そ よ 風 に 乗 っ て (マネージャーの独り言)
吉沢 武久
いらない、と言う指環ですが、何度か説得するうちに、ルビーではなくシンプルなものだったら受け取ってもらえるよう
な感触を得たので、一人で大阪の宝石店ティファニーへ出掛けました。私の指を基準に一回り大きいプラチナの指環を注文
しました。店員さんから「贈り物ですか?」と問われ、少し恥ずかしかったのですが「結婚指環です」と答えました。
「それはおめでとうございます。お式はいつですか?」「7月○日です」話の流れ上、作者の誕生日を結婚式の日と偽って
しまいました。
その指環を渡す作者の誕生日に二つの心配がありました。了承を得ずに買ってしまった指環を受け取ってもらえるだろう
か、そしてサイズは合っているのだろうか、ということです。でも心配は杞憂でした。「ルビーの指環ではないけれど・・」
といって差し出すとサイズはぴったり。「ありがとう。嬉しいわ」と何の文句も言わずに受け取ってくれたのでした。
結婚式当日はまだ社会人となっていなかった私は、婚約指環も結婚指環も用意できませんでした。結婚して数年後に、
寺尾聰さんが歌う「ルビーの指環」という曲が大ヒットしました。その曲のワンフレーズ、「そおね、誕生石ならルビー
なの」を耳にする度に、いつかは作者の誕生石であるルビーの指環を贈ろう、と心に決めました。その「いつか」が30
数年過ぎて、実現可能となったのです。
「還暦祝いに結婚指環としてルビーの指環を贈りたい」と申し出ると、作者は少し間を置いて口を開きました。
「私の指はあなたより太いし似合わない。それに指環はそんなに欲しくないの」作者に断られるとは想定外のことでし
た。それでも長年心に決めていたことだけに、簡単に引き下がるわけにもいきません。了承を得ずとも、買ってしまえば
良いのですが、指環のサイズが分かりません。そこで、「俺の指より太いって、そんなことはないだろう。手を見せて」
と言って、二人の手を合わせてみました。確かに私の指の方が長く、細いように見えますが、ほとんど同じか僅かに太い
ことが分かりました。
コロナ禍の自粛生活が長引いています。友人知人と会う機会も以前よりずっと少なくなりました。たまに会うと
「コロナ太りしちゃったよ」という話をよく耳にします。アトリエ作者も苦手な夏にヒザの不調も加わって、外出
することがほとんど無くなりました。よって、例に漏れずコロナ太りの可能性も多いに有りです。
でも、身長は当然ですが、体重もまだ私の方が勝っています。靴のサイズも作者23センチ、私26センチです。
ところが、体のサイズで一つだけ作者の方が大きいものがあります。それは指の太さです。
そのことを知ったのは、作者が還暦となった12年前のことでした。作者の還暦祝いに何が良いか、いろいろと
考えを巡らし、出した結論はルビーの指環だったのです。