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FIELD TRIP - OUTBACK
その1 イダリア国立公園編

(写真outback;私のグループメンバーと4WD

私の住む街ブリスベンから北西へバスで約20時間ほどかけた内陸地帯に、「イダリア国立公園」がある。

オーストラリアは内陸に入るほど乾燥が激しいらしく、この公園も
`Semi-arid region`(やや乾燥してます地帯)に属している。

つまり、殺伐とした木々の生える、岩と赤砂の砂漠である。

昔は家畜もいた普通の土地だったのだが、乾燥地帯の中でも豊富な自然がある、数の少ないカンガルーの種類がいることなどから
1990年に初めて国立公園として保護された。

しかし、一度は人間と家畜の手がつき、ダムまで建設されていたこの土地。いかに自然の状態へ戻すか、というのがこれからの課題であるらしい。

ここが今回のFIELD TRIPの場所である。

観光地とはほど遠い所で、道などは整備されていないため、途中4WD型のバスに乗り換え目的地へ到着。

「あ〜おんもいわあ〜(重い)」

またもキャンプ形式なのでまたもテントを借りた私は寝袋もかついで合計4つの鞄を背負い引きずっていた。

他の生徒は私以上の荷物を抱えていたりもするのだが、その足取りは以外に軽やかだ。

「さすがだ・・・」

誕生日プレゼントにキャンプ用品を普通に貰ったりするこの国の人達は、やはりアウトドア人間なのだ。

それを証拠に若い男女の大学生徒達がまるで本能のごとくシャカシャカとテントを組み立てている。

これがインドア傾向の日本の大学生ならば、

「え〜わかんな〜い。〇〇君手伝ってぇ〜。」

「しょうがないなぁ〜俺に任せとけよ〜。」

「ウッソ〜頼りになるぅ〜。」

とかなんとか羨ましいことになってるハズである。(偏見)

前回の嵐のFIELD TRIPでテントに翻弄された私は、今回テント組み立ての練習もバッチリ家でこなしてきたので、いやあもうホントバッチリだったはずなのだが、

「それはこれを組み立てた後にこうするべきよ。ところでテントカバーが裏表反対よ。」

と、横から本家アウトドア人間に有難いお叱りをうける結果に終わってしまったのであった。

その2 砂漠のイキモノ編

(写真;semi-arid region;赤みがかった砂と石と乾ききった木々)

到着した一日目はイダリア公園探索。乾燥地帯といえど雨期になると激しい雨が降るため、短い間だけ以外に大きな川ができる。

その時は水も干上がってしまっていたので、あるのは砂漠にできた大きな溝のみである。

「あれ?カニが干からびてるで?なんで?」

砂漠に転がる小ガ二の殻とはどうも想像しにくいモノがある。

「それは雨期にダムのほうから流れてきたカニね、ちょっとこれを見て。」

と個人教諭の示す方を見ると、川があった溝の隅に小さく盛り上がった円柱のモノがある。しかもご丁寧に開け閉め自在のパカパカ蓋まで付いているのだ。


(写真wave;枯れた川の先にあるwaverockは強風と雨ででき、大波のような形に岩がえぐれている)

「この中に小さいエビが住んでいるのよ。今はこの蓋の奥深くに身をひそめてるけど、雨期になって川がまたできると、この巣からでてくるのよ。」

この国には砂漠に住む蛙もいるが、まさかエビまで住んでいるとは思わなかった。

後日、土壌の種類を調べるために集められた土のサンプルに水をかけると、ここからもミリ単位のエビが泳いで現れたこともあった。

一体全体こんな小さな身体でどうやって水の無い時期を乗り越しているのか想像もつかないが、なんとなく干しワカメを思い出して納得することにした。(いや、納得でけへんか。)

人間は人間が可能にできる範囲のモノでしか、心の底からは納得できないイキモノである。

夜、焚き火を囲んで皆ビールを飲んでいる。

「ん?ビール??」

なんと冷蔵庫にはびっしりとビール缶が埋め尽くされている。

「待て、確かここは砂漠でしかも私達は授業のために来ているハズだ。」

後日、この冷蔵庫はビールを詰め込むために大学から持ち運ばれてきたものだと知り、

心の底から納得できないイキモノがここにもいたのだと思い知らされた私であった。

(写真sunset;波型岩の上から。国立公園に沈む夕日)

その3 砂漠の静物1

私はテントの中で震えていた。

その夜、何人かの生徒が
「自分はこのまま死んでしまうのかもしれない。」
と本気で思ったらしい。

砂漠の夜は冷える。日中は半袖で充分なほど気温が上がるのだが、夜中から早朝にかけて気温は急激に下がっており、朝食の時間である6時半でも気温はマイナス4度であった。

布キレを隔てただけのテントで眠るには寒すぎた。

寒さのための寝不足と筋肉硬直状態で今日の課題「砂漠の植物達」が始まる。

前回のラミントン国立公園の熱帯雨林に比べると、今回のイダリア公園の植物はパサパサのカサカサに乾き、いわゆる「緑の美しさ」は感じられない。

クールで女(観光客)が群がる派手なラミントン君と比べ、
イダリア君はドライな上に地味である。

「あー面倒臭いわー・・ってちょっとメンバー足らへんで!?」

植物の生態を調べるには、地味で時間のかかる調査法を繰り返し行うため、途中このように脱獄者がでる。

「ヨォ兄ちゃん大人しく戻って来いや」と声をかけると、
何やら興奮気味である。

「なんじゃコリャ?」

そこにはハリモグラ(echidna)が地中の虫などを食べるために掘り起こした大きな穴があったのだ。

(参考写真1echidna;イダリア公園に生息するechidna Photographer: C.S)

よくよく辺りを見回すと、
土が壁のようにせり上がっている→昆虫が作った巣。

先日、枯れた川で見つけたエビの巣と同じ蓋付き円柱のモノがここにもある→これは蜘蛛の住家である。

一見何も無いような荒野に、驚くほどユニークな生物がその生き様の痕跡を残している。

「やるなお前ら」と感心したものの、そういえば今日は「植物」の課題やったなと思い出した。

*参考写真は他のメンバーによって撮影されたものです。

その4 砂漠の静物2

植物調査に飽き飽きした生徒達に気付いたのか、ここで個人教諭が生徒達を4WDで高台へと連れて行く。

「これを皆で集めてちょうだい。」

と見せられたのはパチンコ玉ほどの、乾いてクシャクシャに丸まった黄緑色の枯葉であった。

根も茎もなく、ただ足元にポロポロ転がっていたモノなので私はそう思ったのだ。

「なんでまたこんなモンを・・・」

しかしそれは教諭の必殺技であったのである。
彼女はこの時を待っていたかのように黙り、集まったそれを器に入れ、無言のまま水を注いだ。

「・・・あッ!ふえるワカメちゃんや!!」

なぜ君達がこんな砂漠にッ!

その葉は恐ろしい勢いでヨイショヨイショと水を吸い、
丸まっていた手形葉をビシッと広げ、秒単位で緑色の若葉へと変貌を遂げたのだった。

大きな打撃を食らった生徒達を見て満足したのか、ようやく教諭が口を開いた。

「これは海藻類と菌類(カビ、キノコ)の間に属する植物で、
雨期になるとこうやって水を吸って、種を作って子孫を増やすのよ。
それまでは干からびたた姿のまま、木の下に転がっているの。」

そんな説明を聞いた私達はますますこの植物がケナゲに見えてしまい、
今この瞬間必死に水を吸っているその姿に、思わず握りこぶしで
「応援してあげたいッ」
と力んでしまうほどであった。

しかしその瞬間、

「ハ〜イ じゃ、 サヨナラ〜。」

と再度乾いたその地にそれは教諭の手によって撒き散らされた。

自然とはなんと厳しいものなのか。

つづく

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