公園のアーチの上に立つ四人の男。

その男たちをにらみつける守護天使たち。

そして、その男たちの立っているアーチの下に、さらわれた4人が立っていた。

「睦悟郎はどこだ」

男の一人が言う。

「おあいにく、ご主人様はいくら待っても来ないわよ!」

ミカがそう答える。

「なんだと?」






幻影の天使たち

第13話




夢であるように



「さっさとみんなの返すの〜」

「だったら睦と交換だっつの。こいつらがどうなっても良いって言うんなら・・・・・」

男がそう言ったとき、その隣にいた男が手で制する。

「なんだ? シン」

「ふっ、その必要はないみたいですよ、ガイ」

シンが鋭い目つきで守護天使たちの背後を見る。

その視線に気付いた彼女たちも一斉に背後を振り向く。

そこには、みんなを探しにやってきた、悟郎の姿があった。

「お〜い」

悟郎は手を振りながら駆け寄る。


『ご、ご主人様?』


彼女等は一斉に声をそろえて言った。

「ど、どうして・・・・」

ランが不思議そうな顔をして悟郎を見ている。

「はぁ、はぁ・・・ここにいたんだ・・・みんな」

肩で息をしている悟郎を見て、ミカが言った。

「ちょっとぉ〜、何できちゃうのよ〜」

「手紙は・・捨てたはずなのに・・・・・どうしてここに?」

心配をかけないために、四聖獣からの手紙は破り捨てた、しかし四聖獣の目的である悟郎はここにいる。

ミカとアカネの言葉に、悟郎は。

「ハーモニカを吹いていたら、みんながここに居る気がしたんだ。それに、忠治君がみんなを見たって」

「もうっ、余計なところで勘が鋭いんだから、忠治さんもなんで教えちゃうのよぉ〜」

突然の来訪者に、みんなも悟郎に駆け寄ると、喜びの表情を浮かべる。

が、その喜びも、すぐに打ち消される。

「アハハハハハハ、アハハハハハハ。これは傑作だ」

四聖獣の一人、朱雀のレイが大声で笑う。

「君たちの絆とやらが彼をここに呼び寄せてくれたんだからねぇ」

四聖獣全員の口元に笑みが浮かぶ。

目標がすぐ目と鼻の先に居るのである、無理も無い。

悟郎と四聖獣との間に、守護天使たちが立ちはだかる。

「あんた達の好きにはさせない!」

強く、そして激しく、ミカはその思いを口に出した。

そして、その思いは、他のみんなも同じであった。

「みんな!魔法陣を作るわよ!」


『はいっ!』


ミカの一声で、全員が悟郎を中心に魔法陣を作る。そして、教わったとおりに両手の人差し指と親指をくっつける。

すると、地面に守護魔法陣、守護天使が転生してくるときに悟郎の携帯電話に現れる魔法陣が浮かび上がる。

しかし、その魔法陣は完成しなかった。

みんなは心を1つに精神を集中している。しかし、四人だけ魔法陣の作成に就いていないものが居た。

「ちょっとあんた達っ、何やってるのっ!速くっ!」

ミカが怒声を張り上げ、四聖獣の足元の四人に訴え掛ける。

しかし、四人は反応しない。

青竜のゴウが口を開く。

「無駄だ、彼女たちは宿命の楔に選ばれし4人の花嫁、われらの后となる存在。愚かな人間は動物の力を利用し、虐げ、軽んじ、そして・・・・・・睦悟郎!」

悟郎は突然名を呼ばれ驚く。

「人間への復讐はお前を倒すことで幕を開けるのだ!」

徐々に地球の影が空の月を覆っていき、そして完全に月の光を遮る。

(くっくっく、この時を待っていた・・・・・)

ゴウが手を構える。

「睦悟郎・・・・・完全なる闇がすべてを支配する頃、我々はお前に奪われし力を取り戻す!」

「僕が・・・・?奪った?」

何の事かわからない悟郎は、頭の上に疑問符を浮かべながら言う。

すると、守護天使たちが悟郎の前に出る。

「そうはさせないわ!」

ランが言うと、ミカも同じく、

「ご主人様には指一本だって触れさせないんだから!」

しかし、そこへ予想外の言葉が発せられた。

「皆さんに危害を与えるつもりは有りません」

シンが1歩前に出ると言った。

「えっ?」

モモが不思議そうにシンを見る。

シンはさらに続ける。

「同じ動物じゃないですか、皆さんも人間に憎しみがあるでしょう?」

みんなの顔に迷いが生じる。

その様子を見たシンは、さらに続けた。

口元にかすかに笑みを浮かべて。

「人間は・・・裏切りますよ」

「でも・・・でも・・・・! 裏切られても、又信じれば良い!」

アカネが、シンの言葉を振り払うように言う。

しかし、それを打ち消すかのような口調でレイが。

「人間は争いを続ける・・・・・・」

「みんな仲良く日向ぼっこするれす!」

彼等の言葉を聞くまいと、守護天使たちも思い思いの言葉を口に出す。

今度はガイが。

「人間は動物に何をした?」

「ご主人様みたいな人もイッパイ居るの〜」

沈痛な面持ちで守護天使たちは四聖獣をにらみ返す。

心変わりを狙っていたが、効果が無かったため、シンはゴウに救いを求めた。

「仕方ない・・・」

ゴウはそう言って右手を天に向かって突き出した、すると一条の光が空に伸び、ドーム上に広がり、結界を作り出した。

四聖獣たちの気配が代わった、明らかに殺気が強まっている。

その気配に守護天使たちも気付き、彼女等も戦闘体勢へと移行した。

「ミカたちも変わるわよ!」

『うん!』

ミカがそう言うと、みんなが同意する。

すると、みんなのいつもの服が変化し、メイド服へと変化する。


メイド服、それは守護天使としての力を最大限に発揮することができる、一種の戦闘服のようなものである。

各々の愛用の私服が、胸元から形を変え、手の指先まで白い手袋が覆う。

「ま、待ってくれ! これって・・・・」

悟郎の言葉を無視し四聖獣が飛翔する。


『はぁ〜〜〜〜〜っ!』

『えぇ〜〜〜〜い!』



守護天使たちも力を合わせ対抗しようとする。

しかし、

力を失っているとは言え神の獣、神獣、守護天使たちが太刀打ちできるはずが無い。

触れる事も叶わず、あっさり振り飛ばされる。

地に膝を付く守護天使たち。

思わず悟郎は駆け寄ろうとする。

「みんな!」

「ご主人たま、来ちゃだめらぉ」

凛とした口調で最年少のルルが言う。思わず悟郎は足を止めてしまった。

小さくても、弱くても、悟郎を守りたいという気持ちはみんな同じくらいある、今のルルの行動こその全て。

四聖獣たちも本気ではなかったのか、即座にちびっこトリオのモモ、ナナ、ルルが立ち上がる事ができ、パチンコのような武器を取り出す。

というかパチンコそのものなのだが。

『えいっ』

三人は一斉に放つ。

しかし、それをガイがあっさりとバリヤーで防ぐ。



「ミドリっ!」

「ハイれすっ!」

アカネのかけ声に、ミドリは答える。

すると2人の特異能力により、力を合わせ、大砲に変身した。

そして、その砲台から弾が発射される。

発射された弾が四聖獣に飛んでゆく。

しかし、今度はゴウがバリヤーを張り、再び守護天使たちの攻撃は届かない。

四聖獣は無傷で立っている。

ゴウの瞳が怪しく光る。

ゴウは左手を前に突き出す、すると左手の先から衝撃波が起こり、変身していたアカネとミドリを襲う。

『きゃあああぁああぁっ』

変身が解け、ミドリとアカネの2人も吹き飛ばされる。

悟郎は咄嗟に駆け寄ろうとするが、今度はミカとランに止められる。

「ふっふっふっふ、もう終わりか、呆気ないな」

不敵な笑みを浮かべて、ゴウが口を開く。

すると、ランとミカが悟郎の前に立ち、両手を広げる。

「ラン・・・・ミカ・・・」

「ご安心ください、ご主人様」

「ご主人様はミカたちが・・・・・・」




『この身に変えても・・・お守りします!』



悟郎には、二人の決心の強さがよくわかった・・・しかし、それでも何かを決意したかのように2人を制し、前に出た。

「ご、ご主人様・・・・・」

「ダメれす・・・・」

「ご主人様・・・・・」

背後の守護天使たちから次々と声が投げかけられる。

しかし、悟郎はその声には答えず、なお歩きつづける。

そして、四聖獣の手前で止まり、言った。

「君達が何者かは知らないけれど、これ以上この子達を傷付けることは許さない!」

みんなが不安顔で見守る中、囚われし四人の守護天使にも変化が現れていた。

そして、さらに悟郎が言う。


「この子達は、
この身に変えても、僕が守る!




 

第14話『金色の風』に続く