突然の来訪者に、守護天使たちは声を上げて驚いた。 そして、ゴウも目を見開いて驚きを表していた。 幻影の天使たち 第16話 「メガミよ、なぜここに・・・・・・・・・?」 「メガミ・・・・・・・?」 ゴウの声に呼応するように、その女性の名をシン、レイ、ガイの3人も言う。 彼女は、四聖獣に対し軽く会釈だけを返すと、ゆっくりと悟郎に歩み寄った。 「あ・・・あのぅ・・・・?」 困惑顔で悟郎が言うと、メガミが口を開いた。 「おひさしぶりです、睦悟郎・・・・いえ、聖者様・・・」 そう言うと、メガミは悟郎に頭を下げた。 『っ!?』 四人は声もならない声を上げて驚く。 「そして、何者かは存じ上げませんが・・・あなた方にも、礼を、と・・・・・・」 メガミが光樹たちにも頭を下げる。 しかし、光樹が首を横に振った。 「・・・礼には及ばない・・・我らが率先してやったことだ、礼を言う義務はそちらには無いのだが・・・・・・」 光樹が言うが、メガミが首を振った。 「聖者様をお救いくださった事、心よりお礼を申し上げます・・・・・・」 なおも頭を垂れるメガミに、光樹達は苦笑する。 「・・・俺たちは頼まれただけに過ぎないのだが・・・・・・」 『頼まれた』と言う言葉に女神は少し不思議そうに首をかしげる。 そこへ、立ち上がったシンが声を荒げて言う。 「メガミ、あなたは今、聖者と・・・・・!?」 メガミが無言でうなずく。 「人間でもなく、動物でもない、二つの種を束ねられる唯一の存在・・・・・っ!?」 シンが声を荒げたまま言う。 「で、伝説の聖者が・・・・・・この男だというのか・・・・っ?」 レイは腕を震わせ、悟郎を指しながら言う。 「もしその男が本当に聖者としても、何故人間の味方をしてオレ達の力を奪い、封印したって言うんだ!」 ガイが至極もっともな事を言う。 メガミはうつむきながら、沈痛な面持ちで彼らの言葉に答えた。 「あの時・・・・・・聖者様はご自分に残された時間がわずかである事を、すでに悟っていらっしゃったのです・・・・・・」 驚愕の真実に、彼らに稲妻のような衝撃が走った。 「そして、その最後の力を振り絞り、聖者様はあなた方の獣神具を奪った・・・・・・・ご自身の命を引き換えにして・・・・・・・」 そんな、と言う声に静かにうなずき、メガミはなおも続ける。 「あの時の聖者様には、それ以外に人間と動物たちの争いを止める手立てはなかったのです。 聖者様は、お亡くなりになる前に、こう申されたそうです・・・・・・・ 『次に生まれ変わる来世でこそ、人間と動物が平等に暮らせる世界を築きたい。そして、そのときにはぜひ、四聖獣の力を借りたい』 と・・・・・・」 その言葉に、今までとは比べ物にならないほど四聖獣は驚く。 「聖者様の願いを叶える為、めいどの世界の神々が、あなた方を封印して永い眠りにつかせたのです。聖者様が転生するその時のために・・・・・・」 女神は四聖獣を見てクスリと笑った。 「もっとも、少しお目覚めが早かったようですが」 「でもよ・・・・・・いきなりこいつが聖者だって言われてもよ・・・・・」 ガイが悟郎を指差して言う。 「にわかには信じられませんね・・・・・・・・」 二人の言葉に、悟郎は苦笑する。 「選択はお任せします。ただ、あなたたちの魂と呼べる獣神具は、結局は聖者様を選んだみたいですけどね」 女神のその言葉に、ゴウが冷や汗を流した。 (・・・と言うか、もともと獣神具はあいつの物だし・・・) と、光樹達は思ったが、あえて口には出さなかった。 「・・・・・・・・・ふっ、ふっふふ、はっはっはっは」 突如ゴウが声を上げて笑い始めた。 それを他の四聖獣も不思議そうに見る。 「承知したぞメガミ。人間と動物が平等に暮らせる世界の為、俺たちも力を貸そう。もっとも、肝心の聖者殿はまだお目覚めではないようだがな」 「心配は要りません。今の聖者様にはまだたっぷりと時間がありますから」 「ふふ、そうだな」 ゴウは少しだけ微笑んだ。 ふと、ゴウが地面に座ってポーカーをしている光樹達に向かって語りかける。 「貴公達にも礼を、よく我らを止めてくださった、本当に感謝する」 その言葉に、光樹は左手を掲げひらひらと振った。 「・・・よし、フルハウスだ・・・!」 『フォアペア〜』 フルハウスといって出した光樹の札の上に、エース、キング、クイーンのフォアペアが乗せられる。 「・・・くっ・・・・・・」 (光樹さぁ、いつもは表情読みにくいくせにこう言うときだけ顔に出るんだよね) 光樹にだけ聞こえない声で星牙が言う、その言葉に星も虎武もこくりとうなずいた。 つい先程まで命がけの戦いをしていたのにも関わらず、平然と遊んでいる四人を見て、ゴウたち四聖獣は苦笑する。 そして、ゴウの気配が薄くなる。 『また会おう』 ついで、シンの気配も薄くなった。 『兄者がそうと決めたのなら』 ふっ、と息を吐いて、レイが。 『仕方ありませんね』 ガイが軽く舌を打つ。 『ちっ、しょうがねぇな、俺も手伝ってやるよ』 「あ、あの・・・・・・君たちは?」 姿の見えなくなった四聖獣に、困惑顔で悟郎が言った。 「メガミ様・・・・・・」 後ろから呼ぶ声がして、メガミが振り返る。 そこには、メイド服に身を包んだ守護天使たちが一所に並んで立っていた。 「よく頑張りましたね皆さん。あなたたちのおかげで、無事聖者様をお守りすることができました」 (あいつらで守りきれないと思ったから俺たちが出張ったんだけどな) (コラっ、そんな事は言わないっ、聞こえるだろうがっ) 星の頭を虎武が殴る。 その様子を守護天使たちが不思議そうな顔で見つめる。 しかし、すぐ視線を戻した。 「四聖獣の誤解も解けたことだし、これからやっとご主人様にもツキが回って来るわね」 ミカがパッチリとウィンクする。 「え゛? あ・・・・じゃぁもしかして、今まで僕の運の悪さって・・・・・・」 メガミが無言で肯定する。 「は・・・・・・・・・あははは」 悟郎は乾いた笑いを出した。 説明もあらかた終わると、メガミはその手に持った杖を頭上に掲げる。 杖についた水晶玉が眩い光を放つ。 辺りは光に包まれ、戦闘の傷痕が徐々に癒されてゆく。 戦闘の後を元に戻すと、メガミが言う。 「これで、貴女達の守護天使としての役目は終わりです」 「えっ!?終わりって」 メガミが発した言葉に悟郎は驚いた。 しかし、メガミはその言葉には答えなかった。 守護天使たちの頭上に光が満ちる。 「今日のご主人様、すっごく、すっごくカッコよかったよ」 ミカが潤んだ瞳で悟郎を見つめて言う。 「でも、守護天使がご主人様に護って頂いたなんて、なんだか申し訳ないような気が・・・・・・」 アユミが、頬を押さえて、複雑な表情で言った。 「ご主人様っておとぎ話の王子さまみたいでした」 「クルミね、とっても、と〜っても嬉しかったの〜」 タマミとクルミが、嬉々とした声で言った。 「ご主人様、もっとご自分に自信を持ってください」 ユキの言葉に、アカネはうなずく。 「うん、ご主人様は世界中の誰よりも強くて、優しくて・・・・・」 アカネの次の言葉を、ミドリが言う。 「そして何よりもいっち番ペカペカに輝いているれす〜」 「ご主人様っ、大好きだよっ」 モモ、ナナ、ルルが、声をそろえて言う。 「みんな・・・・・・・・・ツバサ・・・・・ラン」 悟郎の視線が、ツバサとランに向けられた。 ツバサとランは、こくりとうなずいて言った。 「うん・・・・ボクも好き・・・大好きだよ」 「ランも・・・・ランも大好きです、ご主人様」 頭上の光がさらに光を放つ。 「ちょ、ちょっと、冗談だろっ!!!? 皆〜〜〜っ」 悟郎の目の前で、光に包まれ、守護天使たちの姿は消えた。 『ご主人様、だ〜い好き』 その言葉を残し、守護天使の姿は、悟郎の目の前から消えた。 次に悟郎が目覚めたのは、自宅の布団の中であった。 寝起き眼に、頭上の電灯が映る。 そこへ、金髪の少年が現れた。 「オラオラっ、いつまで寝てやがるっ」 少年――ガイは、悟郎の布団を引っぺがした。 「うわぁっ」 ガイが布団を引っ張ると、悟郎は床に投げ出された。 即座にそれをレイがたしなめる。 「コラっ、ガイっ。お怪我はありませんか?聖者様・・・・・・?」 自分のことを憎んでいたはずのレイの口から、本当に心配したような声を掛けられ、悟郎は生返事を返した。 そこへ、お盆に朝食を載せたシンが、ゴウと一緒にやってきた。 「は〜い、朝ご飯ですよ〜」 ちなみに2人ともエプロンをつけていた。 凛々しいシンと、猛々しいゴウの2人が、エプロンを付けて調理をしたところを想像すると、滑稽というか、微笑ましいというか、妙な感じになる。 「聖者殿には、力をつけて頂き・・・・・・・」 そこで、ゴウが言葉を切ってお盆の上の焼シシャモを横目で見た。 ご飯に味噌汁、たくあんに納豆、それに焼き魚、と言う日本人の朝食としては至極一般的なメニューだった。 シシャモのしっぽをつまんでゴウはためつすがめつする。 「このシシャモは少々焼きすぎでは無いのか・・・・?」 そう言うゴウをシンは複雑そうにお盆を持ったまま見る。 シンの持っているお盆を、ガイが指をくわえて見ていた。 (美味そう・・・・) とでも思っているのであろう。 ゴウは、シシャモを焼直せ、と言うと、口を開けて。 「これは俺が食う」 と、シシャモを口に運ぶ。 と、そこへ非難の声が入った。 『あぁ〜〜〜〜〜っ』 ゴウが声の主を見る。 クルミとタマミだった。 食い意地の張っているクルミは別として、タマミはネコだからだろうか、魚を食べようとしているゴウを恨めしそうに見ている。 『自分だけずるい〜』 タマミとクルミは、語尾は違うがそう言っていた。 ぺたりと床に座り込んでいた悟郎のところへ、絵本を持ったルルがやって来る。 「ご主人たま〜、絵本読んでらぉ〜」 ぴょんっ、とルルは悟郎の足の上を陣取る。 「あ〜、ずるいよルル、今日はナナの番だよ〜」 ルルが悟郎の足の上でじたばたと暴れる。 迷惑この上ない状態だが、悟郎は笑って済ませる。 それを見たゴウが一括する。 「聖者殿はお食事前だっ、戯れは控えろっ」 ゴウの言葉を、ルルがどこ吹く風、と言う感じで言い返す。 「ご主人たまの言う事しか聞かないぉ」 それを聞いたゴウの額に、ギャグマンガ等でおなじみのあの青筋が浮かんだ。 『#』←こんな感じ 「ぐぎぎぎぎぎゃぎぎぎぎっ」 「あぁああぁっ、兄者押さえてっ、子供の言う事ですしっ」 今にも暴れ出しそうになるゴウを他の三人が必死に押し止める。 「やはり、ご主人様のお世話は無理だったようですわね」 ゴウたちの様子を見ていたアユミがそう漏らした。 「四聖獣様にはおやすみ頂きましょうか」 ユキが言った言葉にだれも反対はしない。それどころか、 「マスコットになる・・・・・・ってのはどうかな?」 「それあんまり可愛く無さそうれす・・・・・・・」 アカネの意見を苦笑交じりでミドリが答えた。 好き勝手に言っているユキたちに、ガイが文句を言う。 「テメーらこそ、もう役目終わったのに、何で戻って来たんだっ」 「誤解しないでよねっ♪ 聖者様をお守りする、って役目が終わっただけで・・・・・・」 「ご主人様のお世話は、ず〜っと続けるの〜♪」 『ね〜っ♪』 守護天使たちが声をそろえて言う。 「あらあら、また始まっちゃったみたい」 遠巻きに見ていたランが言う。 「ま、賑やかで良いんじゃない?」 隣で同じように見ていたツバサがそう言うと、そうね、と言ってランは微笑んだ。 ぎゃぁぎゃぁと口論を続ける皆を収める為、悟郎はハーモニカの時間にしようと提案した。 しかし、それは即座に却下された。 「ご主人たま、だめだぉ」 「絵本の時間だよっ」 「サルカニ合戦は・・・・ちょっと」 各自、思い思いの言葉を残し、睦家は、今日も平和な一日を過ごしていく。 遠い昔の物語。 人間と動物が平等に暮らしていた時代。 しかし、それはとても危うい均衡でなり立っていた。 そして、ある年、未曾有の大飢饉により、そのバランスは崩れた。 少ない食料を巡って互いにどちらが牙を向いてもおかしくない、緊迫していた時。 四聖獣は、その力を持って、人間を滅ぼそうとした。 それを防ぐ為、聖者は四聖獣の力の源である獣神具を奪い、戦いを回避させた しかし、聖者の寿命は残り少なく、獣神具をその身に宿したまま彼はその命を絶やした。 それから、気の遠くなるほどの年月を経て聖者は睦悟郎と言う青年として、人間として生まれ変わった。 四聖獣からも『伝説』と言われていた聖者。 彼は、守護天使に守られ、今日も、これからも平穏な日が続けば良いと。 そう願っていた。 それが・・・・・・彼が願う、ただ1つの事なのだから。 |
第17話『今夜月の見える丘に』に続く