暗闇から現れた四人の男。 男達は口々に言った。 「やれやれ、結局こうなるのか」 「・・・死なせるわけにはいかないからな・・・」 「ま、しょうがないよ」 「運命って事さ」 幻影の天使たち 第15話 突然現れた四人の男。 それに、四聖獣の四人も驚愕する。 「き、貴様ら、俺が作った結界の中に、どうやって・・・・」 長い間封印されていたとは言え、ゴウも四聖獣の青竜。 神の名を語っていた事は偽りではなく、その力は並大抵なものでは無い。 しかし、そのゴウが作り出した結界は、いとも容易く破壊され、また新たな結界が張りなおされた。 驚いているゴウを虎武が見やると、人差し指を立てて言う。 「さて、どうやってでしょう〜、正解者には10000円進呈〜」 その虎武の問題に、頼んでも居ないのに星牙が答えた。 「ただ手で触れただけ。はい正解、10000円よこせ、虎武」 「てめ〜ふざけんな、お前が知ってんのあたりまえだろうが、アホ星牙」 「いいから出せ」 「却下だ」 「・・・うるさい、少し黙れ・・・」 今にも口論へと発展しそうだった虎武と星牙を、光樹が制する。 その横で、 「やぁ、また会ったね、アカネちゃん」 星がアカネを見てそう言った。 「それと悟郎さんもかな?」 今度は悟郎をみて微笑むとそう言った。 「・・・・・舞朱雀・・・・・・」 アカネが発したその言葉に、星はニッコリと微笑む。 「そうそう、『舞朱雀 星』覚えてたんだ、嬉しいね」 「おふざけはココまでにするか・・・・・・久しぶり、アユミさん、橋の上で会ったよ、覚えてる?」 つい先程まで虎武とおちゃらけたていた星牙がそう言うと、アユミも鮮明に思い出す。 「あっ・・・あの時の」 「そう、あの時の星牙、うむ」 アユミが思い出した事を確認すると、星牙は満足げにうなずいた。 「んで俺はツバサちゃんだね。うぃ、トラック受け止めたバカな『田中 太郎』です」 その瞬間、虎武の頭に三連撃が入る ――ドゴッ、バキッ、ドカッ 「ぐはぁっ」 額に一撃、後頭部に一撃、そして脳天に一撃、計三撃。 虎武は地に崩れ落ちる。 その場に居たみんなが目を丸くした。 「・・・何が太郎だ、馬鹿者・・・」 「もうちょっとましなギャグ思いつかんのかアホ」 「バカ」 光樹、星牙、星が、口々に虎武を罵倒する。 その様子に一同は唖然とする。 「ひどいナ〜、そこまで言うこと無いのに」 そういって虎武は起き上がる、3人のカカトの蹴りが後頭部に直撃したのに平然として虎武は立ち上がった。 「・・・ふざけるのはそこまでだ、本題に入るぞ・・・」 光樹がそう言うと、他の三人も四聖獣をキッとにらむ 「な、なんだっ、やるってのか。言っとくが、獣神具が戻った以上、俺達に勝てる奴はいね〜ぞ」 ガイがそう言うと、星牙と虎武の連携。 「井の中の蛙」 「大海を知らず」 「・・・勝てないかどうか、やってみるか?強いぞ・・・」 お前たちよりは、と続けて光樹が言う。 すると光樹、星、虎武がファイティングポーズをとる。 その横で星牙だけは準備体操をしている。 「仕方ありませんね、荒療治ですが、教えてあげましょうか」 シンがそう言って、準備体操をしている星牙に向かって跳躍する。 「破っ!」 シンが蹴りを放つ。 しかし、その蹴りを星牙は避けようともせず、無防備に立つ。 そして、シンの蹴りが星牙の腹部に直撃する。 と・・・・思われた瞬間、星がはシンの蹴りバックステップでかわした。 しかし、なおもシンは執拗に蹴りを放つ、星牙も負けじとバックステップを続ける。 「小賢しいっ!」 シンはそう言うと、足を鞭のようにしならせ、星牙に思い切り振り下ろした。 しかし、なおも星牙は避けた、シンの蹴りを高く跳躍してかわす。 と、その時には、星牙のすぐ後ろには海があった。 星牙はそのまま背後に飛ぶと、海の上に踊り出た。 海に落ちるであろう、と思ったシン等四人は、口元に笑みを浮かべる。 しかし、星牙は上手く空中で体を捻ると足の先を水面につけた。 水面に波紋が渡る。 シンは我が目を疑った。 星牙は足先から、ゆっくりと足をぴったりと水面に付ける。 「いい蹴りだけど・・・・力不足だな」 星牙がそう言う、しかしシンたちは聞いてはいなかった。 水は、穏やかに波を立てている。 驚愕し、目を見開いている彼らを一瞥すると、星牙が言った。 「見せてやる、我が力の片鱗を」 星牙が右手を掲げる。 すると、それに呼応したかのように、両足がふわりと水面からわずかに離れる。 その足元の水が激しく渦を巻き始めた。 ――ゴォオォオォオォオ その渦を見ながら、星と虎武が嘆息する。 ただならない気配を感じ取ったシンは、海上に浮かぶ星牙に向け、構えを取ると、言った。 「くっ、そっちがその気なら、こちらも本気を出させてもらいますよ」 シンの周囲の気配が変わる、先程までの気配と一転、殺気が辺りに立ち込める。 本気になったシンを見ると、中空に浮いていた星牙の口元が歪んだかのように見えた。 すると、海面の渦が消え、水上に浮かぶ星牙の後ろに水球が三つ、海中から姿をあらわした。 「・・・・三つか・・・・・」 光樹がそうつぶやくと。 「だね、星牙も勘を取り戻してきたみたいだね」 「ちっこいのだったら100個は軽かったけどな」 虎武、星が口々に言う。 そして、巨大な水球とは別に、星牙の眼前に小さな水の塊がふよふよと浮いている。 その小さな塊に、星牙が手を差し伸べる。すると塊は振動すると、見る間にその形を変えた。 「・・・・・・・・・・・・・鎚!?」 シンは、星牙が持ったそれを見ると、驚きの声を上げた。 「嘘だろ・・・・あの水の量を・・・操れる・・人間? んなバカなっ、そんなことができるわけが・・・・」 ガイは呆然と星牙の行動を見ていた、そのガイをゴウがなだめる。 「うるさいぞガイ、あの人間はそれができている、それが真実だ。それより、お前を指名しているようだぞ」 ゴウがそう言って、指した。 ガイは、その指している方をみる、するとそこにはほんの微かに笑みを浮かべ、人差し指でちょんちょんと招いている虎武がいた。 「へへ・・・・・ご指名か、んじゃ行ってくるか」 といってガイは跳躍すると虎武の側に来た。 「いらっしゃ〜い、おまえの相手はこの虎武だ、勝てるかな?」 虎武がにやりと笑うと、負けじとガイも笑みを浮かべ、言った。 「へっ、俺が勝ってやるさっ、行くぜっ」 ガイの胴を白虎の鎧が包み込む。 「へっ、あの人間みたいに、お前も何かあるんだろっ、隠さずに出せよっ」 ガイは笑いながら虎武に言う。 「察しが良いな。でも、後悔するぞ?」 そう言うと、虎武は両腕を交差させ、ガイの視線から自分の顔を隠した。 交差させた両腕が光る。 ガイVS虎武 「ふぅ、やれやれ、野蛮な・・・・」 ガイと虎武の様子を見ていたレイが嘆息しながら呟く。 すると、 「のんきにしてる暇があるのか?」 レイの背後から声がした。 「なっ、貴様っ、いつの間にっ」 背後を取られ、レイは驚きながら、身構える。 「簡単に後ろを取られるか、四聖獣も大した事ないな」 星は、両手を平げて『やれやれ』という仕種をする。 挑発されたと感じ取ったレイは、 「くっ、だったら見せてあげましょう、四聖獣、朱雀の力をっ!」 と言う。すると、レイの背中に朱雀の翼が現れる。 「最初からそうしろよ、バ〜カ」 星が言い放つ。そして、右腕を前に差し出すと、それから紅蓮の炎が飛び出す。 星は炎をまとう。すると、炎が形を成し、長い刃に長い柄の付いた刀が出現する。 「薙刀・・・・・・・・・・・・・・・・・・?」 ち、と舌打ちを残し、レイが跳躍する。 レイVS星 「こいつら・・・・我等が四聖獣だと、神だと知っていて戦いを挑むのか・・・いやまさか・・・・・我等の力を知っておきながら戦いを挑むなど」 「・・・愚かにもほどが有る・・・と?」 光樹が口元に笑みを浮かべながら言う。 ゴウは少しだけ驚いたような表情を見せたが、くつくつと笑った。 「・・・ふっ、俺を指名か」 「・・・ご名答、逃げはしないよな・・・?」 「ふっ、お前ごときに逃げたと有ったら四聖獣としての名折れだからな」 ゴウが挑発するが、それを光樹があっさりと返した。 「・・・そうか、なら負けても気に病むなよ・・・・・・」 光樹の言った言葉に、ゴウは激怒する。 「なんだとっ!? そう言う冗談は勝ってから言うべきだな!」 ゴウの両手に、青龍の牙が握られる それと同様に、光樹が右手を掲げる。 「・・・出でよ・・・・・・・・・・・・・・」 光樹が言うと、腕に剣を持った時のような重量がかかる。 次の瞬間、光樹の周りを風が取り巻く。突風と共に、ゴウはその目に焼き付けた。 光樹の持つ、とてつもなく大きな剣を。 ゴウVS光樹 「くっ、水球か・・・かつて操る事ができる人間がいることは知っていたがこれほどとは・・・・」 星牙の操る三つの水球が静かにシンのいるほうへと向かってくる。 「しかし、私も四聖獣の1人、そう簡単に負けはしませんよっ!」 シンの右手を、玄部の甲羅が覆う。 星牙は、水球の1つに飛び乗ると、その手に持った鎚をくるくると回す。 すると、球はゆっくりとシンに向けその巨体をゆっくりと動かした。 シンVS星牙 星牙はなおも手に持った鎚をくるくると回している。 尋常ならぬ雰囲気を感じ、シンも警戒心を強める。 星牙は回していた鎚をしっかりと握る。 すると、巨大な水の固まりはその姿を維持する事を止め、落下しあたり一面を水で飲み込んだ。 ――バッシャァ〜〜〜ン 『きゃあっ』 膨大な量の水は、辺り一面を満たすと、守護天使達が居る場所までも濡らした。 星牙は地に降り、両手で鎚を握り締める。 そして、シンに言う。 「かかって来い」 手招きしながらそう言うと、シンが飛翔する。 「ハァッ」 シンが星牙に蹴りを放つ。しかし今度は避けようともせず待ち構える 星牙はしっかりと鎚を持つと、シンの蹴りを鎚の柄の部分で受け止めた。 シンはなおも蹴りを放つ。体を捻り、浮かせ、渾身の蹴りを星牙に打ち込む。 星牙は片手で鎚を持ち、二発目の蹴りを右腕で受け止める。 ――ミシィッ 鈍い音が聞こえる。 蹴りを受け止めた星牙の右腕から骨の軋む音が聞こえる。 星牙は腕を払う、シンも足を離し、体勢を整える。 お互いに距離を取り直す。 距離を取ると、おもむろに星牙は手に持った鎚を両手で持つと、瞳を閉じ、鎚に額を付ける。 星牙が何かを呟く、すると辺りに散らばる水が星牙の周りに収束する 「集え」 星牙がそう言って手に持った鎚を片手でもち、高く掲げる。 「水刃!」 星牙が叫ぶと、辺りを取り巻く水がその身を起こし、一直線にシンに向かう。 声に答え、その姿を鋭い刃へと変化させ、シンを襲う。 「ふっ・・・無駄ですっ!」 水の刃がシンを襲うのと、シンがそれを言うのは全くの同時だった。 水の刃がシンを切り裂く。 と思ったその時、シンの身体は、黒い盾で覆われ、傷1つ負っていなかった。 「玄武の甲羅・・・・・・盾・・・か、当然だな」 星牙はそれほど驚いた様子もなく呟く。 (馬鹿正直に真正面から襲ってくるものが防げなかったら阿呆だからな) しかし、その星牙の様子にシンは気付かなかった。 自身満々に言う。 「ふっ、玄武の甲羅が戻った今、あなたの攻撃は私には通じませんよ!」 そのシンの言葉にカチンときたのか、星牙は鎚を軽く上げる。 それと呼応して、シンの背後の水がかすかに動く。 「シンっ!後ろっ!」 ガイが叫ぶ。 ハッとした表情でシンが背後を振り向く、その動作と同じくして、刃と化した水がシンの頬をかすめる。 赤い鮮血がシンの頬から現れる。 異常なまで鋭い水の刃は痛みをシンに与える事は無かった。が、それよりも、全く反応できなかった事にシンは驚愕していた。 「調子に乗るなよ? 手加減してやっているんだ、獣神具が有ろうとなかろうと、あんたに勝つ事は造作もないんだ」 シンは歯を噛み締める。 「何者だ・・・・・・我等と対等に、いや、それどころではない・・・むしろ・・・・・・・・」 『我等より上回っている』 そんな言葉がシンの脳裏によぎる。 両の手を眼前で交差させていた虎武がその手を下ろす。 虎武の両の手を手甲が覆っていた。 それを認めたガイの口元に笑みが浮かぶ。 「おもしれぇっ、てめぇは篭手かっ! 先手必勝っ、はぁっ!」 ガイは笑いながら右手の爪を鋭く尖らせ、虎武に攻撃する。 久しぶりに思いっきり暴れられるのだ、楽しみで笑みがこぼれるのもしょうが無いのだろう。 ガイは鋭く尖った右腕の爪を、虎武の身体に突き立てようとする。 「甘い」 虎武がそう言うと右手を眼前に持ってくる、ガイが突き立てようとする爪をガードしようとの事のようだ。 「へへっ、無駄だぜっ、俺のこの爪は鉄さえも引き裂く・・・・・・何ぃっ」 ガイが言うと同時に爪は虎武の篭手に触れた、ガイは、自慢の爪が篭手をいとも容易く突き通すと思った。 しかし違った。 篭手はガイの鋭い爪を遮ると、攻撃を完璧に防いだ。 「くっ、防がれたか。なら、二つならどうだ!」 忌々しげに言いながら、ガイは左手の爪も鋭く伸ばす。 それを見た虎武は、ため息を1つ漏らすと。 「最初からそう来いよ、余裕こいてないでサ」 「言われなくても、やってやらぁ〜〜〜っ」 虎武の要望に答え、ガイはナイフのように鋭い手刀で虎武に襲い掛かる。 「切り刻んでやるっ!」 ガイは鋭く尖った爪で虎武を突く。 しかしそれを虎武が右の腕で弾く。 「しゃらくせぇっ」 弾かれたほうはそのままに、もう片方で再度虎武を貫こうとする。 「けど・・・・・・・甘い」 虎武の右腕がゆったりとした動作で動く。 次の瞬間、虎武の胸を貫こうとしたガイの爪の先を、右腕の指先で動きを封じた。 「ぐっ」 ガイの口から呻き声が聞こえる。 押しても、どんなに力を入れてもそれ以上先に進める事ができなかった。 ガイの額に汗が浮かぶ。 ふと、ガイは同胞であるシンをちらりと見た。 ガイの目に、シンの背後でうごめく水の塊が映る。 「シンっ! 後ろっ」 それと同時に、虎武が腕と体を同時に引く、ガイはバランスを崩した。 虎武はバランスを崩しているガイの額へ、人差し指と親指で輪を作り、持ってくる。 この後に何をするかは、誰でもわかるであろう。 ――バッチ〜〜〜〜ン 「みギャァ〜〜〜〜〜〜〜ァッ」 ガイが絶叫する。 猛スピードで走るトラックすらも受け止める虎武のデコピンである、痛いのも無理はない。 常人であればおそらく頭蓋骨が陥没してもおかしくないソレに、ガイは額を押さえ、背後に飛びのく。 「・・・・・つっ、つつつつっ〜、なんだよコイツの力はっ、こいつ・・・オレより・・・・・」 『強い・・・・・・? そんな馬鹿な・・・・・・』 考えたくもないこと、認めなければならない事がガイの脳裏で囁いた。 「先刻は背後を取られましたが、二度は有りませんよっ」 レイがそう言いながら星と対峙する。 星はその手に持った薙刀をの石突き――刃の付いている方の正反対の部分――を地面に立てながら立っている。 「さぁねぇ、二度が無いかどうか、決めるのはアンタじゃなくて実力がだろう?」 と、星が言い放つと、レイは歯軋りをする。 「その減らず口! すぐ聞けなくして差し上げましょう!!」 と言うと、レイは空高く飛翔する。 星はそのレイを目で追う、未だに薙刀の石突きを地面につけたままである。 レイは、獣神具、朱雀の翼を羽ばたかせる。 翼を羽ばたかせると同時に。その翼から羽根が数枚飛び跳ねる。 しかし、その羽根は地に落ちることなく、その場でくるくると舞うように回転する。 「これをよけることは不可能ですっ、喰らいなさい!」 すると、レイは再度大きく羽ばたいた、さらに羽根が飛び跳ねる。 「はぁ〜〜〜っ」 レイの声と呼応し、飛び跳ね、くるくると回転していた羽根の動きが止まった。 羽毛の部分が刃のように鋭利化する。 その様子を見て、ようやく星が動いた。 薙刀の柄を両手でつかみ、頭上に掲げる。 「フェザーアローっ!」 レイが叫ぶ、すると刃と化した羽根が一気に落下を始める。 100を越える刃が重力を味方につけると、一直線に遥か下、地に立っている星にその刃を向ける。 ――ボッ 「なっ!?」 刃が星に向け落下してるのと同じ時、星の掲げた薙刀の刃に炎が灯る。 星は、両手でしっかりと持った薙刀を、円を描くように振ると、思いきり振り上げる。 その動作に反応し、刃に灯っていた炎がその勢いを増し、上空で羽ばたくレイへ猛進する。 炎は渦を巻き、突進する。 炎の進行直線上にレイの放った刃が有った、なおもその刃は星めがけ降下している。 しかし、炎がその刃を一気に飲み込む。 刃は炎に焼かれ、消滅する。しかし、星の放った炎はその勢いを衰えさせる事なくレイを襲う。 「くっ!」 迫り来る炎の渦をレイは朱雀の翼を羽ばたかせ、避ける。 寸前で炎をかわす、炎はかすかにレイの髪の毛の数本を焦がし、消滅する。 「なんと言うことだ・・・・・・ぼくの羽根を容易く焼き払ってしまうとは・・・・・・あの薙刀はいったい・・・・・っ!?」 レイは、呟きながら、下方の星の姿を見る。すると星は再び薙刀に炎をまとわせている。 「くっ、そうはさせませんよっ」 レイはもう一度羽ばたかせ、星めがけ急降下する。 空中で身体を反転させ、両足をそろえ、蹴りの体制に入る。 そのまま蹴るのかと思ったその時、レイの両足が鋭く、鷲のカギヅメのように変化する。 「その身体を引き裂いて差し上げましょうっ!」 レイが言うと、星の耳がぴくりと動く。 星は顔を上げると、ぼそりと言い放つ。 「おあいにく、アンタ如きに引き裂かれるほどヤワじゃないもんでね」 星は薙刀に炎をまとわせたまま、両手で持つと、それを頭上に掲げる。 次の瞬間、レイのカギヅメと薙刀の柄が火花を散らしてぶつかり合う。 両者の力が拮抗していると、突然星が腕を引き、バックステップで間合いを取る。 カギヅメは空を切り、地面に深々と突き刺さった。 「ふっ、耐え切れずに逃げ出しましたか・・・・・・」 と言うレイの言葉に、星は嘆息しながら答えた。 「甘くみるな、アンタの攻撃なんざ毛の先ほども通用しないんだ・・・・・・見てろ・・・・・・」 星は手に持った薙刀を地面に突き立て、右手の人差し指と中指を立てる。 その立てた指に、星は軽く息を吹きかける、すると突如星の身体を火が取り巻いた。 「!?」 レイは目を見開いた。 「我が力、火の刃、受けてみろっ!」 星は立てた指でレイを指す。すると、それにともない星のまとった炎が腕から吹き出す。 「火刃!」 星がそう言うと、炎はその身を、鋭い刃となってレイに襲い掛かった。 「くっ」 レイは朱雀の翼を羽ばたかせ、一瞬のうちに空高く飛翔した。 炎は地を駆ける、しかし、すでにレイは空高く舞い上がっている。 つい先ほどまでレイが立っていたところまで炎が走る。 すると炎は再び1つに融合すると、まるで命を持ったかのように上空に居るレイを目標に、方向を変えた。 炎は再び分裂する、赤き刃はその身を三つに分かつと、上空のレイを切り刻む為、激しく接近した。 「くっ・・・・・・!」 レイは朱雀の翼を羽ばたかせ、刃を避ける。 三本の刃を、レイは意外と容易くかわした。 「ふっ、こんなもの・・・・・・・・なっ!?」 レイが下方に居る星を見やる、しかしそこに星の姿はなかった。 「馬鹿なっ!?いったいどこに・・・・・・っ!」 「ここだ」 声はレイの背後から聞こえてきた。 腕に持った薙刀を脇に抱え、星はレイに拳を突きたてる。 レイが翼を羽ばたかせ、背後を向くのと、星が拳をレイに向かって突き立てるのが同時だった。 渾身の力で振り下ろされる星の一撃を、レイは何とか両腕で防いだ。 しかし、ガードできた反面、その衝撃でレイは叩き落される。 地面に打ち付けられる寸前で、レイは体を捻り、翼を羽ばたかせ、衝撃を打ち消し地面に下り立つ。 「馬鹿なっ・・・こんな事が・・・・」 ――見えなかった・・・・・・一体いつの間に背後に? 『速い・・・・・・・・・・・・のか? このぼく、朱雀のレイより・・・・・・・・・・・・?』 遥か上空にて、星が微笑する。 「ふっ、貴様は剣か・・・面白い、剣技対決と言うわけだな・・・・・・」 ゴウは、青竜の牙を構えつつ、光樹が持つ剣を見てそう言った。 「・・・さぁ・・・・どうかな、対決と言えるかどうかはわからないが・・・・・・・」 光樹は大剣を持って跳躍する、ゴウの目の前まで来ると、一気にその剣を振り下ろした。 すかさずゴウは青竜の牙でその刃を受け止める。 すると光樹は、再び身体を離すと、剣の柄をしっかりと握ると、横に薙ぎ、縦一文字に切る。 「十字切りか・・・・!」 ゴウも咄嗟の事態にも関わらず、冷静に光樹の2連切りを防ぐ。 ゴウが上手く防ぐのを見て、光樹はほくそえむ。 (・・・結構やるな、さすがは神と名乗っていただけは有るか・・・・・・・・だが・・・) 光樹はバックステップで再び間合いを取る。 突然のその行動にゴウは拍子抜けしたような表情で光樹を見る。 「どうした?それだけか?」 ゴウがそう言うと、光樹が首を振った。 「・・・神を超える力を見せてやるよ・・・・・・・・・・・・・・」 光樹は大剣を眼前でしっかりと握り直す。そしてさらに、瞳を閉じ、精神を集中させる。 (なんだ・・・・・・・?) 怪訝そうに見ているゴウの頬を優しく風が撫でる、風は優しく吹き、ゴウの髪の毛をなびかせている。 ゴウの顔に笑みが浮かんだ。 「成る程、貴様は『風』と言うわけか・・・・・・風読み族はとうの昔に滅んでいたものだと思ったのだが・・・・・・・」 風読み族。それは遥か昔、風の声を聴き風を自在に操ることができたと言われる種族である。 しかし、思い上がった彼らは、自分たちの手におえないものを操ろうとして、一族の血を絶やす結果になってしまった。 そして、彼ら『風読み族』と同様に存在した『水読み族』 『炎読み族』 『土読み族』 所詮は人間、襲い来る大自然の力には勝つ事ができる道理が無いのは当然の事だったのだ。 『竜巻』 『津波』 『火山』 『地震』 彼らを滅亡に追いやった災害は、遥か時を経たとしても、人間の恐怖の対象となっている。 光樹は、ゴウの言葉に少しだけ意外そうな顔をしたが、すぐに表情を直し、嘲笑した。 「・・・彼らは、所詮借り物の力・・・。どんなに素晴らしい力を持とうとも、手におえない物は必ず有る、オレでも、お前でも・・・」 多分ね、と光樹は心の中で付け加えた。 借り物、その言葉がゴウは気になったが、即座に思考を振り払った。 眼前で剣を構えていた光樹が姿勢を変えたためである。 両手を上げ、剣を大きく振りかぶる。 ゴウも青竜の牙を構え、光樹の攻撃の衝撃に備えている。 そして、光樹がその大剣を一気に振り下ろした。 「風刃…」 光樹がそう言うと、振り下ろされた剣は空を切り、そしてその衝撃に風を巻き込み、ゴウに向かって猛烈な勢いで疾る。 風は轟き、囁き、叫び、そして鳴く。 衝撃はなおも威力を増す、ついにはその刃が地面を切り裂くまでも膨れ上がった。 「くっ!」 ゴウは青竜の牙を両手でしっかりと握ると、脇を閉め、両足に命一杯力を込める。 次の瞬間には、光樹が放った風の衝撃波が轟音と共にゴウを襲った。 「ぐぅっ・・・・・・・くっ!!」 ゴウは風の衝撃波をその体と、青竜の牙だけで受け止めた。 ゴウと風の、激しい綱引きが繰り広げられる。 風はなおもその身を前に進めようとする、しかしそれをゴウがその体を使って防ごうとしている。 (避ける事は叶わぬ、何とか踏み止まらなければ・・・・・!) 風はすでにゴウの身体を飲み込むには十分の威力を持っていた。 (・・・今この場を放棄するのは簡単だろう、しかしその後は? 抑えるものが居なくなったら風はどうなる? あいつなら風を自在に操り、その衝撃波を消し去る事ならできるかもしれない。 しかし、巻き込まれるのはおれだ、おれの為に消してくれる事は到底叶わぬ事だろう。 ならば、結論は1つ・・・・・・あまりの威力に近寄ればあいつも巻き添えを喰らう、 コレを打ち消せば、あるいは跳ね返すことができれば・・・・勝機はある!) 「ぬっ・・・・・うおぉおぉおぉおっ!」 『認めなければならぬのか・・・・? こいつらが、我等より強いことは・・・・・・・・・?』 青竜の牙を握るゴウの手に血がにじむ、風を受け止める為に力を入れていたため、数多の裂傷が皮膚に付いている。 そして、ゴウは剣を持ち直す。 直後、横と、縦に剣を振った。 「まだ・・・まだです! 私はまだ負けたわけではない!」 膝を付き、狼狽していたシンが身を起こし、叫ぶ。 星牙はなおもその手に鎚を持ち、立っている。 シンは理解していた、自分はこの者には勝てないと言うことが。 自分だからこそ理解る、この者が持っている力は我が遥か望んでも手が届かない事を。 そして・・・・・・・・・・・戦いはまだ終わっていないと言うことが・・・・・・・・ わかってはいたが、終わらせるわけにはいかない、神を名乗ったその身、最後まで戦わなければならない。 シンは身を起こすと、両手を振り払う。 痛みはない、彼が傷付けたのは自分の頬だけだった。 やろうと思えば自分など、一瞬のうちに細切れにできるだろう、では何故? 考えても答えは出ない。 訊いても教えてはくれないだろう。ならば、勝って訊き出さねばならない、しかし自分では彼には勝てない。 堂々めぐりだな、とシンは自嘲の笑みを浮かべる。 その笑みに気づいた星牙が言う。 「どうした?」 シンは頭を振った。 次元が違いすぎる、我ら神でさえ赤子の手を捻るように体よくあしらわれているのだ。 それならば・・・・・・・イタチの最後っ屁とするか・・・・・・と、 シンは、自分が好いてはいなかった人間の作り出したコトワザと言うものを、自分が使ったことに、心の中で笑った。 (やれやれ、やはり、人間の可能性と言うものは恐ろしい、神さえも凌ぐのですか・・・・・・・) シンは考えるのをやめた。 両手を胸の前で交差させる。 「これが・・・・・・私の最後の力です・・・・・・」 星牙はシンの顔を不思議そうに見る。 さらにシンは続ける。 「コレが通じなければ・・・・・・あなたの勝ちです・・・・・・・・・その後は、煮るなり焼くなり好きになさい」 シンは、星牙の返答を持たず、両手を払った。 すると、その両腕の先から無数の六角形の刃が現れ、星牙に向け激しい勢いで突き進む。 星牙は複雑そうな笑みを浮かべる。 「悪いな・・・・・・・・・」 星牙が一言だけ詫びると、槌が水へと還元する。そしてその水が大きく、そして鋼色に変わり、星牙の身を守った。 (玄武の甲羅・・・・・ですか・・・コレでは・・・・・勝てませんね、やはり) シンの目に映ったもの。それは片腕を前に突き出し、シンが放った刃をその片腕を包む盾で弾く星牙の姿だった。 (私の・・・・獣神具すらも模するのですね・・・・・・しかも、あんなに力強い) 刃を全て弾くと、星牙は再び直立不動の体制になり、シンを見る。 星牙の片腕を包み、その身を守ったもの、それはシンの持つ獣神具『玄武の甲羅』に相違なかった。 ただ、シンの使う盾より遥かに大きく、強固だった。 それを見届けると、シンは糸が切れたように倒れこんだ。 (気絶・・・ですか、都合が良いですね・・・・・・後は・・・・お任せしますよ・・・・・・・・・・・・・) 糸が切れたようにシンは倒れこむ。 しかし、そのシンの腕を星牙が掴んだ。 今にも途切れようとする意識をもう一度結びなおし、シンは驚愕と疑問の混じった眼で星牙の顔を凝視した。 ふっ、と星牙が微笑む。 「お前の予想は十中八九当たりだ、訊きたいなら話す、が、その前に・・・・・・・・・・・・」 腕を掴みながら星牙が言う、するとシンの身体から金色の光が現れる。 金色の光は、宙をふよふよと漂い、呆然と戦いを見守っていた悟郎の下へと行った。 困惑気味の悟郎を光は包む、そして即座に光は消えた。 「獣神具が・・・・・・・」 裏切った、とは言わなかった、言えなかった。 凛とした女性の声が響いたからである。 シンは、その声の出場所を視線で探し、その姿を認めると、目を見開いた。 他の同胞の戦闘を見ながら、ガイは思っていた。 (こいつはいったい何を使うんだ?) ガイと対峙して立っている男、虎武。 彼は両腕をぶらりと垂らし、自然体で立っている。 あまりにも無防備なその体勢に、ガイも思わず攻撃出来ないでいた。 ただ、依然として虎武の両腕を手甲が覆っていた。 異様な気配がガイと虎武を包む。 ガイは、目の前に立つ男を警戒していた。 (火、風、水・・・って来たら、次はなんだ?) ガイは指折りかぞえ脳内をそれだけで支配していた。 そして、虎武が口を開いた。 「俺の力が知りたいか?」 「!!!?」 心を見透かしたかのように喋る虎武の口調にガイは驚く。 そのガイを無視して、虎武はなおも続けた。 「知りたいなら、見せてやるよ、その身をもってだが・・・・・・」 虎武はぶらりと垂らしていた両手をスッと持ち上げる。持ち上げた両手の中に、白い光が灯る。 光は虎武の手の中から抜けると、地面に落ちた。すると、光は猛烈な勢いで地面の上を走った。 右手から落ちた光と、左手から落ちた光が縦横無尽に不規則に動いていた。 少なくともガイはそう見えた。 しかし、すぐに違っている事に気づいた。 光が走った部分が淡く光っている。 その間になおも光は走りつづけ、そしてぶつかり、消えた。 光の走った後が、淡く光る。 「紋章・・・・・魔法陣・・・・・・?」 ガイの口から思わずこぼれた言葉だった、淡い光は、幾何学模様を作り出していた。 「・・・・・・・・・・・・・!何か・・・やばい!」 神としての直感か、それとも動物しての直感か。どちらにしろ、何かを感じ取ったガイは咄嗟に飛びのく。 「・・・・・・・・・・・・・・勘が良いね・・・・・・」 虎武がそれを言うのと、地面に描かれていた模様から砂が溢れ出すのは全く同時だった。 「チぃっ、てめぇは砂かっ!」 ガイが悪態をつく。 「ご明察、でも出てきた後に言っても得点は上げないよ、補習かな?」 虎武はクスクスと笑う。そして右手を掲げると、ガイの居る方向に振り下ろした。 その行動と、砂が動くのは全くの同時だった。 砂はその身を鋭い刃となし、ガイを襲う。 「砂刃!」 虎武が叫ぶ。 ガイは紙一重でそれをかわすと、虎武に向け一直線に突撃した。 砂は方向を転換し、ガイの後を追撃する。 「俺はタダじゃ殺られないゼっ!」 ガイが自身満々で言う。やれやれ、といった様子で虎武は直立不動になる。 「ヤるならどうぞ? 己の力で身を砕かれたいのなら」 虎武がそういうのと、鋭く尖らせたガイの爪が突き刺されるのが全くの同時だった。 しかし、何故かその爪をガイは止めた。 「なんでだ・・・・・・・・・・・・・」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 ガイの質問を虎武は無言で返す。 「なんで、なんでお前の胴を白虎の鎧が覆っているんだっ!?」 驚愕以外の何物でもない、その表情を浮かべたガイの背中を、砂が追撃した。 「グあァっ・・・・・・・・」 激しい勢いで砂に打たれ、ガイは地面を転々と転がる。 (強い・・・・・・・・俺なんかより・・・ずっと・・・・・・・・・・) ガイはなおも立ち上がろうとする。 「やめとけ、もう無理だ、諦めろ」 虎武が諌めるように言う。 しかし、ガイは身体を震わせ、その身に鞭打ち、起き上がろうとしている。 「何故だ・・・・・・・・・・・・・・・」 ガイから発せられたその言葉に、虎武は不思議顔をする。 「それって何のことだ? 『お前は何故オレより強いんだ?』か?」 ガイは首を横に振った。 「ん〜、だったら・・・・・・『何故お前たちはここに来たんだ?』か?」 なおもガイは首を横に振る。 「違うのか? じゃぁ、なんだ・・・・・・・?」 虎武はあごに手を置いて本気で悩む仕種をする、それをガイの声が止めた。 「なぜ、なぜお前は白虎の鎧を持っている・・・・? 白虎の鎧は、俺だけが持つ獣神具だ、それなのに・・・・・・」 ガイは言葉に詰まった。 (ひょっとしたら『人間の可能性』で片付けられるんじゃねぇかなぁ?) 虎武は右手で頬を掻く仕種をする。 「それは、これが獣神具より上の存在、『聖武具』だからだよ」 と言って、虎武は未だに腕を包む篭手を前に突き出す。 「上・・・・・だと?」 虎武は無言でうなずいた。 「なるほど・・・・・・・獣神具より上の存在・・・・・・か、道理で簡単に真似されると・・・・・・思った・・・・・・ゼ」 ガイは膝を折り、その場に座り込んだ。 聖武具なんて言葉は聞いた事が無かった、が、目の前でいとも簡単に白虎の鎧を真似されたからには疑えるわけが無い。 ガイは深く重い溜め息を吐いた。 すると、ガイの身体から金色の光が現れる。 光はフワフワと浮かび、悟郎の下に行くと、彼の体の中へと消えた。 それを見て、ガイは嘆息した。 (結局、獣神具もあいつを選んだって訳か) と、その時、凛とした女性の声が響いた。 地に立つレイの目に、上空に浮く星の姿が映った。 (何故・・・・・何故彼は空中に浮いている!?) そのレイの思いを読み取ったかのように、上空に居る星の口元が動いた。 すると、星の後ろに光が見えた。 さらに見ていると、明らかに光を放っていた。 「そ、そんな馬鹿なっ! それは・・・・・・っ!」 レイは我が目を疑った、宙に浮く星の背中にある存在を。 それは・・・・・・・・・・ 「ぼくの・・・・・・・朱雀の翼・・・・・」 レイは当惑する。 見間違える事はない、あの赤い翼は自分が所持する朱雀の翼に相違ない・・・・・・ しかし、何故彼の背中に? レイが目を見開いている。その時、星の背中から生える朱雀の翼に異変が起こった。 レイは目を疑った。 「三対の・・・・翼・・・・・・・」 星の背中の朱雀の翼は、その身を震わせ、三対、六枚に増えた。 「そんな馬鹿な・・・・・ただの人間が・・・僕の朱雀の翼を真似るなどと・・・・・・・・」 レイは狼狽して呟く。そこへ上空の星から冷淡した声が届く。 「諦めろ、アンタに勝ち目はもう無い」 そんな事はレイにも百も承知だった、こちらの精一杯の攻撃は全く通じない。 その反面、あちらは見るからに余力を残している。 そこへ星の背中の三対六枚の朱雀の翼だ、否応なく理解させられるだろう。 しかし、それをレイのプライドが許さなかった。 レイはなおも立ちあがった、それを星は戦う意志有りと見たのか、六枚の翼を強く羽ばたかせる。 「悪いな」 星はそれだけ言うと、再び強く羽ばたかせた。 翼から数枚の羽根が飛び跳ねる。 その羽根は空中でくるくると廻りながら待機している。 星が地上に立つレイを一瞥する、ソレに導かれるかのように、辺りを取り巻く羽根がその身を刃に変え、レイに降り注いだ。 レイは虚ろな目で空を見上げた。 そんな事を考えながら、レイは瞳を閉じた。 ――避けられない 刃はレイに降り注いだ。 しかし、レイはその身に刃の突き刺さる衝撃を感じる事は無かった。 不思議に思って目を開けると、星はゆっくりと地面に下り立っていた。 三対六枚の翼はなおもその姿を誇示するように星の背中に存在した。 星が、ふっとため息を漏らす。 星の背中の翼が消える、それと同時に、レイの身体から金色の光が現れる。 「ぼくの翼が・・・・・・・・」 レイは寂しげな表情を浮かべ手を伸ばす、しかしその手は何も掴むことなく空を漂った。 光は漂い、悟郎の元に行き着く。 そして、光は穏やかに輝きながら、悟郎の体内へと消えて行った。 悲しみの表情を浮かべるレイを、今度は驚愕を襲う。 凛とした女性の声が響き、その声の主の姿を見たためである。 ゴウは風を青竜の牙で切った、横に一閃、そして上から縦に一閃。 風は十字に斬られ、四つに分裂し、ゴウの頬を撫でるように過ぎ去っていった。 いとも簡単に切れたことにゴウは驚愕した。 しかし、すぐ理解した。 (成る程、最初から彼らの目的は我らを殺すわけではなかったと言うことか・・・・・・・) 光樹は剣を持ち仁王立ちしている。 ゴウは風を裂いた青竜の牙を地面に突き刺した。 そして、光樹に、意外なほど丁寧な口調で尋ねた。 「つかぬ事をお伺いしたい、貴殿らの目的はなんなのだ?我々の命を取ろうという気ではないであろう?一体何が目的で・・・・・・?」 神であるゴウが、突然うやうやしく喋り出した事に、守護天使たちは驚いた。 光樹はそれには答えず、大剣の柄を握り、切っ先をゴウに向ける。 すると、ゴウの身体から金色の光が現れた。 「これは・・・・・・・・?」 ゴウは不思議顔で自分の体を見た、するとその金色の光は、ゴウの体を離れ、悟郎の元へ行き、そして消えた。 ゴウは辺りを見渡し嘆息した。 レイも、ガイも、シンも、そして自分の獣神具も、奪い返したはずの悟郎のところへ戻っていった。 落胆とも、諦めともつかない――あるいはその両方か――溜め息を四人は洩らした。 そこへ、凛とした女性の声が聞こえた。 「そこまでです」 聞き覚えのあるその声の主へ、守護天使たちが視線を移した。 『メガミ様っ!?』 予想だにしなかった人物の乱入に、守護天使たちは驚愕の声を上げ。 ゴウたち四聖獣も、また目を見開いた。 |
第16話『映す 想い 過去』に続く