「ふぅ〜、異常なしっと」

つい先程まで寝ていた星牙が部屋の窓から身を乗り出し町を見渡しながら言う。

星牙は部屋の中に戻り座り込むと、壁に背中を預ける。

「四聖獣は動き無し、だな」

虎武が本を読みながら喋る。

「ちびっこトリオと悟郎さんがいないようだったけど、誰か知らないか?」

壁の向こう側の気配を読んで星牙が、座りながら言った。

その問いに、光樹が答えた。

「・・・福引に行った、特賞、室内プールの招待券・・・」

それを聞いた星牙が、皆に言った。

「プールかぁ・・・おれ達も行くか?」

「却下」

「やめとく」

星と虎武に即座に却下された。

「・・・男だけはあんまり面白くない・・・」

と光樹が付け加えると、

「あはは、言えてる」

と、星牙は思わず苦笑した。





幻影の天使たち

第10話



Pure Snow



――ガラガラガラ・・・ぽとっ

『あぁあぁあぁ〜〜〜〜』

ちびっこトリオ、下から『ルル』『ナナ』『モモ』

それと、ご主人様である悟郎は、町の福引会場にいた。

狙うは室内プールの招待券。

この時のために必死でかき集めた福引券をもって、4人は会場に来ていた。



『ハイ、残念賞のティッシュね』

福引係のおじさんがティッシュを渡す。

それをモモが受け取る。

ルルとナナがティッシュを恨めしそうに睨む。

モモは苦笑して、

「た、沢山お鼻がかめますね」

と言った。

モモの腕には、20個以上ものポケットティッシュが抱えられている、いったい何回ドラムを回したのだろうか。

『さぁ〜、最後の1回、出るか特賞の室内プール招待券♪家族全員分だよ』

「ルルたんがやるぉ〜」

ルルがドラムのレバーを握って回そうとする。

「ダメ〜、ナナがやってあげるっ」

ナナがルルからレバーを奪い返す。

「ルルたんがっ」

「ナナがっ」

「ルルたんがっ」

「あ、あの、モモも・・・・・・」

と言って、三つ巴の血で血を争うバトルが始まった。

3人の奪い合い見ていたおじさんが、止めようとした。

『あ、あの、お嬢ちゃんたち』

福引のおじさんが止めようとしたその時。

――ガタッ

3人はバランスを崩し、机や、おじさんと一緒に前方に倒れてしまった。

――ガッシャ〜ン、ガタガタガタ、ごろごろごろ・・・・・・・・・

物凄い音と共に、福引のドラムや、景品、その他もろもろが地面に転がる。

「うぅ〜ん、いたたた・・・・・・・うん?」

「あややややぁ〜、転んじゃった・・・・・あやや?」

「あっ」

――カラカラカラ・・・コロンっ、てんてんてん・・・・・・

『いたたた・・・・・ちょっと・・・お嬢ちゃんたち・・・・ん?』

倒れた拍子に福引のドラムが回り、中から特賞の赤玉が出ていた

『うるうるうるうるうるうるうるうる』

『うっ・・・・・・・・・・』

3人は超必殺のうるうる光線を福引のおじさんに放った。

おじさんはしばらく悩んだ挙句。

『しかたない・・・・・・大当たり〜〜〜〜、特賞が出ました〜〜〜』

と言って、手に持っていたベルを持ち、頭上高く振った。

――ガランガランガラン・・・・

『わ〜い』

3人は抱き合って喜んでいる、よっぽどプールに行きたかったようだ。

『では、家族の人数を言ってください』

おじさんが悟郎に尋ねる。

「あ、あの・・・・・・・・言いにくいんですが」

『いえ、遠慮なさらずに、家族全員サービスなんですから』

「は、はぁ・・・・・・・・」

『では、言ってください』

彼はメモを片手に、悟郎の言葉を待っている。

「13人です」

――ぽとっ

悟郎がそう言うと、おじさんは思わず手に持っていたペンを落とした。

しかし、すぐ拾って、メモに13人、と書いた。

『大家族なんですね、大変でしょう』

「・・・・・はい」

悟郎は苦笑を禁じ得なかった。





‐‐‐帰宅後。

ナナが留守番をしていた人にチケットを見せびらかす。

「みてみて〜、ナナが当てたんだ〜」

そのナナの言葉に、ルルがその手からチケットの束を奪い取る。

「ルルたんだよっ」

「ナナだよっ」

ナナが再び奪い返す

「ルルたんっ」

「ナナだってばっ」

「あの、モモも少し」

どうでも良いことに意地を張る所が、子供らしいと言えば、子供らしいのかもしれない。

「と、言う訳だから、今度の日曜は仕事ないし、みんなでプールに行こうと思うんだけど・・・」

悟郎がそう言うと、即座にミカが抱きついてきた。

「ご主人様っ、ミカのためにとって来てくれたのねっ」

枝豆の筋切りをしていたミカが一瞬にして間合いを詰める

「うわっ、あ、うん、みんなで行こうと思って」

一瞬悟郎はびっくりしたようだったが、気を取りなおしてミカの言葉に答える。

「きゃはっ、やった〜・・・・・・と言う訳だから留守番してあげてたんだからこれ後よろしくね」

喜びを体で表現していたミカが、自分の分の残りの枝豆をちびっこトリオに押し付ける。

『えぇ〜〜〜〜〜?』

3人は不満げな声を出した。

「ミ〜〜〜カ〜〜〜〜ちゃ〜〜〜〜ん」

「ミカね〜〜〜さん?」

びっくぅっ

ミカは思わず『殺気』を感じ。

「あ、あはは、やっぱり私がやるわね」

と言って、ちびっことリオから枝豆を返してもらって再びはじめる。


『ぷちっ、ぷちっ、ぷちっ、ぷちっ、ぷちっ』

悟郎は、ふと耳に届く妙な音に気付いた。

断続的に、かつ規則正しい音が聞える。

悟郎はその音の出所を探した。

「・・・・・・・・・ミドリ?」

ミドリはベランダに座り、『ぷちぷち君』を潰していた。

ものすごく集中していたのか、悟郎が呼んでもまったく返事をしない。

悟郎は仕方なくミドリに話しかけるのを諦めた。


台所にて、ツバサとランは夕飯の支度をしていた。

広間でのみんなの会話を聞いて

「ふふふ、ミカさんったら」

ランは思わず笑って笑みを浮かべていた。

そのランの様子にツバサが、

「笑える余裕・・・・あるんだ・・・・・」

「え?」

「ラン・・・・さ、このままで良いの?」

「このまま・・・って?」

ランは、ツバサの意図がわからないと言う風な表情をする。

「このままだと、ミカさんにご主人様取られちゃうよ?それでもいいの?ランは」

ツバサの言葉に、ランは一瞬ドキッとした。

その一瞬に、ランは手を滑らせ、包丁で自分の指を切ってしまった。

「あっ、つっ」

ランはとっさに切った所を口に含んだ。

「あぁっ、ラン、大丈夫?」

「大丈夫です、ちょっと切っただけですから」

「大丈夫じゃないよ〜、ばい菌が入ったらどうするのさ、ボク、バンソウコウ取って来るよ」

と言ってツバサは台所から出てバンソウコウを探しに行った

「バンソウコウ、バンソウコウ」

何故人は物を探すときは探す対象の名称を呼ぶのか。

「どうしたの〜〜〜?」

「あ、うん、ちょっとね」

「・・・・はぁ・・・・・」

ランは嘆息した。




‐‐‐その日の夜

ランは、モモの髪の毛を櫛で梳かしながら思いにふけっていた。

ナナとルルは、すぐそばで、ちょこんと座って二人で絵本を眺めている。

二人の髪の毛は、すでにランが梳かし終わっていた。

『ご主人様は・・・・好き・・・・・・・』

「あ、あの、ランお姉ちゃん?」

『ご主人様は、優しくて、笑顔が素敵で・・・・・・・・でも、その好きは・・・・』

「ラン姉ちゃんってばぁ〜」

ナナの呼び声によって、ランはいったん思考を止める。

「これ、ちゃうぉ〜」

と言って、ルルとナナが、化粧台の三面鏡の前にやってくる

その鏡には。


青色の髪のルル

緑色の髪のモモ

桃色の髪のナナ


が、映っていた。

「ご、ごめんなさいっ」

「もぅ〜、頼むぉ〜」

「しっかりしてよねっ」

「はぁ・・・・・・・・・・」

ランは再びため息をついた。



「お〜い、誰かいる〜?」

風呂に入っていた悟郎から、人を呼ぶ声がした。

「あ、は〜い」

その声にランは席を立って、風呂場に向かっていった。

「ご主人様、何かご用でしょう・・・・・・・・かっ!?」

そう言いながら、ランは勢いよくアコーディオンカーテンを開け、固まってしまった。

そこには、腰にタオル1枚だけを巻いた悟郎が、風呂用の椅子に座って、頭を洗っていた。

それを見て、ランは、滝のように汗を流して硬直している。

しかし、悟郎はその様子に気付かなかった。

「ごめん、シャンプー切れちゃって、新しいの取ってくれるかな?」

その悟郎の言葉にランは我に返り、シャンプーをとって、悟郎にわたして、カーテンを閉じた。

「ありがとう・・・・・・・・・ん?」

悟郎が不思議そうな目でカーテンの方を見る。

カーテンの向こうでは、ランが高鳴る鼓動を沈めようと手を胸にあて、顔を赤らめて立ち尽くしていた。





‐‐‐次の日

ランは、ベランダで洗濯物を干していた。

一般に、守護天使達の衣服は自由に替えられるので、洗濯物は悟郎のだけであった。

もちろん下着もあるわけで。

『パンッ』

と一度だけ、シワを少なくするために払い。

手に持っている悟郎の下着を見て、ランは顔を赤くしていた。

と、その時、ベランダの下方からランを呼ぶ声がする

「お〜い、ラ〜ン」

「おつとめご苦労♪ 何ちゃって、さぁ、ご主人様、いこいこ♪」

ミカは、悟郎の腕に抱き付いていた、急かすように悟郎の腕を引く。

「あ、うん」

その二人のやり取りを見ていたランは、思わず洗濯物を投げ出して、部屋の中に入っていった。

「ラン・・・・・・」

「どうしたの・・・・・?あの子・・・・」

そのランの様子を見て、2人は怪訝そうに顔を見合わせた。





夕焼けが、町を照らす。

ランは、町を見渡せるベランダの木枠にもたれかかりながら、考えにふけっていた。

『何、この気持ち・・・ランは、ミカさんに嫉妬しているの・・・・?』

「ここにいたんだ、ラン」

ふいに、ランを呼ぶ声がした。ランは後ろに目を向けて、声の主を確認した。

声の主が悟郎とわかると、再び背を向けた。

「ごめんよ、ラン」

「え?」

悟郎の思いがけない謝罪の言葉に、ランは思わず戸惑った。

「ランは、水が苦手なのに、無理にプールに誘っちゃって・・・・・・そうだ、プールのチケットは忠治君に譲って、どこかみんなでピクニックでも・・・・・」

と、悟郎はランを気遣うように言ったが、それをランが否定する。

「関係・・・・・ありません。そんな事・・・どうでもいいんです」

ランは、弱々しく言った。

「え?だって、ラン今日元気無いみたいだったから・・・・・・・」

「なんで・・・・・・」

悟郎が優しい言葉をランに投げかけると、ふいに、ランが口調を強めて喋り出す。


「なんでそんなに優しいんですか!? ラン達はご主人様のお世話をするためにやって来たんです、
 ご主人様が言ってくれればどんなに苦しい事だって・・・・・・どんな辛い事だって耐えられる、
 それが守護天使なんです。 でも・・・ご主人様はなにも求めて下さらない」

ランの瞳から涙が流れる。

「ラン・・・・・」

口調を落ち着け、ランはひっそりと言った。

「いつも、ラン達の事ばかり考えてくれる・・・・・ご主人様は・・・優しすぎるんです。
 だから・・・・・・だからランは、変な気持ちになっちゃうんですっ!・・・・あっ・・・・」

思わず口から出た言葉に、ランは紅潮し、思わずその場から逃げ出す。

「あっ、ラン!」

悟郎は、とっさの出来事に、追いかけるのを忘れ、ただ見送るしかできなかった。

ランは、走り続け、マンションの階段を抜け、家の外まで出た。

「ラン?」

ランは、自分を呼ぶ声に気付き、その足を止めた。

「ご主人様、今日ミカさんと買い物にいったんだって・・・・・・・・」

それを聞いたランは思わずうつむく。

「うきわ・・・・だってさ・・・・・・意味・・・・わかるよね?」

ツバサは、ランに優しく言った。

再び、ランの瞳から涙が一雫

流れた。




第11話『水着パラダイス』に続く