「そよ風のアトリエ」を作成するに当たって参考としたものがスポット・アサである。朝日新聞読者に向けて毎月
1回発行される数ページの情報誌である。このスポット・アサのトップページでアトリエ作者は絵とエッセイを2年
程、担当していた。「そよ風のアトリエ」が始まる7年前、1995年4月から連載が始まっている。原画はカラー
であるが、誌面には白黒で印刷されていたため、その絵の表現力は半減というところか。上の絵は1996年6月号
のものであるが、エッセイを読むとその2年前に描いたとある。よって今から24年も前の作品である。
【 この絵は、2年前の梅雨の季節に描いたものです。きっかけは、その頃20才だった長女がとても
眩しく感じられるようになって、近い将来この子はウエディングドレスをまとって私たちのもとを
離れるだろうと予測していたからです。慶びの日が来たら幸せを託してこの絵を贈ることにしよう、
そんなことを考えていました。
予想は半分あたり、半分はずれました。娘は長いこと抱いていた夢を実現させるために巣立ったか
らです。昨年の今頃、スチュワーデスの試験を受けるために上京したいと相談されたときは戸惑い
ました。ご存じ、世の中は就職の超氷河期時代。なにもこんな時にわざわざ狭き門に挑まなくても、
と口まで出かかった言葉を呑み込みました。「若いうちは、いろいろなことにチャレンジしなくっ
ちゃ!」と励ましました。だって私を見つめる瞳からは、何か新しいことを始めようとする者だけ
が持つ高揚がひしひしと伝わってきて、そう言わずにはいられなくなってしまったのです。
ありがたいことに受験した航空会社は娘を必要としてくれました。こうして22年の歳月を共にし
た愛娘は親元を離れ、1枚の絵が残されました。梅雨が明けて夏空に虹が架かる頃、憧れの制服に
身を包んで彼女は初フライトに飛び立ちます。 】
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