田中家住宅
Tanaka



 
町指定文化財 (歴史民俗資料館)
熊本県上益城郡矢部町下市

九州地方では江戸末期より各地で数多くの石橋が造られるようになったが、現在でも単に文化遺産として残されているだけではなく、その多くが現役で使い続けられている。そんな石橋の代表格を尋ねられたならば、多くの九州人が矢部に在る通潤橋を挙げるに違いない。水路橋を兼ね、大きく優美なアーチ上面から左右に円弧を描きながら放水される様は他には無い美しい景色である。
ところで、この著名な橋の袂には「道の駅」や「資料館」が設けられ、観光客のざわめきがかまびすかしい限りであるが、その脇に追いやられるかのように寂しく建つ茅葺の民家が在る。残念ながら殆どの観光客は、その存在に気付かないかのように立ち寄りもしない。
しかし多少の民家好きであれば、平行三棟造(通称・三ツ家造)と呼ばれる独特の形状をしたこの民家の希少性はすぐにお判りいただけることと思う。土間棟・表棟・座敷棟の三棟が平行に建ち並んで一軒の家を成しており、それぞれの建物の軒が接する部分には竹製の雨樋が設けられており、屋根を伝い落ちる雨水を背面に逃がす工夫が見られる。
表棟には板敷きの居間、座敷棟には前後に仕切られた座敷がそれぞれ設けられており、この居間と座敷の境界部天井に雨樋が通っているのである。何とも乱暴な造りである。
当家はそもそもは矢部町長田に所在していたものらしいが、この独特の造りは強い谷風に耐えるための工夫だとされている。観光で訪れる際には通潤橋も良いが、こうした民家にも是非、目を向けて欲しいものだ。


 

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