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 校舎を出ると、強く降っていた雨も終息に向かっていた。 司の家は、学校から歩いて三分程度で着いてしまう公営団地にあった。 母親もどこか出かけているようで、家の中はしんとしていた。 司の部屋に腰を下ろした渚の前に、温かいレモンティーが置かれる。
「ありがと」
 司はベッドに腰をおろす。 渚は、カップを手にとって暖め始めた。司の笑顔に弱い。 何となく来てみたものの、司の真意が読めなかった。
 自分でも、なぜ、あんな行動に出たのか、明確な答えは出ていなかった。 一口、口をつけてから司が切り出す。
「で、どうしたいわけ?」
「……」
「一目惚れでもした?」
 司は、言ってしまった自分に不快感を覚えながら、渚の反応を見るのが怖かった。
「そうじゃない」
 渚の一呼吸置いた返事に、不安と安堵が入り乱れる。
「でも、あれでおしまいだなんて考えてないだろ?」
「……」
「渚のしたいようにすればいい」
「!!」
「気になるんだろ? それが恋愛感情なのかどうか、俺にはわかんないけど、それを止めようなんて思わないし、 俺のせいで渚が躊躇してるんだったら、そんな必要ないから」
 司は、淡々と言葉を吐き出す。嫉妬心を前面に出さないように、気をつけながら。
「……」
「でも、俺もついてく」
 意外な司の言葉に、渚がやっと顔をあげて司を見た。
「俺もなんか、気になる。あいつの人を拒否したような、瞳のわけを知りたい」
「司……」
「ダメだって言ってもついてくからナ」
 司は、すねた子供のような顔を見せて、残ったレモンティーを口に流し込んだ。
「もう、飲めるだろ? あんまり冷ますと、体、温まんないぞ」
「うん」
 猫舌の渚にも、冷めたのが分かるほどぬるくなってしまったレモンティーに、 ゆっくり口をつける。司には、かなわない。どこまで自分の気持ち、見透かされてるんだろう。 そんなことを考えながら、渚は改めて司を見る。
「何?」
 なんでもないと首を振る。司が舌打ち。司のこの癖が、渚は可愛くて好きだった。
しばらくすると玄関の扉が開いてから、勢いよく閉まる音が聞こえた。
「司〜、渚ちゃん来てるの〜? おいしいシュークリーム買ってきたんだけど、一緒に食べない?」
 母親の声に、司は苦笑する。
「そんな大声出さなくたって聞こえるよ」
 渚を居間へ促しながら、文句を言う。 居間へ行くと、ころころとした可愛らしい笑顔がふたりを待っていた。
「こんにちは。お邪魔してます」
「いつもこんな、狭いとこでごめんね〜。あ、それそれ」
 買ってきた食材を冷蔵庫にしまいながら、机の上に乗ったシュークリームをあごで示す。
「母さん、ダイエット中じゃなかったのかよ」
 渚を椅子に促して、自分も椅子に座りながら、司が笑う。
「もうっ! おいしいものを前にして、それは禁句でしょ。司は要らないのね」
「誰が要らないって言ったよ。食うって」
 取り上げられたそれを、慌てて取り返す。
「食べてね」
「いただきます」
 シュークリームを幸せそうな満面の笑みで頬張りながら、司の母親が懐かしそうに話し出す。
「今日は、大変だったでしょうね、入学式。去年はとってもいい天気だったのに」
 それを聞いて、渚も思い起こしていた。

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