思えた。 だけど顔はまだまだあどけなさが残るし、色気づいた話が似合う感じには見えない。こんな風に考えてるボクは多分……いや絶対、頭の中で由香ちゃんを引き合いに出してるんだな。
 結局、家が同じ方角だった圭が、佐伯さんを送ることになった。圭は、軽くボクに笑顔を向けた。これは意外といいことをしたことになるのかも? なんてのんきなことを考えながら二人を見送った。
 佐伯さんは帰り際にもう一度、ボクに謝った。何の事やら分からないまま、とりあえず“気にしないで”の意味をこめて「ううん」と返した。
 二人が去ってから、保健の先生に真相を聞く。バスケ部の佐伯さんが、後ろにそらしてしまったボールが、ボクの頭に命中した。それだけでは転ばないだろうが、 それを追いかけていた佐伯さんの体と、一緒になってボクは倒れた。つまり佐伯さんの下敷きだな。その拍子に、体育館のフロアでも頭を打ったらしい。
 脳震盪と、後こんな時間まで目覚めなかったのは、爆睡していたようだ。
 なんだか情けない。 じゃなくて!
 あぁ〜あ、由香ちゃんの姿が、今日は見られないのか。ベッドの中で深い溜め息をつくと、保健の先生は肩をすくめて笑っていた。



 次の日。
 圭は、気のせいかもしれないが、少しだけ弾んでいるような気がした。友人達が別格と噂する“佐伯さん”と一緒に帰れたことは、ある意味自慢でもあるだろうけれど、 そんなことはおくびにも出さなかった。
 そういえば、圭は友人達がする恋愛話、ボクよりは真剣に聞いているようにも思ったけれど、自分の気持ち表現してたっけ?  合わせてるだけのような気がする。今頃こんなことに気付くボクは、本当の友人はいないんだろうな。
「大丈夫か?」
 二人きりになったときに、圭が切り出した。
「あぁ、悪かったな、何か心配かけて。あの……昨日の、佐伯さんだっけ? 家まで送った?」
 好奇心か? 自分でも珍しいことだと思いながら、圭に尋ねていた。
「丁度、通りになってたからな」
「そっか」
「心配してたぞ。翼のこと」
「気にすることないのに、保健の先生も言ってたし」
 寝不足なのは確かだし。圭が、ふとボクの顔を覗き込むようにして、心配な表情?
「なに?」
 訝しげにボクは、切り替えした。
「何か悩み事でもあるのか?」
「べ……別に。何もないよ」
 悩みといえば悩みかもしれないが、そんなこと話すつもりは毛頭ない。圭がそれ以上聞かなかったので、安心した。ボクは、その時の圭の気持ちなんて到底知る由もなかったし、知ろうともしなかった。
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