「直江・・・。」 やっと帰ってきた。 もう何に縛られる事も無い。誰の為でもない。オレは、オレが生きる為にお前が必要なんだ。 仰木高耶の絶望はここから始まる。 ― 朝、目が覚めて直江が其処にいる。 あいつは必ず俺よりも先に起きて、モーニングコーヒーを作ってくれる。 「おはようございます、高耶さん。」 「・・・なおえ・・・あと・・・ごふん・・・・・・。」 極自然に甘えた声が出る自分を不思議とは思わない。直江だからそうなんだ。 「そうですか。では、今日の朝食は私が作りますよ?」 知らない人が聞けば、脅しとも取れないだろう脅しを優しくかけられて、初めて目が覚める。 直江は他の事なら何でも出来るくせに、料理だけ下手だ。 言わせてみると、「栄養が摂取できれば良いんです。味は二の次です。」と言うことらしい。 そのくせ、外に食べに行くと味にうるさい。グルメの何たるかを知っているのだろう。 テーブルを挟んで朝食を食べていると、手が伸びてくる。 俺の唇にそっと、でも力強く触れる。そんな時、オレの鼓動は少し強くなる。 「ケチャップ、付いてますよ。」 万年発情期のくせに、こんな時だけ無邪気な顔で、オレの唇に付いたケチャップを、太い指でふき取ろうとする。 許せないから、唇に含んでやった。指先に舌を絡ませてやった。 それなのに。 「朝ごはんを食べ終えたら、散歩に行きましょう。」 だって。 完璧すぎる。 オレが、焦れる事を知ってる。 夜が、熱くなるのを知ってる。 知ってるけど、気付いてない。気付かずに、そういう選択が出来る、直江。 完璧。 オレの望んだ直江。 ― |