Esper−City

プロローグ

 未来。
 地球という惑星が、歴史上の存在となり果ててしまったほどの、遠い、未来。

 銀河系すべてを巻き込むほどの大戦争が起こり、ようやくそれが静まった頃には、一部、中央部の都市惑星をのぞき、文明、科学はその大部分を失われていた。

 また、高度文明の遺産として、現在でいうところの『超能力者』と呼ばれる人々もいた。
 彼らは、元々は、高度に発達したバイオテクノロジーの研究成果であったのだ。

 この物語の時代は、超能力者、つまり、エスパーは、ほとんどの場合戦争のための兵器として利用される運命にあった。
 軍隊至上主義の惑星では、バイオテクノロジーによってエスパーを量産することが不可能となった今、エスパーとしてその能力を発揮したものは、ただそれだけで一種のエリートとして扱われていた。
 もちろん、能力が強ければ強いほど、エリートとしての地位は上がっていく。だが、それを当人が望むかどうかについては、記録には残っていない。

 この物語が始まる場所も、そのような軍国主義の惑星のひとつだった。

 惑星「エナシュ」あるいは、「シェピュア」。
 このふたつの国家は長い間、互いの覇権を競って争ってきた。
 エナシュ側の人間は、その惑星を「エナシュ」と呼び、シェピュア側の人間は、同じくその惑星を「シェピュア」と呼んでいるほどの、惑星の名前すらも絡むほど、その戦いは均衡していた。
 が、ここ数年、その均衡は崩れつつあった。
 たったひとりのエスパーにより、エナシュが、やや優勢となってきているのだ。

 だが、そのエスパーは、自分のその地位をつねに否定し続けていた。