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ボクらの恋愛事情:第一章
〜ボクと友人〜
 浮かれていた。浮かれているというか、浮いてるというか、気持ちはもう週末に向かっていて、ボクの心ここにあらず状態だった。
「翼、おい……翼!」
「あぁん? 何?」
「んだよ、さっきからボーっとして」
 話し掛けられても、上の空。なんとなく面倒臭い。前々から思ってることだけど、友人関係は、あまり興味がない。ただ一緒にいるだけ。
「別に……」
 ボクはとりあえずそう答えてから、友人のひとり、 牧田 圭 まきた けい に視線を移す。圭が眉間にしわを寄せて、ボクの目元を覗き込む。バレたか……。
「なぁ、それ、剃ってる?」
「……ちょっとだけ。うん」
 なんとなくバツが悪い感じ。圭は意外そうに「ふーん」と呟いてから、「イケてんじゃん」とボクの肩を叩く。そんなこと思ってもないくせに。
「色気づいて、好きなヤツでも出来たか?」
 別の友人が口をはさむ。
「そんなんじゃないけどさ」
「ま、いいじゃん」
 圭が、助け舟を出したつもりの行動。ボクはいつものように、目でありがとうを送る。圭は、ボクの兄貴分気取りだ。そしてボクもそれに応えてる。 変な関係だ。自分でもそう思う。けれど、楽だったりするこの関係。
 ボクは眉を軽くこすった。雑誌を見て、ちょっといじってみたんだ。由香ちゃんに似合う男になりたいとか、思ったりしてさ。二年の差は、大人になれば大したことないけれど、 ボクたち学生には大きな二年だ。由香ちゃんの周りにも、いい男はたくさんいるかもしれないし。女子高じゃない分、ボクの不安は増大する。このくらいの挑戦は遅いくらいかも。
 友人達は、またすぐに別の話題に切り替わっている。所詮、こんなものだ。ボクの眉がどう変化していようと、お前達には何の意味もなく単に話のネタが欲しいだけだろ。 そういう関係って、疲れないのか? そう思う癖に自分もどっぷり浸かっている。
 誰と誰が付き合ってるだの。誰が誰にコクッただの、そんな会話が耳を流れていく。同じことの繰り返し。自分だけは違うと、思うほうがどうかしてるのかもしれないけれど。 まぁいいか。そうやって日々流れていく。
 教室の時計の針が、二時限目の始業時刻を指していた。ボクらの学校は、ノーチャイム制。自主性を養うというが、役にたってるようには思えない。今もボクの周りは、 友人達で囲まれているから。そして、教師が教室のドアをあけた瞬間、のそのそと席につくのさ。そうしてまた、気だるい授業が始まる。
 ボクは友人達を見送って、というのも妙な話だが、散らばっていく後姿を見ながら、溜め息をついた。
 いつか由香ちゃんとのことが、ばれる時がきたらどうなるのか? そんなことはあまり 考えたくはないけれど、世の中にある“絶対”というフレーズほど不確かなものはない。だからその時、どう振る舞えばいいのか。ちょっと悩んだ。
 慎……由香ちゃんの弟にすら、バレていないことをボクは頭の中で、ぐちゃぐちゃ考える。 目に止まる慎の相変わらずな後姿を見て、ちょっとは勉強に気合を入れようとか思った。たった一年でもいいから、由香ちゃんと同じ学校に通えるように。 その時まで、ボクらの関係が続いていればいいけどな。
 あぁ……。ボクの思考回路は相変わらず、由香ちゃんに振り回されてるな。



「体育館行くぞ」
 放課後、いつものように主導権を握る圭が、ボクに声をかける。帰り支度と部活動の用意をして、教室を後にした。
 圭は、えらぶっているわけではないけれど、リーダー格というか、そういう適性を持っているように思う。 ただ、自分のことはほとんど話さないから、何を考えているのか、分からないことの方が多いけれど。
 校舎を後にして、隣に建っている体育館へ入る。フロアーでは、バスケ部とバレー部がすでに練習を始めていた。 与えられた小さな部室に荷物を置いて、ラケットを持って、それから倉庫にネットとピン球を取りに行く。


 気付いたら、保健室のベッドの上だった。何が起こったのか自分でもよく分からない。ただ、頭がズキズキとしていて、 圭と、誰? ちょっと美人な女の子。
「っっ……って」
「あ、まだ起き上がらない方が」
 どうなってんだ?
-5-

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