ガイがアニメを見ていた。

アニメのタイトルは『ガイレオン』

ガイレオンと言う巨大ロボットが、大画面で戦うアニメである。

ガイは、自分の名前が入っていることに感激し、このアニメを見ていた。

ガイレオンの腹部には『ガイ・バスター砲』

腕からは『ガイ・ブレード』を取り出し、敵と戦う。

そして、今この時こそクライマックス。

ガイレオンがガイ・ブレードを取り出し、敵のロボットを切り倒すところである。

「おぉ~」

ガイがテレビを食い入るように見る、すると・・・・・・・

『全国的に晴天に恵まれ・・・・・・』

「あぁっ!?」

突然画面が変わり、ガイが妙な声を上げた。






幻影の天使たち

第17話




今夜月の見える丘に




ギギギギギ、と軋むような音を出しながら、ガイは首を背後に居る守護天使たちに向ける。

「いいところだったのに・・・・・・てめえら・・・・何をしやがる」

「六時五十五分からは、ルルたんが天気予報を見るんだぉっ」

リモコンを片手にルルが言う。

「神様のくせにそんなアニメ見て喜んでるなんて・・・・・・」

「ほんと、まるでお子ちゃまですね~」

ナナが非難するような目で、タマミが小馬鹿にしたような口調で言う。

「そ、そこまで言わなくても・・・・・・」

モモが苦笑しながら言う。

ガイは頬を赤らめる。

「グ・・・・くくくく・・・・いいから、チャンネルを戻しやがれ」

「ご主人たまの言うことしか聞かないぉ」

ガイの言葉に、飄々とルルが言い返す。

すると、ガイの額に赤い筋がいくつも出てきた。

「ぬあぁ~~~~~~」

ガイが爪を鋭く尖らせる。

「あぁっ、落ち着けガイっ」

すぐにでも暴れ出しそうなガイにしがみついて、シンが必死に止める。






「あ、あの・・・・みんな仲良くさ・・・・・」

そのやりとりを見ていた悟郎が必死に仲を取り持とうとする。

そこへ、目の前にフォークに刺さったリンゴが差し出される。

「ささ、聖者殿、食後のデザートをお1つ」

そのフォークを持った朱雀のレイが、悟郎にリンゴを差し出す。

「はい、あ~ん」

「あ~んっ」

ガブッ、シャリッ

横から飛び出て来た口がそのリンゴを口の中に吸い込んだ。

「あ・・・・う~ん・・・・・・・」

レイがリンゴを食べた主を見て複雑な笑みを浮かべる。

リンゴをフォークごと食いつくとクルミはもごもごとそれを食べた。

「ちょっと~、ご主人様のお世話はミカたちがするんだから余計な事しないでよ~」

「そうだよ、男のくせにご主人様にべたべたしちゃってさ~」

テーブルに頬杖をついて不満げにツバサが言う。

「おや?ツバサさん、僕が聖者殿ばかりに構うから・・・・・・ヤ・キ・モ・チ?」

ツバサの言葉に対し、レイが意地悪そうな笑みを浮かべて言う。

「なぁっ、何バカな事言ってんのさっ」

机を叩いて怒るツバサを、ミカとクルミがあおり立てる。

「おぉ?そういえば、なんだか妙にムキになっちゃったりして~?」

「怪しいの~」

「フフフ、素直じゃありませんね・・・・・・」

ミカとクルミに後押しされて、レイが調子付いて言う。

レイの言葉を、ツバサがさらにムキになって否定しようとする。

そこへ・・・・・・

『うがぁっ』

と言う叫び声のすぐ後に、

――ガシャン

と、何かが割れる音がする。

視線を移動させてみる。

ガイの裏拳がテレビにぶち当たり、ブラウン管が割れ、黒い煙が噴出し。

さらにその状態で固まってしまっているガイの姿が有った。

ガイを掴んで押さえていたシンも、スススと側を離れる。

『あぁ~~~っ』

ルルとナナとタマミの声が重なる。

『い~けないだ~いけないんだ~、メガミ様に~いっちゃお~』

「も、元はといえば、お前達が・・・・・」

「ルルたん知らないぉ」

「ぬぐうあぁ~~~~」

「ま、まだローンが残っているのに・・・・・・」

悟郎が落胆しながら言った。






食事も終わり、台所では食器を洗っていた。

流し台に顔を向けている為、うしろ姿から判断すると・・・・・・

ラン、アカネ、ミドリ、アユミ、の4名である。

『きゃぁ~~~、ご主人様助けてらぉ~』

「あらあら、あっちは賑やかね」

どたばたと賑やかな隣の部屋の声をBGMに食器洗いをしていたランが言う。

「あの人たちが来てから、余計とね」

「洗い物も増えちゃいましたし」

アカネが言うと、苦笑しながらランが答えた。

「神様のくせに、子供見たいな人たちれすから・・・・・・」

「でも、シン様だけは別でしてよ?」

アユミがいきなり言った言葉に、洗い物をしていた3人の手が止まる。

心なしか、後頭部に汗が浮き出ているような気がする。

アユミはアユミで、思わず言ってしまった言葉を後悔していた。

「そ、そういえば、ユキさんはどこへ行ったのかしら・・・・・・?」

ランが話題を変えようとそう言うと、ミドリから返事があった。

「さっき、外に行ったみたいれす」





ベランダに出て、手すりにもたれかかり、月明かりに照らされ、ゴウは眼下の街を見下ろしていた。

月は綺麗な円形しており、端麗なゴウの顔を優しく照らしていた。

ゴウが淡々と語る。

「明日には・・・・・・ここを出ようと思っている」

「そう・・・・ですか」

突然であるはずのゴウの告白に、ユキはただ一言だけ答えた。

「我らが側に居れば、聖者殿のお力になれると思っていたが・・・・・今はまだその時期ではないようだ」

ゴウは瞳を閉じる、そのまぶたの裏に、優しい悟郎の笑顔が浮かび上がる。

「全てを許し、受け入れる。それは聖者殿ならではの素晴らしい力だ・・・・・・・」

手すりから身を起し、ゴウがユキに振り返る。

「我らの力が必要になる、その日まで、ここには戻らないつもりだ・・・・・・それに・・・・・・」

ふ、とゴウが微笑む。

「今は、守護天使と言う、心強い存在もいることだしな」

「まぁ・・・ふふ」

守護天使を頼りにするようなゴウの言葉に、ユキも微笑む。

「でも・・・・これから如何なさるおつもりなのですか?」

「失った獣神具に代わる力を身につけるため、修行を積むつもりだ。ふふ、心配してくれるのか?」

ゴウが微笑むと、ユキも微笑み返す。

「仮にも、一度はゴウ様の妃に選んでもらった身ですし」

ユキがそう言うと、ゴウはただ黙ってユキに歩み寄った。

ゴウは、ユキの側に立つと、少しだけ腰を曲げ、愛しそうに、優しくユキの体を抱きしめた。

「あ・・・・・・・」

突然抱きしめられ、赤面するユキに、ゴウは何かをささやく。

何かをささやくと、ゴウはユキを解放し、その場を去った。





翌日

早朝

睦家にミカの声が響き渡る。

「えぇ~~~?行っちゃった~?」

ユキがこくりとうなずく。

「ご主人様~」

扉が開いて閉じる音、その直後にばたばたと室内に入ってくる複数の音、

その後に、ナナの悟郎の呼ぶ声がした。

「お庭のテントもたたまれてたよ~」

先日、ゴウの宣言通り、四聖獣は出て行ったようである。

彼らが使用していたテントは丁寧にたたまれ、紙に『世話になった』と一言だけ書かれ、重石が乗せられていた。

「ホントに・・・・・・行っちゃったんですね」

「う~ん、邪魔だなって思っていましたけど・・・・・・・」

「黙って行ってしまわれるなんて・・・・・・・・」

「ちょっと・・・・・・水臭いよね」

口々に言う、みんな、少しだけ沈み込んでいるように見える。

「また会えるよ」

悟郎が、何の根拠もない事を言った。

皆の視線が悟郎に集中する。

「あ、いや・・・・・・なんとなくそんな気が・・・・・・でも・・・・・・きっと」

悟郎が、ニッコリ笑って言う。

『そう・・・・・いつかきっと』



そして、彼の言った言葉は現実となる。

それも近い内に。




睦家を出た四聖獣たちは、町の外へ出る道を歩いていた。

早朝に睦家を出たために、人通りは少ない。

しいて言うなら、新聞配達の人や、早朝ジョギングの人とたまにすれ違う程度である。

彼等は、いつもつけている服ではなく、Tシャツや、ジーンズなど、人間が普段着ている衣服を身に着けていた。

「ふぅ~、ようやくうるせぇ奴らから解放されたぜ~」

ガイが、組んだ腕を頭の後ろに回しながら言った。

「フフ、そのわりにはいつも楽しそうでしたよ?」

レイが意地悪な笑みを浮かべて言う。

「う、うるせぇな、どうだって良いだろ、そんなこと・・・・・・・」

ガイは、文句を言うが、否定をしない。

「ははは、なかなか楽しい日々であったな」

ゴウが笑いながら言う。

「そうですね・・・・・・いつも賑やか・・・・おっと、騒がしいといった方が正しいのかもしれませんね」

「ははは、違いない」

シンの言葉に、またゴウは楽しそうに笑う。

「けれど、私達が居ても聖者殿のお力にはなれないみたいですしね」

「・・・・・・そうだな、守護天使もいるし・・・・・それに、あの者達もいる事だから、大丈夫であろう」

ゴウが言った『あの者達』

その言葉に、全員一瞬足を止めた。

そして再び歩き出すと、四聖獣の話題は『あの者達』に移った。

「一体・・・彼等は何者だったのでしょうか」

シンが言うと、ゴウが首を振った。

「この俺にもわからぬ、だが、2つだけわかっていることがある」

「わかっていること・・・・・・・・・・・とは?」

「それに、2つ?」

3人は首をかしげる。

「お前たちも目の当たりにしたであろう?彼等は、我等より上の存在だと言う事だ」

「兄者、それで1つ・・・・では、もうひとつは・・・・・・・・?」

シンが訊ねると、ガイは自嘲気味に笑った。

「コレは参ったことだ、この俺にだけ気づかせるような、そんな器用なことが出切るとはな」

「は?兄者、一体なにを?」

突然笑ったゴウを、不思議そうに3人は見る。

そして、ゴウは言った。

「そう、もう1つは、彼らには何でもお見通し、と言うことらしい」

と言うと、ゴウは足を止めた。

道の真ん中で足を止めるゴウを、3人はなおも不思議そうに見る。

すると、早朝の薄霧の中から声が聞こえた。

「・・・別に、お前にだけ気づくようにとはしてないんだが・・・」

その声に、ゴウ以外の3人が咄嗟に身構える。

「大丈夫だ・・・・・・・何のご用か?」

ゴウは3人を片手で制すると霧の中に語りかける。

「いや、何と言われても・・・・・・・」

薄い霧の中、影が映り、四人の人影が現れる。

「・・・街を出るらしいな、獣神具に変わる力を身につけるために・・・・・・?」

四人の人影の1人、かすかに金色の混じった髪の男が言う。

聞けば、先ほどから聞こえていた声と同じ声であった。

「そうだが・・・・・・・・何か問題でも・・・・・・・?」

ゴウが聞くと、男が首を振った。

「・・・いや、問題はない・・・・・・有ると言ったら有るが、行くあては・・・?」

図星を突かれた、修行を積むと言ったものの、全く行く当てはないのである。

「やっぱりな、行き当たりばったりじゃ後で困るぞ~?」

四聖獣の反応を見て、図星だと判断した、別の男――星牙が言った。

「け、けどよ・・・・・・・・・復活したばっかりの俺達にゃぁ、どこに行けばわかんねぇんだし・・・・・・」

ガイが、お茶をにごすようにもごもごと言う。

「だろうな、しかし、行く当ても無く旅に出るとは、先が思いやられる・・・・・・」

やれやれ、と言った感じで星が溜め息をつく。

「と、言うわけで、コレを持ってきた次第だ」

虎武は、手に小さく折りたたまれてあった紙切れをゴウに投げる。

「これは・・・・・・・・・?」

その紙を開いたゴウが不思議そうに4人を見る。

紙には一言だけ。

『最善を図れ』とだけかかれていた。

「こ、これがなんだってんだ?」

ガイが側から覗き見て言う。

「行く当てが無いのなら、富士の樹海に行ってみろ」

星が言う。

「ふ、富士の樹海ですって!?」

シンがガラにも無く大声を上げた。

「ど、どうしたのだシン、その富士の樹海とやらには何かあるのか?」

ゴウが、不思議そうにシンの顔を見る。

「ふ、富士の樹海と言ったら、自殺の名所なのですよ!? 磁場が狂って、迷ったら出られないと言う・・・・・・・」

「まぁ、そう呼ばれては居るな」

星牙が肯定する。

「まぁ、その名所なだけに、仏さんも多いわ、霊も多いわで・・・・・・・」

「で、では、何故俺たちのそこに行けと・・・・・・?」

「話は最後まで聞け。仏さんの魂を鎮めるために二人が今樹海に居るんだよ」

星牙が右手の指を二本立てて語る。

「2人、とは?」

ゴウが訊く。

『仲間だ』

光樹達は四人声をそろえて言った。

ゴウたちの額に冷や汗が浮かぶ。

(この者達が仲間と呼ぶとは・・・・・・・・・・彼らのような人間がまだ存在すると言うのか・・・・・・)

四人の背筋に冷たい物が流れる。

「で、樹海に行ったら、歌が聞こえるはずだから、歌のする方に行けばなんとかなるだろ」

最後に虎武が締めくくった。

「さっき渡した紙、それ渡せば後は2人が何とかしてくれるさ、じゃ、健闘を祈る」

締めくくると、朝の霧が一層濃くなる。

霧に包まれ、四人は姿を消した。

「まったく、恐ろしき者達だ」

ゴウが呟くと、3人も頷いた。

そして、4人は、光樹たちの教えてくれたとおりに、とりあえず富士の樹海を目指す事にした。





しかし、そのうしろ姿を鋭い視線で、突き刺すように見ていた一対の目に、4人は気付いていなかった。




第18話『かえりみち』に続く