STAGE10.ガルビア半島

 

T.

ガルビア半島は大陸の中でも南に位置しているのであるが、この時期、全体が雪でおおわれている。

これは25年前の大戦争で、凄まじい魔法の行使が生んだ時空の歪みが原因であると、魔法に精通した者から発表されている。

そして、この地を治めるのはブロスという男であるが、数日前にラシュディと四天王の一人であるフィガロ将軍がガルビア半島に入ったという情報がある。

その理由として、帝国がカオスゲートを嗅ぎ付けたという見方が有力視されていた。

もちろんそれが偽情報だった場合、帝国側の情報操作に躍らされた結果となってしまう訳だが、ウォーレンがその可能性を打ち消してくれた。

後方に不安を残したまま進軍して命取りになってもいけない事を考慮して、多少の手間は仕方あるまいとディアスポラまで進んだ反乱軍は、一路反転してガルビア半島を目指す事にした。

…ノルンの話によるとフィガロ将軍は、古代天空人が作り上げたと言われている名剣、暗黒剣『デュランダル』の使い手である。

四天王の中では最も剣技に優れた将軍であり、同じ四天王の一人デボネア将軍の親友でもある。

その高貴な物腰から、元は小国の王子だという噂もある男だ。

四天王の指揮力、戦闘力はデボネアで思い知っている。

生半な戦力では乗り越えられまい。

その上、ゼテギネアの宮廷魔術師ラシュディもいるとなれば、苦戦は必至。

敗北の濃厚な気配すら漂う。

…というのも、ゼノビアという国は、あまり雪の降らない温暖な地域である。

それとは違い、ハイランドは1年の半分以上が雪に覆われる寒波厳しい地域であり、雪上の戦いに長けている。

フィガロが率いて来た帝国軍兵士の多くは、寒さに強い者ばかりハイランドの精鋭たちである。

こちらも不安要素を少なくする為には十分な用意が要求された。

だがこちらも、ディアスポラの監獄を開放した際に、捕えられていたレジスタンスたちが反乱軍に参加する事を希望し、反乱軍の勢力は今や帝国には無視出来ないまでに急成長をしていた。

 

U.

「捜索隊を組織して、カオスゲートの発見をしようとしても無駄か。」

「せめてどこら辺にあるって古文書の一つでも残ってりゃあなー…。」

レティシアはカノープスのぼやきに笑った。

カストラート海で気が済むまで付合ってくれたカノープスに、レティシアは好意を持っていた。

その好意は兄へのものに近く、決して異性としての好意ではない。

もともと兄が生きていた頃には今のような口調ではなく、女性らしい言葉を使っていた事もあり、つい2人きりで話しているとそういった言葉遣いになってしまう事があった。

「私が聖剣お供に、全国各地を歩き回ればいいんじゃない?」

「やってみるか、賞金首?」

帝国から発布された手配書では、レティシアの首には300000Gothという桁外れな額が懸かっていた。

「遠慮するわ。」

ノックの音に、レティシアは一つせき払いをして気持ちを入れ替えた。

入ってきたのはランスロットだった。

「レティシア殿、情報が入った。魔導師ラシュディがこの辺境を訪れた理由は、やはりカオスゲートの封印を解く為だったようだ。」

「何だと?その鍵になると言う聖剣はこっちにあるんだぜ?」

カノープスのもっともな疑問にランスロットは苦りきった顔で微笑んだ。

「ラシュディは強力な魔力の持ち主だ、不可能だとは言いきれないな…レティシア殿?」

「え?なんでもない。」

ランスロットの、意外に長い睫毛を見ていたレティシアは、慌てて頭を回転させる。

「となると、やはり帝国より早くカオスゲートの発見をしなくてはな。もっとも、ゼノビア城の解放以後、各地で反乱が多発しているからそれらをまとめて鎮圧する為に、帝国は我々をも狙って来るだろう。…いろいろと厄介だな。」

「ラシュディの野郎は三騎士が返り討ちにしてくれりゃ、こっちは楽でいいな。」

もともとこの大陸の戦乱に天空の島は関係ない。

楽天的に言ったカノープスを、レティシアとランスロットが同時に睨みつけた。

 

V.

「さすがに冷えるな…。」

レティシアがエステルスンドの街で白い息を吐いてそう言った。

身体を冷やさないように、とランスロットたちが大量の防寒着を彼女に勧めたが、レティシアはそれを辞退した。

レティシアの"売り"は、パワー不足を補うスピードと自負している。

着膨れてその長所をスポイルしかねない可能性には目を瞑る訳にはいかなかった。

帝国の精鋭と呼ばれる者たちに加え、フィガロの指揮力、そして雪に反乱軍は苦戦を強いられた。

雪上においての進軍と戦闘が、こんなに辛いものとは予想もしていなかった。

「慌てずに、足場を確保しながら進め。多少時間を要するのは仕方がない!」

今からこうではゼテギネアと言う雪国に攻め込むのが思いやられる。

大空部隊の翼をアテにしていたのだが、ギルバルドから、翼が凍る恐れもあるからあまり無理はさせないでくれ、と忠告が入る。

体熱で雪を融かしそれが寒さによって氷と化すのだそうだ。

陸上を行く部隊中心に編成を組み、2ルートに分けての進軍が開始された。

「レティシア殿、この先のベルゲンで一度休息を取ろう。貴方は今まで暖炉を皆に譲ってあまり身体を温めていないだろう。」

「そんなことはないぞ。」

言いながら、ランスロットがよく自分を見ている事を自覚せずにいられなかった。

しかし、かじかんだ指先にはもうかなりの時間、間隔がないこともあり、レティシアはそれを受け入れた。

"凍傷"という症状で血の通わない四肢を切り落とした事例をウォーレンから聞いていたからである。

ランスロットが持ってきた毛布に包まり暖炉の側で暖をとりながら、レティシアはガルビア城の方向を眺めた。

もちろん見えるはずも無い。

「…ランスロット、一寸いいか?」

声を潜ませたレティシアに、ランスロットは耳を近づけた。

「ラシュディがもしガルビアにいた場合、私は命を賭ける事になる。もし私が死んだら影武者を立てて、一刻も早くトリスタン王子を擁するんだ。それで反乱軍の空中分解は阻止できるはずだ。」

多分、ウォーレンだけはこの可能性に気付いているだろうし、同じことを考えているはずである。

だがランスロットはその一言に総毛立つ程の怒りを覚えた。

「馬鹿なッ!貴方なくして、反乱軍に未来など…ッ!」

「ランスロット!ゼノビアの行く末と小娘一人の命を混同するな!!私が命を落としたとしても、“我々反乱軍”は立ち止まってはならないッ。」

レティシアは正しい。

言い返す言葉を捻り出せなかったランスロットは不承不承怒りをおさめ、声を荒げた事を詫びた。

「相手は魔術師で、私は戦士だ。相性が悪いんだ。でも、現時点で奴を倒せるのはタロットの魔力だけだと思う。だから、私がやるしかない。」

「そのタロットは、他の者には使えないのか?」

くいさがるランスロットに、レティシアの唇に淡い微苦笑が宿る。

「わからない。それにこれは、私に残った唯一のサイノスの形見だ。取り上げるのか?」

形見、と言う言葉にランスロットがすっと顔色を変えた。

「……。貴方の命には代えたくない。それならば貴方に恨まれる事になったとしても私が…」

「随分と私が死ぬ可能性に賭けているようだが……いや待て。そう言う事を話したいんじゃない。ランスロット…」

「貴方は、私が命に代えても護る。」

こぼれそうなくらい見開いた瞳が、やがて細められる。

「わかった…、もう言わない。」

暖炉の中の炎がはぜた。

「だけど!私を護る気なら、どんな事があっても生き延びてくれ。そうでなければ、助けられたって…辛いだけだ。」

彼女が家族を殺された過去を持つ事を思い出して、ランスロットは自分の不用意な発言に自己嫌悪を抱いた。

「不用意に貴方を傷つけた。すまない。」

「傷つける?ランスロットが私を?」

今までそんな事は一度もなかった。

優しく綿で包む様に、ランスロットはレティシアを大事にしていることは、周知の事実である。

「ランスロットの言葉にはいつも力付けられているよ。」

なんだろう、嬉しい。

ランスロットの言動は、反乱軍の為を思っての事であることは重々承知している。

それでも。

 

W.

ガルビア城へ一番先に辿り着いたのは、ノルンが率いた部隊であった。

もともと北国ゼテギネアの出身である彼女は雪上の移動に長けている。

「フィガロ将軍!」

城門の前に立ち、声を張り上げる。

「フィガロ将軍、聞こえておりますか?ノルンです!!私は戦いに参ったわけではありません!」

「ノルン様ッ!?」

彼女が寝返るのでないかと危惧したヴァルキリーのリプリーは槍を握り直した。

「フィガロ将軍、どうか私の話を聞いて下さい!!開門を!」

見張り台から兵士が見え隠れした。

どうやらノルンを見知っているらしく矢を射掛けられないでいる。

しばらく呼び掛けた末に、城門の上から金髪の見目麗しい男性が顔を覗かせた。

その細身だがしなやかに筋肉が発達している身体からは戦士らしい気風も伺える。

「ノルン…何故君が反乱軍に?奴等はデボネアの仇だろう!」

「聞いて下さい、フィガロ将軍。クアスは生きているのよ。エンドラ陛下の許へ向かったと聞いているわ。」

「何を…反乱軍の甘言に惑わされたか、愚かな!」

怒りに顔を引き歪めた彼は、すっと姿を消した。

「フィガロ将軍!!」

ギッ、と金物の軋む音がして城門を開く歯車が回り出した事を教えた。

城門のすぐ下に立ちはだかっているのは、白銀色に輝く鱗を持つドラゴン2頭を従えたフィガロ将軍その人である。

手にしたデュランダルが雪の光りを照り返して青銀の刀身を浮びあがらせている。

「ノルン、君は仮にも我が友デボネアの恋人だった女性だ。…せめて我が手で葬ろう。」

「フィガロ将軍、待って!私は貴方を迎えに来たのです!」

「馬鹿な事を。私はエンドラ殿下に忠誠を誓った。終生、仕えると誓ったのだ。その言葉に二言はないッ!」

フィガロが斬りかかって来る。

「ノルン様、お下がり下さいッ!」

「手を出さないでッ!私はフィガロ将軍と話し合うために来たのよッ。」

フィガロから目を反らさずに、ノルンが両手を広げて叫んだ。

その双眸はデボネアと同じ、理想を掲げそれに命を賭す覚悟のある清華さを持っていた。

フィガロの殺気が霧散する。

訝しがるフィガロの反応は当然のものである。

ノルンとは、世界をデボネア中心に回っている感が否めない、ある意味どこまでも女性的な女であった。

たとえデボネアが絡んでいたとしても、今までにこんな強さを感じさせる瞳を見た事はなかったのだから。

「ノルン…君は何を言いたいのだ。」

訝しがるフィガロを見据えたまま、ノルンが言う。

「フィガロ将軍、私たちは間違っているわ。それに気付かぬ貴方ではない筈です。帝国は、既に破滅に向かっているわ。殿下はもう私達の知る自愛の女王ではないのですもの。ラシュディに…悪魔に魅入られてしまった。」

フィガロはノルンの一挙動足を見逃すまいと注視している。

「国内をご覧になっているでしょう?民のほとんどはその日の食事にすらありつけず、飢えのために死んでいくわ…。なのにアプローズのような下賎な輩が私腹を肥やし、ゼテギネアの栄えある名誉を傷つけています。私たちハイランドは、力で人心を支配する暗黒の力など、欲してはいないのよッ!」

実はフィガロはデボネアが疑念を持ってザナデュにのぼったのを知っている。

そしてその結果、どうしているかも。

だが、自分は既に剣を捧げたのだ。

デボネアの様に国を憂えていたとしても、その騎士としての誉れを投げうってでも理想を貫く事は出来なかった。

「…君がどんな言葉で私を惑わせようとしても無駄だ。私は信念を曲げるわけにはいかない。我が剣は殿下の御為にッ!四天王の誇り、そして名誉にかけて、貴公等反乱軍と戦おうッ!!」

「フィガロ将軍!」

ノルンの頭上にデュランダルの刀身が振り下ろされようとする。

彼女はそれでもフィガロを説得しようとしていた。

「ソニック・ブームッ!」

「何ッ!?」

フィガロは素早く後ろへ飛び退った。

それまでフィガロがいた場所へ剣の衝撃破が地を走り、破壊する。

「レティシア様!」

「ノルン、なんて無茶をするんだ!!」

「レティシア…貴様が反乱軍のリーダーかッ!」

フィガロの双眸が、ノルンに向けた眼差しとは完全に異にした怒りにギラついた。

ノルンを後ろに下がらせて、レティシアは血でぬめった聖剣の柄を握りなおす。

今だソニック・ブームの衝撃に耐えきれずに、放ち手の毛細血管が破裂する。

「フィガロ将軍だな?」

「おう、帝国に害をなす不敬の輩めが!」

「なんとでも言うがいい。」

言いながら、レティシアはラシュディの姿を捜した。

そのわずかにさ迷う視線に気付いたフィガロが鼻先でせせら笑う。

「それほどまでにラシュディ様が恐ろしいか。ラシュディ様はとうの昔に、天空へ行かれたよ。」

レティシアの片眉が跳ねあがる。

何故それを今、明確にする必要があるのか。

フィガロはなおも続けた。

「あの方は神のごとく、…いや、神以上の力を持った偉大な魔術士だ。聖剣無しで、カオスゲートを開かれた。あの方の魔力を持ってすれば天界の三騎士といえ、我らに屈服するに違いない。」

その言葉に含まれた微妙なニュアンスに、レティシアはそれとなく気付いた。

「フィガロ、もしかして…。」

「…さて、お喋りはここまでだ、来るがいいッ。」

フィガロの全身から闘気が立ち昇った。

その声を受けて最初に仕掛けたのはレティシアである。

雪が積った大地への絶対の信頼がない分、幾分踏込みが甘く、フィガロはそれを難なくかわしてデュランダルを横一線に閃かせる。

それをブリュンヒルドが叩いて軌道を反らせ、返す刃でフィガロの利き腕を狙った。

そのレティシアの左サイドから情け容赦の無い蹴りが放たれ、レティシアが屈んで避ける。

ランスロットがフォローに回って、選手交代となる。

どちらを相手にしても、フィガロは引かず、どちらかと言えば押している感すらあった。

迂闊に動けぬ雪の上だというのにフィガロの足さばきは華麗で、剣術にいたっては舌を巻く程だ。

もしかするとデボネアの上を行くだろう。

足場の悪さにイラつきながらも、ランスロットと共にフィガロに攻め込む。

リプリーやスーザンたちヴァルキリーの稲妻がプラチナドラゴンの屈強な鱗を少しづつ焼いていく。

「お気をつけて!フィガロ将軍は、『ダウンクロウズ』という必殺技をお持ちです。鋼よりかたいドラゴンを一撃で切り裂くことが出来ます!!」

ノルンの忠告で、何故間合いを測ろうとする動作が多いのか、2人は気付いた。

その隙を与えまいと、手数を増やしてフィガロを圧倒する。

苦った顔で、自分の劣勢を自覚せぬ訳にはいかなかったフィガロだが、

「あッ!!」

レティシアの左足が、プラチナ・ドラゴンのブリザードブレスを受けて凍り付いてその動きを止めた。

勝利を確信して唇に薄い笑いを浮べたフィガロが、息を止めた。

レティシアの態勢は不充分なままだ。

「食らえッ!ダウンクロウズ!!」

裂迫の気合と共にデュランダルが不気味に煌く。

「させんッ!」

合わせる様にランスロットが深く踏み込んだ。

「ランスロット!!」

必殺技の中へ飛びこんだランスロットにレティシアは悲鳴じみた叫びを上げた。

ランスロットの兜が血飛沫と共に宙を舞う。

2人はもつれ合い、雪の上に転がった。

ややして起き上がったのは、ランスロットであった。

「隊長っ!」

「…大丈夫だ。」

はっきりとした言葉でランスロットが答える。

くすんだブロンドを血に染めながら自らの剣が狙いを過たず、フィガロの胸から肩口を切り裂いている事を確認して息をついた。

ランバルディたちがランスロットに肩を貸す。

レティシアもやっと安堵の吐息をついた。

 

X.

フィガロは目蓋を開けるのがこんなに大変な事だとは、今までの人生で感じた事はなかった。

全身にまとわりつく倦怠感が、幾度と無くフィガロの意識を闇に落とそうとする。

フワリ、と清楚な花の香りがした。

抱き起こされた上半身に安らぎが訪れる。

「ノルン…か?」

視界が紅く染まっていてノルンの顔すらはっきり見えない。

「フィガロ将軍、気をしっかり持って!」

ヒーリングの柔らかな白い光に包まれても、フィガロの死相はすでに払えなかった。

「いい、私に構うな…。それよりも…」

フィガロがおびただしい血を吐いて、ノルンの法衣を汚し、白い雪の上を朱に染めた。

ひゅうひゅうと掠れた呼吸が、早くなっている。

「…デボネアは、殿下の怒りをかい、ガレス王子に連れられて…ど…こかで、生きている…。伝えてくれ。…私は私の信念を貫いた…。…お前はお前の信念を、貫くがいい……と。」

「ガレス?」

ランスロットは聞き間違いかと思ったが、そうでもあるまい。

「傷にさわるわ、あまり喋らないでっ。」

フィガロは微笑んだ。

自分の身体の事は誰よりも自分が良く判るものだ。

自分の命はもう1分と持つまい、しかしその前に―――。

フィガロは全神経、全力を総動員してすでに鉛よりも重いデュランダルを持ち上げた。

「この剣を…デボネアに。…殿下を、頼…む…………―――。」

不意に目蓋が閉じて、持ち上げられたデュランダルごと腕が力無く雪に投げ出される。

「フィガロ将軍?」

返事はない。

「…ああ、どうしてっ。」

ノルンはフィガロの亡骸を抱きしめた。

 

「…フィガロはラシュディを良く思っていなかったようだな。」

でなければ、わざわざ情報を漏らすこともあるまい。

彼もまた、帝国の行き先を憂える一人であったのだろう。

手厚く葬られた墓にはノルンが花を添えていた。

「フィガロ将軍はクアスの様に高潔で、素晴らしい武人であられたわ。だけど自らの過ちを知りながら、名誉に縛られる。…哀れね…。」

そうするしかなかったフィガロを完全に理解出来ないのは、自分が騎士ではないからなのだろう。

だが、唯一ランスロットだけはフィガロの無念の忠義を理解できる気がしていた。

「ノルン。」

「はい?」

「フィガロは最後に、デボネアはガレスに連れて行かれた、と言ったな。」

「はい。」

ではアヴァロン島で倒したガレスはなんだったのだろう。

影武者?いや違う。あれはガレスだった。

家族の仇を違うはずも無い。

「だが、アヴァロンにデボネアの姿はなかった。そして、ガレスは私たちが確かに倒した。」

「ガレス王子を?いえそれよりもアヴァロン島に王子が向かったなんて話は聞いていないわ。」

「え…?」

「もっとも、私が聞いていなかっただけかもしれませんが。」

ノルンは困った顔をしていた。

どういう事だ?

考えに没頭していたレティシアは、微かな共振を起こしていたブリュンヒルドに気付く事は無かった。