真夜中、睦邸。

皆はプールに行った疲れでぐっすりと眠っている。

ただ一人を除いて・・・・・・

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

ツバサは上半身を起き上がらせる。

「・・・・・・ユキさん?」

その場にいない者の名を呼んだ。



睦家のベランダにて、ユキはカラスに伝書を頼む

「では・・・よろしくお願いします」

カァ、カァ・・・バサバサ・・・・・

カラスは『後は任せろ』といっているように鳴きながら飛び立つ。

と、その時、中とベランダをつなぐ扉が開かれ、ツバサが出て来た。

「ユキさん?なにしてるの?」

ツバサはそう訊ねた。

ところが、取り留めの無い質問のはずなのに、ユキの様子がおかしい。

「・・・・・ツバサさん、起きていたんですか・・・・・・・」

「うん・・・眠れなくてさ・・・・」

ツバサのその言葉を聞いて、ふと少し考える仕種をする。

そして、顔をあげ、ユキが言った。

「では、あなたから上の子供たちを起こしてきてください」

「え?」

いつもは柔和なユキの顔が真剣なものに変わった。

「大事な・・・お話があります」





幻影の天使たち

第12話




愛する人を守るために



ユキの放ったカラスが飛んでいく。

高いビルの上を通り抜けようとしたとき。

――ガシッ

ガッ、カァッ、ガァッ、カッカァ

何者かがカラスを捕らえ、何かを吹き込む。

「俺からもメガミに伝えておけ、睦悟郎の命はすでに我等の手中にある・・・・とな」

と言うと、男はカラスを離す。

カラスはすぐにその場から逃げるように飛び立つ。

そのカラスを見ながら、男は喋りだす。

「時は満ちた・・・・・・・・世界が闇に染まるとき、我等は奪われし力、獣神具を取り戻す・・・・・・

 そして、四人の花嫁を手に入れ、我々はこの地に新たなる反映の礎を刻むのだ」





――キィ・・・キィ

アユミは、公園のブランコに座りながら絵を描いている。

「まったく・・・・なんでタマミが子守りなんかを・・・・・」

アユミは、そのタマミの愚痴に対し、

「あら、一番歳が近いんですもの、この子達の気持ちが良くわかるでしょう?」



アユミ、タマミの両名は、ちびっこトリオの子守りに、一緒に公園に来ていた。

そのちびっこトリオは、その辺に落ちていた石で、地面に絵を書いている

おぉ、ナ○カの地上絵。



「む〜」

タマミはアユミの言葉を聞いて、思わずうなった

――シュッ

そのとき、アユミの座っていたブランコの後ろに人影が現れる。



タマミが何か黙想していると、ちびっこトリオの一人がタマミのスカートを引っ張る。

『見てみて〜、完成〜♪』

といって地面に書いた絵を『自信満々』に見せる。

見えなくは無いが、いろんな意味で微妙な絵だった。

「なっ、これがタマちゃんなの〜〜〜?」

タマミは思わず大声をあげる。

『えへへ〜〜〜♪』

3人は自信たっぷりでにっこりと笑う絵を見せる。

可哀想だけど、書き直させた方が良いかな?とタマミは思い至ると。

「う〜〜ん、書き直しですっ」

と、タマミがいう。

『えぇ〜〜〜〜?』

3人は不満たらたらでそう言った。

「アユミお姉ちゃんに教われば・・・・・」

と、タマミはアユミの、ブランコの方に振り返る。

「あれ・・・・?アユミお姉ちゃん?」

アユミが居ない。

どこ行ったのかと、タマミは歩きながらあたりを見回す。

そして、ブランコのそばに来たとき。

誰かがブランコに座っていた。

タマミがそれに気付き、そこに振り向こうとした瞬間。


――ガコ〜ン


ブランコが大きな音をたて、揺れた。





『ふぅ〜、できた〜』

3人は、文句を言いながらもしっかりと描き直していた。

先ほどよりはだいぶマシな絵になっている。

そして、ナナが見てもらおうと、タマミを呼ぶ。

「タマミねぇちゃ〜ん、できたよぉ〜」

返事がない。

3人はあたりを見回す。

「あややぁ〜〜〜?」

タマミどころか、アユミの姿も無い。

三人は怪訝そうにお互いの顔を見合わせた。






ツバサは、街中のペットショップの前に立っていた。

買い物帰りなのか、ツバサの手にはビニール袋が握られている。

ペットショップの前には、水槽があり、金魚がすいすいと泳いでいた。

ツバサは、何を見ると言うわけでもなく、ぼ〜っと立っていた。


ペットショップの前をトラックが通り過ぎる。

通り過ぎたとき、ツバサの隣に男が立っていた。

ツバサはその男に気付く。

その男も、ツバサの方を向いて、にこりと微笑む。

二人は、広い公園に行った






「君みたいな素敵な女性と知り合えるなんてなんて僕は幸せなんだ・・・・」

と、男が歯が浮いてそのまま飛び去ってしまいそうなセリフを言う。

しかし、ツバサは何の反応も返さず、ベンチに座っているだけであった。

そのツバサの様子に、男は心配そうにその顔を覗き込む

「どうしたの?なんだか元気が無いみたいだけど、失恋でもしたの?」

と聞く。すると、

「失恋・・・・・・・ううん、失恋なんて、そんなんじゃない、ご主人・・・・ううん、あんな奴、そう、あんな奴」

ツバサはベンチから立ち上がり、目の前の噴水のところまで歩く。

「いつもボーっとしてるし、眠そうだし、お人好し過ぎるし」

そして、噴水に映る自分の顔を眺める。

(ボクより、ランのほうが辛いんだ・・・・・)

ツバサから涙が一滴水面に落ち、波紋が渡る。

「ツバサさん?」

男が心配そうにそばにやってくる。

そして、彼はツバサの顔を覗き込んだ。

ツバサは涙を見られまいと、いきなりきびすを返し、ベンチに置いていた買い物袋をもって、帰ろうとする。

「待ってくださいっ」

男がツバサの腕を掴むと、そう言った。

「ご、ごめんなさい、ボク、ナンパなんて似合わないし・・・やっぱり帰る」

ツバサのその言葉に、男が先程までとは打って変わって冷たい口調で言った。

「帰れると・・・・思っているの?」

「え・・・・??」

ツバサは振り返って男の顔を見る。

男の瞳が怪しく光った

公園の噴水が一際激しく噴出す。

噴水が壁のように噴出し、噴水が収まったとき、そこには誰もいなかった。






ツバサと男とのやり取りを、公園の樹の一本に登って、見ていた者がいた。

その男の周りには野鳥がチュンチュンと、合唱しながら集まっていた。

「は〜ぁ・・・・・・・やっぱりこうなるのか・・・・・・」

そういって男は樹から降りようとする、すると男の邪魔をしまいと、我先にと野鳥たちがその場を離れる。

「この様子だと、他の子達も同じだな」

そして男は歩き出し、砂ぼこりが舞い、どこかへと消えていった。





街の中のタロットの占い師の店。

その前にユキは来ていた。

『とうとうこの時が来てしまいましたね・・・・・』

占い師が、カードをテーブルに置きながらそうつぶやく。

「覚悟はできております・・・・・・・ご主人様は、わたしたちがこの身に変えても・・・・・・お守りします」

すると占い師は、一枚のカードを、ユキに見えないように眼前に持ってくる。

『あなたたち守護天使たちのわずかな力で、四聖獣に立ち向かえると思っているのですか?』

その占い師の言葉にユキは驚き、戸惑う。

「えっ?それは・・・・・・メガミ様が・・・・・」

と、ユキが言おうとした瞬間、占い師は、眼前に持ってきたカードを、くるっとユキに見せる。

黒いカード、黒のメガミのカード

「なっ!」

ユキが身構える隙も無く、その占い師は一人の男へと変化し、ユキのみぞおちを強打した。

「うっ・・・・・・・・・・・」

ユキは気を失わされ、その場に倒れこむ。

「ふっ」

男は口元に笑みを浮かべると、ユキを抱えて、その場を去った。





ペットショップの屋上に、男がいた、

男は、ペットショップの前で起こった出来事を、余すことなく見ていた。

「・・・ふぅ・・・・・・・」

男の周りを風が巻き、男はどこかに消えていった。





――ガチャ

ランは、ドアを開け、外から家の中に入った。

靴を脱がず土足で家の中に入ろうとする。

――スッ・・・・・・

と、その時、ランの履いていた靴が消えて、靴下になる。

守護天使は着替える必要がない、衣服を自由に造ることができるのだ。

と、ふと、台所で何かが動く音が聞こえる。

「ただいま〜」

ランがそう言うと、台所から声が返ってくる。

「お帰りなさいなの〜」

クルミは冷蔵庫をあさって何かを食べていた。

調理もせずに。

「あら?ツバサちゃんは?」

「んぐんぐ・・・・・まだ帰ってきてないの〜」

クルミは口の中に残っていたものを全て飲み込み、ランにそう言う。

「え? 変ね、ユキさんもまだ帰って来ていないみたいだし・・・・・・・・・?」

と、その時、ランの胸に何か胸騒ぎのようなものが起こった。

ランは、その場に棒立ちになる。

すると、玄関のドアが開いて、ちびっこトリオが入ってくる。

『ただいま〜』

語尾は違うが、3人は口をそろえてそう言った。

「お帰りなさい・・・あら?あなたたちだけなの?」

タマミとアユミと一緒に公園に行ったはずなのに、3人だけなのを見て、ランは不思議そうに顔を変化させる。

「あ・・・おねえちゃん達・・・どこか行っちゃった・・・・・」

「え・・・・・・?」

モモの返事を聞くと、ランは思わず聞き返した。

「変に書いちゃったから怒っちゃったのかなぁ・・・・」

ちびっこトリオがそんな風に話していると。

「うわぁあぁ〜〜〜」

と、ミドリの叫び声が上がり、同時に『ガシャーン』と何かの割れる音がする。

ランは、コップでも割ってしまったのかと思い、声のした方へと歩いていった。

「ミドリちゃん?大丈夫」

「ミドリは大丈夫れすけど・・・・・写真立てが・・・・・」

と言って、ミドリは写真立てを見せる。


12人全員が揃った時、マンションの前の階段で取った写真。

その写真を守っていたガラスが、見事に斜めに割れている。

『不吉・・・・・・・・・』

おそらく、その場にいたすべての人がそう思ったであろう。

そこに、悟郎への手紙を持ったミカが現れる。

「どうしたの皆、隅っこに固まっちゃって、冬眠でもすんの?」

と言いながら、ミカはみんなの反応を待たず悟郎宛の手紙の封を開ける。

「あれ・・・? それ、ご主人様のじゃ・・・・・・」

ミドリがそう言うが、ミカは構わず封をあける。

「ラブレターだったらどうすんの・・・・・とと、ご主人様の身辺をチェックするのも、守護天使の勤めなの」

最初に本音が出たが、ミカは咄嗟に誤魔化して言った。

「そう言うものかなぁ?」

アカネが首をかしげながらそう言った。

「そう言うもんなの。さ、読むわよ」

と、ミカは笑いながら手紙を一つ咳払いをして音読する。

最初は笑っていたミカだが、徐々にその顔が険しくなっていく。

手紙の内容はこうであった。


【四人の守護天使たちは、我々のもとにいる、返して欲しくば、青空臨海公園まで一人でこられたし――四聖獣】

その内容に、皆は果てしなく驚いた。

「四聖獣って・・・神様れすか?」

ミドリの頭の中には、四聖獣と言う単語はそれ以外記憶に無かった。

「その四聖獣が何で・・・・・」

アカネも同じようにそれしかなかったようで、ミドリの言葉を肯定した。

ミカとランはお互いに顔を見合わせ、表情を曇らせる。

アカネが、その表情に気付く。

「姉さんたち、何か知ってるんだね?」

アカネがそう言う人、みんなは一斉にランとミカを見る。

「知っていることがるなら教えてほしいれす〜」

「でも・・・・・・これは」

皆の視線に気圧されながらも、ミカが言い渋っていると。

「待って、ミカさん、この子達にも関係があります・・・・・話しましょう」

と言うと、ランはこの間ユキから聞いた話を語り始めた。




時は夜、ミカ、アユミ、ラン、ツバサの四人は、ユキから四聖獣についての話を聞いていた。

「四聖獣・・・ホントにいたんだ」

ツバサは驚きながらそう呟いた。

「伝説とはかなり違う存在みたいだけど・・・・・・・」

ミカもいきなり伝えられた事態に驚きを隠せない。

「彼等が何をしようとしているかはわかりませんが・・・・・なんとしてもご主人様をお守りしなければ」

ユキがそう言う、しかし、それをミカが、

「でも・・・相手は神様でしょ? 私たちなんかの力じゃ・・・太刀打ちできないわよ・・・・・・」

と、己の力不足を嘆きながらそう言った。

そのミカに、ユキは、

「いえ、幸い、彼等は力の源【獣神具】を失っています。私たち守護天使の力だけでも、お守りすることだけはできるはずです」

ユキのその言葉に、希望を見出したかのようにアユミが言う。

「では・・・どうすれば・・・・?」

「では、これからその方法を、お教えします」

と言ってユキは、眼前で、両の手の人差し指同士と、親指同士を併せる。




その話を聞いて、皆は同じ反応を示していた。

『まさか・・・神様が敵に回るなんて・・・・・・』

と。

その様子を見ながら、ランが言った。

「その場所には、ランとミカさんだけで行くわ。あなたたちは、ここで待っていて」

ランの言葉に、クルミが首を横に振る。

「やなの〜〜、クルミも行くの〜」

「クルミちゃん・・・・・」

クルミに続いて、アカネが、

「何かあったら助け合う、それが家族じゃないのか?」

と、ランに問う。

ランは、はっとしたようにみんなの顔を見渡す。

ランの視線に答えるように、皆はしっかりとランを見つめ返す。

「わかったわ・・・皆で行きましょ」

「わ〜い、やったぉ〜」

ルルは思わず飛び跳ねる。

そのルルの様子に、表情を暗くしてミカが言った。

「ルル、そんなのんきな事言ってられないわよ・・・・・とても危険なのよ」

そのミカの言葉にルルは、わからない、と言う表情を浮かべて、

「どうなるぉ?」

と、ルルがミカに問う。

「めいどの世界に逆戻り・・・・・かもね」

ミカはとても暗い声でそうつぶやく。

しかし

ナナはにっこりと笑顔を作り。

「そしたら、またすぐ戻ってこれるよっ♪ ねっ? ねっ♪」

ナナのその行動に、みんなは思わず微笑む。

『そう、もうご主人様と離れたくない・・・・・・』



ミカはその手紙をビリビリと破り、ゴミ箱に捨てると、戸締りをしっかりとして家を出た。

表の階段を下り、約束の場所に向かって、皆はしっかりと手を繋ぎながら歩いていく。

「お夕飯は何にする?」

ランが皆に訊くと、ルルが飛び上がって。

「カレ〜〜っ♪」

「えぇ〜〜〜? この間もカレーれしたよ〜?」

ミドリが不満の声を上げた。

仲睦まじく、手をつなぎ、歩いていく。




その姿を見送る四つの人影。

「は〜ぁ、やっぱ四聖獣の考えることはそれか」

「ま、仕方ないじゃん、あっちにはあっちの考えがあるんだろ」

「そうだな・・・俺たちが出ないでも済めば良いんだけど」

「・・・同感だ、できれば必要ないほうが良いんだが・・・・・・・・・とりあえずギリギリまで・・・」

『あぁ』

と言って四人の人物は姿を消す。




悟郎は仕事から帰り、家のドアノブを回そうとする。

が、ドアノブの鍵の向きがいつもと違うのに気付き、鍵を取り出す。

「鍵がかかっている・・・何故だろう」

と思いながら、悟郎は鍵を開け、家の中に入る。

「ただいま〜」

家の中からは静寂が帰ってきた。

「あれ? 皆はどこ行ったんだろう」

悟郎は家の中に入り、奥に進む。

ダイニングに入る、誰もいない。

「ホントに・・・皆どこ行ったんだろう・・・・・・」

悟郎は部屋の中をきょろきょろと見渡す。

すると、窓に違和感を感じた。

悟郎は、窓に近づく。

違和感の正体、それは、雷のようにヒビの走った1枚の写真立て。

「・・・・・・・・・・・」

悟郎は静かにその写真立てを見つめる。

すると、悟郎はタンスの中からハーモニカを取り出し、窓際に腰掛け、吹き始める。

ハーモニカは、静かにその身を震わせ、穏やかな音を奏でる。

自分と、守護天使たちを常に繋いでくれた、ハーモニカ。

悟郎は、こうしていると彼女たちと会える、そう思っていた

悟郎は、ずっと、吹きつづけていた。

すると、ふと、歩いている守護天使たちの姿が浮かんだような気がした。

またしばらく吹いていると、公園で何かを探している彼女たちの姿が心に浮かんだ。

「みんな・・・・・一体どこに・・・・」

すると、睦家のインターホンが鳴った。

悟郎は、ハーモニカをやめ、玄関に出る。

「みんなっ!?」

悟郎は勢い良くドアを開けた、外に皆が居る事を望んで。

しかし、

「うわっ?」

外には忠治が居た。

「あ、忠治君か・・・ごめんよ、どうしたの?」

悟郎は忠治に謝罪する。

「あぁ、いや、ちょっとね、臨海公園にみんなが歩いていくのが見えて・・・・・悟郎さんは知ってるのかなぁ?と思って」

忠治のその言葉を聞いて、悟郎は思った。

――臨海公園――

そんなところ、この近くには一箇所しかない。

「ごめんっ、留守番お願いっ」

悟郎は家を飛び出し、その臨海公園に向かって走っていった。

忠治は、その悟郎のうしろ姿にニッコリと手を振る。

『頑張って〜』と言葉に出さず、唇だけを動かして。

そして、悟郎の姿が見えなくなると、表情を消して呟いた。

「今日は・・・・・・皆既月食・・・・・・強力な闇・・・・・・闇を払う・・・・・・・事ができるか?」

忠治は睦家の中に入っていく。

誰も居ない家の中を、ゆっくりと足音を消して歩く。

「・・・・・・重々しい気だ・・・・四聖獣か・・・どこだ?」

忠治は室内を見渡す。


すると、忠治はゴミ箱に目が止まった。

ゴミ箱の中を見る。

「これか・・・・・・・・・・」

ゴミ箱の中には、四聖獣からの手紙の残骸が捨てられていた

そして今度は、窓際の写真立てに目を移す。

「写真立てのヒビは不吉の証・・・・・・この家にはふさわしくない」

と言って、忠治は写真立てに手をかざす。

「闇を恐れる事は無い・・・きっと・・・・手を貸してくれる・・・・・・・・あいつ等が・・・行ったからな」

誰に言うでもなくつぶやくと、ほのかに口元から笑みがこぼれた。

忠治は家から出て、自分の家に戻った。

写真が、誰も居ない睦家を見守る。

ヒビの無い、綺麗な写真立てに入った写真が・・・・・



忠治は、自宅に戻ると、窓際から町を眺める。

すると、忠治は誰に言うでもなく呟いた。

「今回は、オレは手を貸す必要は無いが・・・気を付けろよ、聖者殿、
 守護天使たちが何のためについているかを考えろ、自ずと答えが出てくるはずだ・・・・・・」







『はぁっ、はぁっ、はっはっはっ・・・・・』

海の近くの公園を、走る人影が八つ。

その八つの人影は一箇所に集まり。

「どう? 居た?」

「ううん、あっちにはいなかったぉ」

「まったくもうっ、一体どこにいるのよっ」

探しても一向に姿が見え無い四聖獣に対し、ミカが悪態をつく。

と、その時、ミドリがアカネの様子がおかしい事に気付いた。

「どうかしたれすか?アカネさん」

不自然な表情をしているアカネに、ミドリが訊く。

「いや、なんか妙に暗くないか・・・・・と思って」

アカネがそう言うと、ルルが不思議そうな表情を浮かべて。

「暗い? 夜はいつも真っ暗だぉ」

というが、そのルルの言葉を、モモが否定する。

「う、ううん、真っ暗じゃないよ・・・・・・だって空には・・・・・」

モモの言葉に誘導され、ミカが空を見上げる。

「・・・・月?」

ミカがそう言うと、皆も空を見上げる、月の表面を影が追い、徐々に欠けていく。

と、その時。



――ヒュオッ

『!!!!!!』

公園の、アーチの上に四つの人影が現れる

彼等こそ、四聖獣、

獣を束ねる、獣の・・・・・・神。




第13話『夢であるように』に続く