STAGE20.アラムートの城砦

 T.

レティシアは、一度軽い溜息をついて気持ちを落ち着かせてからそのドアをノックした。

部屋の中から若い男の声が返る。

トリスタンこと、フィクス・トリシュトラムである。

レティシアは彼が苦手であった。

その理由としては、彼がまわりとは一風変わった熱っぽい目でこちらを見ている事、必要以上の好意を自分に求めている事。

それらの事実がありながらも、レティシアはトリスタンの想いにはっきりとは気付いてはいなかったが。

「…レッティ?」

トリスタンは、レティシアが自身の部屋を訪ねて来てくれる事を考えてもみなかった様で、目を軽く見張った。

「殿下、ちょっと…いいですか?」

トリスタンはすぐさま彼女を部屋の中へと招き入れた。

心から歓迎しているようで笑顔の途絶える事も無く、いそいそと紅茶を入れてくれたりもする。

彼の部屋は他の者たちの部屋よりも少しだけ質の良い調度品が揃えられた部屋になっていて、クッションの効いた椅子はレティシアを戸惑わせた。

トリスタンがカップを温めているのを確認して、すっと椅子を立って何気なく回りを見回した。

目を走らせたベッドの枕元に、用兵の指南書を数冊見つけたので、それを手にとってぱらぱらと開いた。

「レッティ、…あ。」

トリスタンはレティシアの手に、自分が読んでいた書物を見つけて照れ笑いを浮かべる。

「勉強家なんですね。」

「必要なものはエストラーダに教えてもらっていたと思っていたが、まだまだなのでね。…サラディンとアッシュの御推薦図書さ。」

「エストラーダ?」

「私が少年だった頃の人生の師だ。…ある事件がきっかけでもう会う事も叶わなくなったが。」

トリスタンは翳りのある微笑を窓の外に向ける。

見えるはずもない思い出がそこにあるかのような優しい瞳で。

「……。」

「と、すまないな、こんな話を聞きに来たのでもないだろう、さ、暖かいうちに飲もう。」

レティシアはトリスタンの入れてくれた紅茶に口をつけた。

他愛も無い話とトリスタンの笑顔につられて笑っていたレティシアがゆっくりと唇を引き締める。

「明日の城塞攻めの総指揮官、反乱軍の指揮をトリスタン皇子に委任したいと考えています。」

トリスタンは驚きもせずに至極真面目な顔でうなづいた。

「…君がそう言って来る予感がしていた。だが、私ではどうにもならない部分が多々ある。しばらくは君が、私の側についていてくれないか。」

レティシアは少々間を置いてから頷いた。

本当はウォーレンとランスロット、そしてアイーシャを彼に付けるつもりでいたので自分は必要ないと思った。

しかし、よくよく考えてみればウォーレンは目的のためにやや手段を問わない傾向がある。

ランスロットは盲目的ではないものの、臣下としてかくあらんと従属の道を選ぶ。

いざという時にトリスタンに意見する者がいないのでは、僅かに不安があった。

「ならば、良い。」

「作戦はもう頭に入っていますね?」

「ああ。しかし戦局というのは変化するものさ。もしもの時には私の指揮ではなく君を選ぶ者がきっと出て来る。…私にはまだそこまでこの軍に影響力を持っていないよ。残念な事にね。」

トリスタンは聡明であり、その言葉は正鵠を得ていた。

レティシアが皮肉な笑みを浮かべて紅茶のカップを静かに下ろした。

「お互い、苦労する。」

「はは…そうだな、レッティにはレッティなりの、私には私なりのね。だが。」

ぴん、と空気が張り詰めた。

「1人では無理でも、2人でならばそれを補い合う事が出来ると、そう思わないか?」

「…………。」

その意味がわからないほどレティシアは幼くなかった。

そして上手にかわせるほど大人でもなかった。

その言葉に一瞬強張った表情が、意味を正確に受け止めたことをトリスタンに知らしめる。

トリスタンは、もともとは彼女の変化を待つつもりでいた。

だが前回のやり取りで再確認したが、トリスタンは、自分で思っていたより深く彼女を愛している。

この戦いが終わった暁には、自分が彼女を王妃として迎え、共に喜びを分かち辛苦を舐め、歩んで行きたいと真面目に思っていた。

彼女を独占したい、抱きしめたい。しかし彼女を想う男も多い。

トリスタンは焦っていた。

焦ったために、つい事を急いてしまった。

落ちた沈黙に困惑の色を読んだがもう後には引けない。

いたたまれなくなったレティシアが口を開こうとした時、トリスタンの手がレティシアの手を強く握った。

「レッティ…私は君にはじめて会った時から……。」

 

U.

レティシアには天の助けであった。

トリスタンの言葉を遮るようにドアがノックされ、緊張の糸をぷつりと切る。

「殿下、いらっしゃいますか?」

トリスタンはじっとレティシアを見つめ、ややあって溜息をついてその手を解いた。

「…入れ。」

「失礼します。」

トリスタンの従者、ケインがラウニィーを連れていた。

2人は、部屋の中の意外な人物に僅かに目を見張ったが、ふっと微笑んで軽く会釈をする。

「紅茶をご馳走様。邪魔をしました。」

レティシアはラウニィーとすれ違う際に女同士の気安さでもう一度微笑んだ。

トリスタンは名残惜しげにレティシアの後姿を見つめて、心の中で嘆息した。

 

レティシアはそのまま部屋には戻らずに灯りの落ちた訓練場に向かった。

とにかく、何もかもを振り切るようにギリギリまで身体を動かして眠りたかった。

突然目の前で変化した日常が、レティシアの中の何かを急かしているようでいてもたってもいられなかった。

知らなかった、いや知りたくなかったのだろう。

トリスタンがあんなに真面目に自分の事を想っていてくれた事を。

自分にはその想いに応える事は出来ない。

なぜならもうランスロットただ1人に恋焦がれてしまっているから。

誰も入り込む隙間など残されてはいなかった。

なのに、トリスタンの真摯な想いがレティシアを狂わせる。

無かった事にはきっと出来ない。

受け入れる事はもっと出来ない。

レティシアは誰かが放置した木剣を手に取ると、2度深く呼吸をしてから振るい出した。

突然ゆらり、と影が動く。

レティシアがそれに気付いたのはギリギリの線であった。

辛うじてそれを防ぐと、木剣同士が打ち合ったときの甲高い音があたりに鐘の様に響く。

影、は何も言わずに何度も打ちかかって来た。

レティシアより夜目に慣れている様で、暗い訓練場の闇をものともせずに襲い掛かって来る。

太刀筋に覚えは無かったが、殺気ではなく闘気である事から反乱軍の中の誰かだろうと思う。

―――強い。

レティシアは剣を合わせるうちにとても楽しくなっていた。

しかし相手の顔が気になるのも確かである。

じりじりと相手に気付かれないように場所をずらして、窓の下に相手が立つようにした。

今は月も雲に隠れ、闇の只中であるが、運が良ければ相手の顔を見る機会もあるだろう。

そしてレティシアの思い通りに、黒い雲に覆われていた月が僅かに姿を現すと、その青白い光に照らされ、金の長い髪が不意打ちのように現れた。

途端に思い出したトリスタンの告白にレティシアの集中力が一瞬霧散し、驚愕の余りに足元の注意を怠った。

「うわっ!」

「!!」

何かを踏んでバランスを崩したレティシアを、男は支えた。

広い掌、しなやかな腕の筋肉に、自分のいつもより上下する肩に納得しながらも、相手が誰かを確信する。

「…すまないな、悪ふざけが過ぎたようだ。怪我はないか?」

「デボネアだったのか。大丈夫だ、それより何故こんな夜中にこんな場所に?」

デボネアはレティシアから身体から手を離すと、持参のカンテラに明かりを灯した。

相手の顔が見えるようになって安心するように表情が柔らかくなると、その場に腰を下ろす。

レティシアもそれにならった。

汗が滲んだ身体には、訓練場の冷たい床は気持ちが良かった。

これがランスロットだった場合、自分のマントをはずしてその上に座るようにしてくれただろうな、とレティシアは関係の無い事を考える。

「先程の質問だが、オレが先に此処にいたんだよ。どれだけ自分の身体が回復したかを確認して、明日に臨むつもりでいたんだ。」

始めは淡々と答えていたデボネアが、剣の事を語るあたりで深い尊敬の念をこもらせた。

「そうしたら、余裕の無い顔で君が飛び込んで来て…それでもあの動きは流麗だった。とても美しい太刀筋だ。オレは君が剣を振るうのを間近で見たのはこれがはじめてだったし、しばらく見ていたら…つい試合たくなった。」

「私も、やりあっている時、凄く楽しかった。」

「それは、ちょっと微妙な誉め言葉かもな。」

デボネアは苦笑をもらす。

レティシアは本心からの言葉なのでその意味を図りかねたが、デボネアに言わせると、彼女よりも闇に目が慣れていた分自分の方が有利だったはずなのに、それでも互角の戦いを演じた。

ではこの場に光があった場合、あしらわれたのは自分の方だったのではないか?と自尊心を刺激される。

実戦と訓練は違う。

この場の勝敗など余り関係ないことであるとは重々承知の上だったが、それでも彼女の強さには苦い敗北感を感じさせられた。

「…で、レティシ…」

「さてと、もう汗を流して寝る。明日は早いからな。」

デボネアの言葉をわざと途切らせてレティシアは立ち上がった。

「何か言いかけたか?」

「いや、いい。おやすみ。」

デボネアは触れられたくない事なのだろう、とそれ以上の追求を避けた。

女伊達らに大軍の率いる彼女の事だからそれは色々あるのだろう、と勝手な解釈で彼女を送り出す。

「おやすみ。明日はよろしくな。」

 

V.

翌朝、出陣の用意を滞りなく整えた反乱軍は、西に見えるダルムード砂漠の一部を見ながら作戦の最終確認をして、それぞれのルートへ進行を始めた。

今回から旗頭となるのがレティシアではなくトリスタンだという通告は反乱軍をざわつかせたが、彼の威風堂々とした立ち振る舞いや、これまでの戦績、そして血筋等を考慮して反乱軍の大半は、それを素直に受け入れた。

それと同調するように海を挟んでこちら側、反乱軍のスタート地点となるリベラルタードがある大陸・旧ホーライ王国、海の向こう側・旧オファイス王国でゲリラ活動をしていた中小規模なレジスタンスたちの蜂起が起こる。

反乱軍は既にそれらを飲み込み、巨大な一勢力となっていた。

トリスタンはそれらを上手くまとめ、やや基本通り過ぎるきらいがあるものの、的確な指示を出している。

生来の度量、そしてそれに奢らぬ真面目な性格が成さしめる技である。

あざやかな手腕で次々と街を開放して、オファイスに見える大きな町の荒ワシの城塞、アラムートの城塞をすばやく追い詰めた。

 

レティシアは余りやることが無いな、とぼやくと前線に出る旨をトリスタンに告げてギルバルドたちと共に前線にいた。

「大したものだ。」

そのレティシアの感嘆を聞きつけてギルバルドがにやりと笑う。

「殿下を旗頭に推薦した本人だろう、貴殿は。」

「確かにそうだが、私の初陣より堂に入っている。」

「フム、そうなのか?だが殿下とレッティ殿ではタイプが違う。どちらかと言うと、レッティ殿の戦略は少人数でのゲリラ戦に向いている。大人数を把握するには少々性格が細かいな。しかし女性にしておくには勿体無い。」

最後の一言は、ギルバルドが本当に伝えたいことがとても伝わりにくい賞賛の言葉だったが、レティシアにはなんとなくわかった。

考えてみれば、ギルバルドも反乱軍結成直後に仲間になったようなものだから、付き合いはそこそこ長い。

「ありがとう。真偽の程はともかくとして、誉め言葉として受け取っておくよ。そう言えば、余談になるが。」

レティシアは風に絡む髪を抑えてギルバルドへ微笑んだ。

「私はこの辺に住んでいたことがあってな。」

「ほう。レッティ殿は旧ホーライの出身であったか。」

「生まれはゼノビアだ。私に兄がいたのをカノープスからどうせ聞いているのだろう?その兄が、カストルとポルックスの事を「カスとクズ」などと悪し様に言っていたよ。」

「上手いことを言う。」

ギルバルドが笑うと、レティシアも一緒になって笑った。

彼ほど鈍感な男も、最近のレティシアが日に日に魅力的になっていっているのを感じていた。

朝露を受けてつぼみを緩やかに花開くように、レティシアは女性として可憐に変化している。

もちろんそうなった原因についてはさっぱりだったが。

「そろそろ"仕掛け"を作りに行こう。」

デボネアの呼びかけにレティシアとギルバルドが口元を引き締めた。

「名演技を期待しているよ、主演女優殿、名男優殿。」

「デボネアもな。」

我々は数度の敗戦を装い、両将軍を足場の悪い、南の砂漠まで誘い出す手筈を取ることにした。

ジャイアントとのハーフともいわれている強靭な体躯にはかなり苦労をしそうだ。

とにかく、相手を砂漠に誘い出す事が出来るか否かが勝負の鍵を握る。

だがカストルもポルックスも(戦略となればからきしであるとされてはいるが)深追いには用心するだろう。

それを砂漠まで誘い出すとなるとこちらにも細心の注意と演技が要求される。

「演技…役者…、ねぇ…。」

カノープスが嫌なことを思い出して一人顔をしかめた。

 

W.

土煙を上げながら、一団は疾走していた。

「誰だ、図体がデカイ奴は足が遅いとか言った野郎はッ!?」

「お前だ!お前ッ!」

レティシアはカノープスへ怒鳴った。

思った以上にカストルとポルックス将軍は頭が悪かった。

敗戦を装った、その1度だけで、好機である!と言って何処までも喰らいついてくる。

将軍が留守にした要塞はトリスタンの指示の元、すぐに陥落される事だろう。

一応作戦は成功なのだが、予想していなかった効果なので多少慌てていた。

その上彼らの足は速いので、こちらも全力で駆けている。

「待て、戦士ならば戦え!」

「そうだ、兄者の言うとおりだ。戦おうではないか!」

「こちらとしても殺生は辛いのだ。」

「だが帝国に刃向かうやつらを許すわけにはいかんのだ。」

『さあかかって来い!』

もう少し走れば、金の粒が舞う砂漠地帯だ。

しかし本能的に砂漠を危険と判断したか、手前で両将軍の歩みが止まった。

レティシアらは鋭く舌打ちをする。

「野生動物め…。」

しかし、ここで城に撤退されるのも都合が良く無いので、後は戦いながら上手く誘導すればよいだろう、とレティシアは聖剣を構えた。

「やっと戦う気になったようだぞ、兄者。」

「やはり、ここは戦士らしく挨拶をするべきだろうな。」

「うむ、もっともな話し。流石は兄者だ。」

「反乱軍の勇士たちよ、我ら兄弟が相手だ。さあ、行くぞッ!!」

「来いってんならさっさと来やがれッ!!話が長ぇんだッ!!!!!」

カノープスの苛々は最骨頂に達したようで、怒鳴りつけてからすぐサンダーアローを放った。

カストルが片手の手甲でそれを弾きかき消す。

続いてギルバルド、レティシアとデボネアも打ちかかる。

少しずつ少しずつ後退しつつ砂漠に誘い出す。

そしてついに両将軍の重い身体が砂の柔らかさに崩れるように傾いだ。

その隙を活かして、ギルバルドの鋭い一撃がカストルの目を打ち抜く。

眼球は容易く潰れて、硬く閉じられた目蓋からは血が溢れていた。

「兄者!おのれ、よくも!」

カストルがギルバルドへ掴みかかる。

レティシアは僅か数ミリの手甲の隙間に聖剣を滑り込ませてその肌を深く切り裂く。

カストルは左手首を斬り落されて痛みにうめき後方へ飛び退った。

「…!」

想像以上に容易く事を成す事が出来た事によってレティシアは気づいた。

聖剣の威力が増しているということは、この近くに聖剣に引き合うもの、つまりはカオスゲートがあるのだろう。

共振が無い事で油断していたが、そう言えばフェンリルとスルストがこの辺にもカオスゲートがあると言っていた気がする。

「兄者、今こそあれを!」

「ジェミニアタックであるな。」

「そうとも、奴等を蹴散らしてくれようぞ。」

「皆、気をつけろ!」

『ジェミニ・アターック!』

「うわっ?!」

カノープスはうなじの毛が逆立つような悪寒で、咄嗟に空中へ舞い上がった。

その足元へジェミニアタックが炸裂する。

たったの一撃で、その場には大きなクレーターが出来た。

「おのれこしゃくなり。」

両将軍は、再び構えを取った。

次はレティシアへ向けて。

『行くぞ!ジェミニ・アターック!』

突進してくる兄弟を軽くかわして、レティシアはその背後へと回り込んだ。

その動きを読んでいたデボネアがフォローに回り、カストルを襲う。

レティシアの剣は容易くポルックスの片足を膝から切断した。

ポルックスの絶叫に、ギルバルドとカノープスの攻撃が重なる。

その体躯が強靭だと言っても所詮は生身、ポルックスはついに意識を奈落の底へと落し、二度と目覚めることは無かった。

レティシアはポルックスの死を確信するとカストルへと向き直った。

丁度、デボネアと自分でカストルを挟む位置にいる。

「レティシア、駄目だ!風が変わる!」

デボネアの言ったとおり、突風が吹いた。

砂嵐が起こり、風下に立つ格好になったレティシアから視界を奪った。

カストルは機を得たり、とレティシアに一撃を見舞う。

気配を察して咄嗟に身を捻った。

「レッティ、手を出せ!」

カノープスの声に、レティシアは手を伸ばして、それを掴む。

しなる鞭の強打音が響く。

ぼろぼろと砂を流すための涙をこぼし、レティシアは目を擦りたい思いに耐えた。

なんとか目が開けられる状態になると、デボネアとギルバルドの2人がカストルを打ち倒したところであった。

「レッティ様、大丈夫ですの?」

アイーシャが心配顔で顔を覗き込む。

デボネアとギルバルとはカストルの死を確認してから駆け寄って来た。

肝心な時に役立てなかった事にレティシアは恥じ入る。

「さーて、予定位置まで誘い込めなかったけど、もう少し先行けばラウニィーやサラディンが待ってるんだろ?ちゃっちゃと行っておこうぜ。翼に砂が入り込んでて気持ち悪ィや。」

さっさと水浴びでもしたい、と先を急かすカノープスに皆笑った。

レティシアが数歩踏み出すと、突然、レティシアの足元を中心に魔法陣が現れた。

全身からザァっと血の気が引く。

カノープスとアイーシャは、これが何であるかは以前に経験して知っていた為、渋面になりながらも覚悟を決めた。

ほのかな白い光が次々に足元から生まれ、空へ昇って消えていく。

一緒に空へ吸い上げられる感覚に戸惑って、何事かとデボネアとギルバルドがあたりを忙しなく見回した。

「…!!」

レティシアは僅かに耳に届いた声にばっと空を見上げた。

グリフォンの背に乗る騎士の鎧が陽光を跳ね返して鈍く煌く。

「レティシア殿!」

「ランスロット!」

咄嗟に、まだ遠いランスロットの方向へ手を伸ばす。

魔法陣の白い光は輝きを増し、聖剣もそれに呼応する様に光り出した。

神々しい光に包まれ、血の匂いが漂う砂漠に巨人2人を残し、5人の姿が掻き消えていく。

ランスロットの指がレティシアに触れる直前。

聖剣から、一段と眩い光が生まれ、天へ昇った。

最後の浮遊都市、滅びの都・シグルドへ―――。