悟郎が星の所を去るすこし前。 アユミは、川に架けられた橋を渡って。 橋の上では、男が川の流れを見ていた。 アユミは、その男を見ながら歩いていた。 (はじめて見る人・・・この辺で居ましたでしょうか?) と思いつつ歩いていた、すると・・・・・・ 幻影の天使たち 第9話 「きゃぁっ」 アユミは、地面に落ちている拳ほどもあるの大きな石に気付かず、転んでしまった。 咄嗟に、頭を守る為、両手を眼前に持ってくると、とっさに目を閉じる。 ――どさっ 「・・・・・・・・・・・・・・・・・?」 転んだときとは感覚がすこし違うような、そんな気がして、アユミは目を開いた。 「あ・・・・・・・・・」 「足元注意、ちゃんと前を向いて歩かないとね」 男が、アユミを下から抱きかかえ、クッションの役割をしていた。 「あ・・・・あの」 アユミは、いきなり見知らぬ男性に抱きかかえられていたので、気が動転している。 「よっと」 男は、自分も立ちながら、アユミも一緒に立たせる。 「歩く時は、人を見ないで、きちんと前を見て歩かないとね、物珍しさがあってもね」 男は苦笑しながら言う、それを聞いてアユミが。 「あ、あの、気付いてらしたんですの?」 と、アユミが顔を紅潮させ、戸惑い気味に聞くと、彼はあっさりと答えた。 「あぁ、まぁね、『キミ達』の視線は、『オレ達』にとってはわかりやすいから」 「『キミ達』・・・・・・・・『オレ達』・・・・・・ってなんのことですの?」 アユミが不思議そうに言うと、男は頭を振って、 「いや、対した事じゃないさ、さて、オレはそろそろ行くよ、また会うだろう」 と言って男はその場を立ち去ろうとする。 「あの・・・・・・・・・」 アユミが男に話し掛けた。 「ん?」 男ははアユミを見る、アユミは彼をしっかりと見据えて言った、 「名前、教えてくださいます?また会うのなら、名前は知っておきたいんですの」 と、アユミが言うと、男は、あぁ、と言う風に入った 「そういえばそうだな、名は『星牙』と言う姓は『黒武』だ、地戦士の1人さ」 「地戦士?」 何気なくアユミは聞き返す。しかし星牙は首を振る。 「気にしなくて良いさ、対した事じゃないから、じゃぁな」 と言って、星牙はアユミとは逆方向に歩いていった。 「・・・・・・・・・優しい・・・・・・・・人、ご主人様以外でもあんな人がいるんですのね」 アユミは、そう呟いた。 「はっ、忘れてましたわっ、ご主人様を追いかけないと」 と言って、再びアユミは駆け出した。 一方その頃、悟郎はアルバイト先に着いていた。 「ここが・・・・・・・・アルバイト先・・・・・・・」 寂しい風が吹く、アルバイト先は、廃工場だった。 ひゅぅ〜と風が吹き、塵が舞う。 「ウソ・・・・・」 悟郎は呆然とした。 と、そのとき、 ぽんっ と、悟郎の肩を叩く者がいた。 「うわぁっ」 悟郎は思わず驚いて飛びのく。 「やぁ、キミがさっき電話をくれた人だね?」 「へ・・・・・・?」 悟郎は、服の袖で、メガネのガラスをごしごしと擦り、汚れをとる そして、声をかけた人物を見る。 そこには、3人の男が立っていた。 三人ともヘルメットをかぶっていた為、詳しい事はわからなかった。 悟郎の目には、右の男は、男と言うより、少年に見えた。 真ん中の男は、メガネをかけ、何やら知的な雰囲気をかもし出していた。 左に居た男は、なにやら中性的なイメージを受けていた。 そして、正面にいる男に対し、 「あ、はい、アルバイトの募集を見て来ました、『睦悟郎』と言います、よろしくお願いします」 と言って、悟郎は大きくお辞儀をした。 そして、顔を上げたとき。 ふと目に入った左側の男に対して。 「あれ?あなた、どこかで会いませんでしたっけ?」 悟郎は、勘違いかとも思ったが、こんな人はそうは居ないはずだから・・・と思い、聞いてみた。 悟郎の質問に対し、男は一瞬どきっとしたようであったが、すぐに。 「ふっ」 と不敵な笑みを浮かべると。 「それってキミのナンパの常套句?」 と、悟郎に言った。 「は?」 悟郎は呆気にとられてそんな声を出した。 「悪いけど、ぼくは同性には興味が無いんだ」 「いや、あの・・・そう言うわけじゃ・・・・・・・」 悟郎が弁解しようとすると。 「ほらよっ」 と、右側の男が、作業着を悟郎に投げ渡す。 「うわっ・・・・・っと」 悟郎は、作業服を落としそうになるところをしっかりと抱きかかえた。 「時間がね〜んだ、さっさと着替えてきな」 男がそう言うと、悟郎は慌てて、 「は、はいっ」 と言って走って行く。 ふと振り返って、 「あの〜・・・・・・・どこで着替えれば・・・・・」 と、言ったら、先程の男が怒気をあらわに。 「どこだって良いだろ!どっかそこらへんの物陰で着替えて来い!」 と言って、物陰を指差した。 「は、はい〜〜〜〜」 と言って、悟郎は慌てて物陰に隠れた。 その悟郎の様子を見ていた男達が喋り出す 彼らの名は四聖獣、もちろんコレはただの名前ではない、 獣の頂点に立つ、神。 玄武のシン、白虎のガイ、朱雀のレイ、の三人。 四聖獣なのに三人なのは何故か? それは、リーダーである、青竜のゴウの封印が未だ解かれていないのである。 そこのところは公式ページやアニメをみてもらえれば判ると思うのでそちらを見てもらえるとありがたい。 「ポケ〜っとした顔してて、結構鋭いじゃないですか」 朱雀のレイが、意外そうな表情を浮かべて言った。 そのレイの言葉に、玄武のシンが、嘆息しながら返した 「当たり前です、一筋縄じゃいきませんよ・・・・彼は」 「あいつには恥かかされっぱなしだからな〜」 白虎のガイが、思い起こしてため息をつく 「これでは兄者に会わす顔が無い・・・・・・・なんとしても」 「睦悟郎の血をもって、兄者を迎えるしかありませんね」 「そう」 『我ら、四聖獣の誇りにかけて』 びしっと3人は決めポーズをとる 「あの〜・・・・・・・着替え終わりましたけど」 いつのまにか悟郎が3人の後ろに立っている。 『うわぁっ』 いきなりの事で驚いたのか、3人はとっさに飛び退く。 悟郎は不思議そうな顔をする、3人も表情を取り繕う。 「そ、そう、じゃぁさっそく」 と言って、シンは悟郎を案内する。 廃工場の一室、シンはそこに悟郎を連れてきた。 「これを」 床に置いてある箱を指差す。 「あそこまで運んでください」 と言って、階段の上の上の上を指差す。 「へ、えぇえぇえぇ〜〜〜〜〜〜?」 箱の量の多さと、運ぶ場所を見て、悟郎は素っ頓狂な声を上げる。 「あのっ、軽作業って聞いて来たんですけどっ」 悟郎はチラシに書いてあった、軽作業とはとても思えない作業に、抗議しようとする、が。 「3500円」 シンがぼそっと呟く 「へ・・・?」 『時給3500円』 シン、レイ、ガイの三人が声をそろえて言う。 「うっ・・・わかりました、あの1番上までですよね」 時給3500円の魅惑には勝てず、悟郎は荷物をもって、階段を上り始める。 「ひとまず、ここで作戦はひとまず完了ですね」 階段をカンカンと箱を持って登っていく悟郎を見ながら、シンが言った。 「やれやれ、スプラッタは僕の美学には反するのですが」 レイがため息をつきながら言う、それをガイが握り拳を作りながら。 「この際ど〜だって良いだろ」 「そう、兄者の復活には、生贄の血が必要なんですよ」 そう言うと、3人は、外れかけた足場を見る。 悟郎の進行方向にあるそれは、踏んだ瞬間に落下するようにわざと外れかけさせていた。 そのとき、悟郎のカバンがぴょこぴょこと動き出す。 『ん?』 その様子に気付いた三人が、カバンを凝視する。 カバンのチャックが開いて、中から人形が『コロンっ』と出て来る。 『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』 三人がさらに凝視していると。 ――ぼんっ 『うわぁっ』 3人は驚いて飛び退く。 「はぁ〜い、ご主人様ぁ〜、元気に労働してるかな〜?」 人形が変身した。 チアガールの格好をしたミカに 「あれ〜〜〜?ご主人様は〜」 悟郎を探して、きょろきょろと辺りを見回す、そして目の前に居た三人に聞く。 3人は、黙って上を指した。 ミカはその指した方向を、目で追う。 「あっ、ご主人様〜〜〜〜〜」 ミカは、階段の上にいる悟郎を見つけると、手を振る。 「え・・?・・・・うわっ」 悟郎は声のした方向を見ようとした。すると手を滑らし、持っていた荷物をうっかり落とした。 ――ガシャンッ 荷物は、外れかけた金属板に当たった。すると、外れかけていた所為か、金属板はその荷物を支えきれずそのまま落下した。 ――ひゅ〜〜〜〜〜〜〜〜〜 風斬り音と一緒に、金属板と荷物が物凄い勢いで落下していく。 真下には。 四聖獣達三人がいた。 『うわあぁっ』 当たったら即死、3人は脱兎の如くその場から離れた。 ――ガシャアァンッ 物凄い音を立てて、荷物と金属板が地面に落下する。 3人が立っていた所に狙っていたかのように落下する。 「す、すみません、大丈夫ですか?」 悟郎は降りてきて、三人にそう言った。 「大丈夫ですか? じゃネーだろ、おれ達を殺す気かっ」 ガイがそう言った時、悟郎の眼前にミカが寄ってきた。 「はぁ〜い、ご主人様、ミカはだいじょうぶよ♪」 「あれ?ミカ、どうしてここに?」 悟郎がそう言うと、ミカはもじもじとしながら、 「ほら、工事現場って、男の人達ばっかりじゃない?だから、ミカが応援してあげたら、元気がでるかな〜〜って」 と言って、ミカは悟郎にパチっとウィンクをした。 ためら いきなりの展開に呆気に取られていた三人の中で、いち早く復活したレイが躊躇いがちに声をかける。 「あ、あの・・・お二人さん…ちょっと」 しかし、そのレイの言葉にミカは反応を返さなかった。 「俺達、完璧無視だな」 ガイはため息をつきながらそう言った。 と、そのとき、地獄の底からとも思えるような、底冷えのする声が聞こえてきた。 「ミ〜〜〜カ〜〜〜ちゃ〜ん」 びくっ その声に、ミカは身を竦ませる。 アユミがミカの後ろに立っていた。 ミカがゆっくりと後ろを振り向く。 「やっぱり悪巧みでしたのね〜」 アユミが呆れ顔でそう言う。 「どうしてあんたがここにいんのよっ」 ミカの抗議に、アユミは飄々とした口調で答えた。 「妙な胸騒ぎがあって着けてまいりましたの、油断も隙もありませんわね」 と、アユミはミカの行動にあきれ果てたような口調でそう言った。 「ちょっと、人聞き悪い事言わないでよ〜」 「あ〜ら、悪いことをなさってないのでしたらば、べつに気になさらなくてもよろしいのではなくって〜?」 アユミの、何もしていないなら自分が言ってることを気にしなければいい、と言う答えに、ミカは、 「なにぬぬぬ〜」 と、呻き声をもらした。 「だいたい何よ、あんたも泥棒ネコみたいに私の後つけたりなんかしてさ〜〜〜」 「ネコはタマミちゃん、私は亀です、そんな事も忘れてらしたの?」 アユミがミカの揚げ足を取りながら喋る、ミカはそれをさらに返す事ができない。 「ふぬぬぬぬぬ〜」 返す言葉が無く、ミカは再び呻き声をもらした。 「ふぅ・・・・」 レイがため息を漏らすと、それにつられて、 「おれ達って、完璧に忘れ去られているな・・・」 と、ガイも悲しげにそう呟いた。 「あの人・・・・・・・」 と、シンが言う。 「ん?」 シンがアユミの姿を見ているのに気付いた、レイとガイはアユミを見る。 それを見て、何かを察知したガイが。 「はぁ〜・・・・ありゃカメか」 と言うと、レイも、なるほどと言う風に。 「なるほど、では彼女がシンの・・・・・・・。ふむ・・・・・・でも、僕はもっと活動的な娘がタイプだな・・・・たとえばそうインコのツバサちゃんみたいな」 と、レイは記憶の中のツバサの姿を思い浮かべる、何故かバックに光が走っていた。 ご丁寧に【キラキラ〜ン】という効果音もついている。 しかし、そのレイの様子を見ていたガイがため息をついた。 「良いよな〜、お前等・・・・・ネコなんてよ〜まだガキなんだぜ〜」 ガイもレイと同じように記憶の中のタマミを思い浮かべた。 その中では、タマミは魚をくわえた。 「は〜、ったくついてね〜」 と、ガイは嘆息した。 「はっ、くしゅっ」 睦家で留守番をしていたタマミがくしゃみをした。 「あら?タマミちゃん、カゼ?」 タマミはきょろきょろと辺りを見まわす タマミは、ランの言葉を否定して、 「いや・・・なんとなく・・・・・・・・」 タマミは何かの気配を感じたのか、そう言った。 と、そのとき、クルミが立ち上がった。 「それじゃ〜次はクルミがと〜っておきのっ♪」 と言って、クルミは変化をする。 「こわ〜い話をしてあげるの〜」 クルミは、白装束を身にまとい、額には三角の布を巻いてい、懐中電灯を自分の顔に下から当てる。 「わ、私っ、洗濯物がっ」 と言ってランはその場から逃げようとする。 「逃がさないよ、ラン」 しかしツバサがランのスカートをつかんで引き戻す。 「あぁんっ」 ランが、悲哀の混じった声で言った。 ゆっくりとした口調でクルミが喋り出す。 「このあいだ〜、夕食の買い物に行った時なの〜・・・・・・」 みんながこっくりとうなずく。 「そして〜、八百屋のおばさんに聞いたの〜・・・・・・」 もやもやもやもやもやもや(回想する音) 『ほら、土手をずっと下った所にさびれた工場があるだろ?』 『はいなの』 『実はね、あそこを壊そうとすると、祟りが起こるそうなんだよ』 クルミは目をぱちくりさせる。 『たたり?』 『工事に関わった人間は、怪我をするわ病気をするわ、おまけに突然ぽっくり逝っちまうわ、それが全員原因不明なんだって』 クルミの額に冷や汗が浮かぶ。 『だからみんな気味悪がって、あのままず〜っと放置されてあるんだってさ』 やもやもやもやもやもやも(回想終了の音) 『きゃぁ〜〜〜〜』 みんなの叫び声が同調した。 「イヤ〜こわいのこわいのこわいのこわいのこわいの〜〜〜〜」 クルミは頭をぶんぶん振る。喋った本人が1番怖がっているようである。 しかし、タマミだけがきょとんとした表情を浮かべると。 「その工場って、土手をず〜っと下った所って、そう言ってましたよね」 と、クルミに聞いて確認をする。 「そうなのそうなの〜」 クルミはそれを肯定する。 「土手をず〜っとって・・・・」 アカネは、冷や汗を浮かべながら呟く。 「ま、まさかとはおもうれすけど」 ミドリも、考えたくも無い事を考えてしまっている。 「これのことかなぁ?」 と言ってナナが1枚のチラシを手にとる。 「それって・・・・・・・・」 「ご主人たまがあるばいちょに行った所だぉ」 「でも、おばさんの話ではもう工事はやってないんだよね?」 と、ツバサが話とチラシとの違いに疑問を浮かべた。 「では・・・・求人してたのは・・・いったい・・・・・」 ランが、誰もが思っていたであろう事をポツリと言葉にだしてしまった。 「幽霊だったりして・・・・・・」 洒落にならない事をタマミが言った。 『あはははははははははははは』 みんなが笑う。 ――間 『いやぁ〜〜〜〜〜〜〜』 みんなが一斉に叫んだ。 「私、ちょっと行ってくるっ!」 アカネがそう言って玄関に向かうと、それにつられてツバサも席を立つ。 「あっ、ボクも行くよっ」 2人は玄関先に向かった、残りは・・・・・ 「ふぅ・・・・・」 ユキは玄関の扉の前でため息をついた。 そして、ドアノブをつかんで回そうとした瞬間。 ――がちゃっ とドアノブが回る音がすると、扉が開き、中からアカネとツバサが出て来た。 「あら?アカネちゃんにツバサさん、どこに行くんですか?」 と、ユキが二人に尋ねた。 「あ、ユキ姉さん、お帰りなさい、ちょっと急ぎの用事が」 「お帰りなさい、ユキさん、ボクもアカネちゃんと一緒で行く所があるから」 「は、はぁ・・・・・・・」 2人の気迫に気圧されながらも、ユキは行ってらっしゃい、お気をつけてと言った。 アカネとツバサの二人ぺこりと礼をしてそのまま走って行く。 「どうかしたのかしら・・・・・・・」 不思議そうに2人の後姿を見ながら、ユキも家の中に入った。 「ただいま〜♪」 とてもにこやかな声で帰還の挨拶をする。 しかし、中から反応が無い。 「あら・・・・・・?」 ユキが不思議そうに中に入ってゆく。 みんなは布団に包まって震えていた。 「どうしたの?みんな」 ユキは犬がタップダンスをしているのを見た時のような顔をしながら言った。 「たたりなの〜」 「ご主人様が、ご主人さまが〜」 ユキの問いに、クルミとナナがそう答えた。 ナナは涙目になっている。 「幽霊にたべられちゃうれす〜」 ミドリがそう言うと、ユキは頭の上に疑問符を浮かべた。 「はぁ・・・・・?」 『はぁ、はぁ、はぁ』 アカネとツバサは、息を乱しながらも、そのスピードを緩めようともせず、工場への道のりを走っていた。 横断歩道に差し掛かった時、信号が点滅し始めた。 前を走っていたアカネはぎりぎり信号が変わる手前で、何とか渡ることができた。 しかし、ツバサは間に合わず、いったん手前で止まった。 「もうっ、急いでるっていうのに」 ツバサはたたらを踏む。 と、指先であごをかき、少しだけ考える仕種をする。 この間、アカネは少し先の土手の橋を渡っていた。 ツバサは、しばらく考えた後、一つの結論を導いた。 「渡っちゃえ」 と、ツバサは信号を無視し横断歩道を渡ろうとした。 その時 キキキキキキ〜 大きなトラックが、急ブレーキをかけながらツバサに迫ってくる。 かなりのスピードを出していたのか、トラックはしばらく止まる様子が無かった。 ツバサはそれを見ると、足が竦み、その場にへたり込んでしまった。 『タマミの気持ちが良く判るような気がするなぁ・・・・・ボクは・・・・死ぬ』 ツバサは、そう覚悟した。 しかし、次の瞬間、 ――ズガアァアァアァアン・・・・・・・・・・・・ と、ものすごい音がし、トラックは止まった。 待っていてもも来ない衝撃を不思議に思い、ツバサはゆっくりと目を開いた。 「ボク、生きてる・・・・・・・・どうして」 と呟くと、目の前のトラックを見た。 間一髪、トラックはツバサの後数メートル手前で、止まっていた。 ツバサとトラックの間には、男が1人。 右手と左手を十字に交差し、その両腕でトラックの勢いを受け止めていた。 足が地面のアスファルトを抉っている。 「い・・・・・・・・」 「い・・・・・・・・・?」 男が洩らしたその言葉を、ツバサが思わず復唱した。 「いってぇ〜」 男は組んでいた腕を放すと、すりすりとさすった。 その男の様子に、ツバサは思わず、 「ちょ、ちょっと、痛いで済むわけないでしょ、腕、だいじょうぶなの?」 と、男の腕を心配した。 男はツバサをちらりと見るとにこりと笑い、言った。 「あぁ〜、だいじょうぶ、ちゃんとガードしたから」 「ガードって、素手で止めたようにしか見えないんだけど」 素手でしか受け止めていたようにも見えなかったため、ツバサはそう言った。 「うっ、まぁ、そんなことは良いとして」 男は冷や汗を流しながら、気にしないように促した。 すると、何故かツバサが怒り出した。 「良くないよっ、なんでボクのためにそんなことするのさっ」 男は、飄々と答えた。 「可愛い女の子を守るために理由なんているのかい?」 「えっ・・・・・・?」 男があっさりと言い放った言葉に、ツバサの心臓が1つ大きな音を立てて鼓動した。 「まぁ、今回は俺がいたから良いとして、次はないかもしれないよ」 「あ、あ、うん、わかってる」 「信号無視は・・・・・」 「もうしない」 ツバサの言葉に、男はにっこりと微笑む。 「わかればよろしい。じゃ、またね、俺も行くとこあるから」 と、男はその場を離れようとする。 「あ・・・・名前・・・・・・聞かせて」 とツバサは男を呼び止めた。 「おれか?山田太朗だ」 男がそう言う。 「山田・・・・・・?」 ツバサが頭の上に『?』を浮かべる。 その様子を見て、男が苦笑する。 「すまん、ウソだ、ホントは『白田 虎武』と言う、とりあえずよろしく」 と言って、虎武はその場を離れる。 「・・・・・・・ありがとう、助けてくれて」 ツバサは虎武のうしろ姿にぺこりと礼をした。 虎武は後ろを振り向かず、手を振った。 「ボクも早く行かなきゃ」 と言って、ツバサは再び駆け出す。 ツバサが轢かれそうになった同じ頃。 「きぁっ!」 アカネは足を滑らせ、川沿いの土手を転げ落ちてしまった。 『落ちる!』 回転が止まらない。 アカネは、落ちる、と思った。 しかし・・・・・・ ――パシッ 暖かい温もりがアカネの腕から流れ込んでくる。 「・・・・・・・・・・・・・・・・え?」 アカネの腕をつかむ男がいた。 「よっ・・・・・・と」 と言って、男はアカネを片手で引っ張りあげると、ゆっくりと地面にアカネを下ろす。 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 アカネはまじまじとその男の顔を見る。 「・・・・・・なに?」 男はその視線に気付いた 「どうして助けてくれたんだ?」 アカネは男に聞いた。 アカネの問いに対し、男は怪訝そうな顔をして言う。 「川に落ちてずぶ濡れになりたかったか?」 「いや、そう言うことじゃなくて」 「人を助けることに理由なんていらない、それくらい当たり前の事だろう?」 アカネが何かを言う前に男が言った。 「え・・・・・・?」 男はアカネを見つめていた、その男の視線にアカネは頬を紅潮させる。 その様子に気付いた男は、視線をそらすと、 「失礼、俺の名前は『舞朱雀 星』と言う、さっき男の人と会ったよ」 と、言った。 すると、アカネが、 「ご主人様っ!?」 と言うと、男は分からない、と言う風な表情を見せ。 「ご主人?さぁ、そうかどうかはわからんが、とりあえずあっちに行ったよ」 と、工場の方向を指す。 それに何かを確信したのか、アカネが言った。 「やっぱり・・・・・・・・ごめんっ、先を急ぐから」 と言うと、男に背を向けて、駆け出した。 「あぁ、またな『アカネちゃん』・・・・・・」 男はアカネの背中にその言葉を投げた。 「えっ・・・・・・・?」 アカネは、名乗ってもいないのに名前を呼ばれたので、とっさに振り返る。 しかし、そこには誰もいなかった・・・・・・・・・。 「よっ、ほっ、はっ」 悟郎は一生懸命荷物を運んでいる 『ご主人様〜、がんばって〜』 アユミとミカが、せっせと荷物を運ぶ悟郎に激励の言葉を投げる。 「ありがとう、でも、もういいよ、2人ともそろそろ帰った方が・・・」 悟郎がそういうのを、ミカが却下した。 「だ〜め〜、アルバイトが終わるまでミカはご主人様をずっと応援するの〜」 「私は、ミカちゃんを監視しないと・・・・・・」 「むっ」 ミカがアユミを睨む。 「ふっ」 すました顔で視線をそらす。 『ご主人さま〜、後少しっ、後少しっ♪』 二人はなおも応援を続けた、いがみ合っても一緒に応援する事は意見が一致したらしい。 その様子を見ていたレイが、 「なんか・・・・・・・調子狂いますね」 と言うと、ガイもそれを肯定した。 「あぁ・・・・・・」 「しょうがない・・・・・」 シンのが口元に笑みを浮かべる。 「こうなったら、力技で行くしかありませんね」 「兄者に、とっておきの生贄をささげるためにな・・・・・・」 シンの言葉に、ガイも冷ややかに笑みをこぼした。 「ふぅ〜〜〜」 すっかり荷物を運び終えた悟郎は、床に腰を下ろし、ため息をこぼした。 『ご主人様すご〜い、全部終了〜〜〜♪』 ミカとアユミが声をそろえてそう言うと、悟郎のお腹が鳴った。 ――ぐぅ〜 「お腹へったぁ〜」 「は〜い、ご主人様、あ〜ん」 アユミは、弁当箱を広げ、その中のきんぴらごぼうをお箸でつまむと、悟郎に食べさせようとした。 「あの、自分で食べれるから」 悟郎は慌ててそう言った。 「ご主人さま、はい、冷たいレモンティー」 ミカが、水筒からコップにレモンティーを注ぐと、悟郎の手に持たせた。 「あぁ、ありがとう」 と言って悟郎はレモンティーを受け取る 「ちょっとミカちゃん」 悟郎を取られたような気がしたのか、アユミはミカに文句を言う。 「なによ」 「なによ、じゃ無いわよ」 険悪なムードになるのを止めようと、 「あぁ、けんかはダメ、けんかはダメだよ〜」 と、悟郎が制止しようとしたそのとき、 「ちょっとキミ〜、お休み中の所悪いんだけど〜、むこうにある物を片付けておいてくれないかな〜?」 と、シンが工場の外で指を指し、中に居た悟郎に対しそう言った。 「あ、はい」 悟郎は立ち上がると、傍らに置いてあったヘルメットをかぶって行った。 『あっ、ご主人様』 と言って2人は残念そうに悟郎の背中を見送る。 「つまんないの〜」 ミカが文句を言う 「そりゃ、ずっと見てるだけですものね〜」 そのアユミの言葉にミカはむっとする。 「あんただって見てるだけじゃない」 と、ミカが言った時。 ――ゴゴゴゴゴゴ・・・・・・ 何かの轟音が聞こえた。 「?」 「?」 ミカとアユミが顔を見合わせる。 「?」 悟郎は、背後から迫る謎の音に気付き、後ろを振り向いた。 すると、パワーショベルが、スピードを出して悟郎に迫る。 しばし思考が止まる。 「はっ!」 パワーショベルのアームが振り下ろされるのを目にして悟郎はとっさに横に飛び退く。 ――キキ〜〜〜〜〜ガンっ パワーショベルのアームが悟郎を襲う。 『きゃぁっ、ご主人様っ!』 ミカとアユミは悲鳴を上げた。 「大変だ〜、パワーショベルの暴走だ〜」 シンは棒読みでそう言った。 「なんちゃってね」 レイは口元に笑みを浮かべていた 「はっ、はっ、はぁっ」 悟郎は必死に逃げ惑っていた。 「うわぁっ」 しかし、悟郎は足をもつれさせ転んでしまった。 「ちゃ〜んす♪」 と言ってパワーショベルを運転していたガイが笑みを浮かべ、アームを動かす。 倒れている悟郎にアームが振り下ろされる。 しかしその時、パワーショベルの前に、ミカとアユミが悟郎を守るように立ちはだかる。 「いけないっ!」 シンはとっさに飛び出した 「シンっ!」 「ちっ、後少しだったのに」 ガイはそう悪態をつくと、ミカとアユミを避けるようにレバー、ハンドルを切った。 アームが持ちあがり、工場の屋根を突き破る。 そして、パワーショベルは横転した。 「ご主人様っ、大丈夫?」 ミカが心配そうに言った。 「う、う〜ん、なんとか、無事みたい」 悟郎がそう言うと、ミカは安堵のため息を洩らした。 「よかった」 と、その時天井からパラパラと埃が落ちてくる。 「ん?」 悟郎が天井部分を見上げたその時。 ――ガラガラガラガラガラ・・・・・・ 『うわぁ〜〜〜〜〜〜』 『きゃぁ〜〜〜〜〜〜』 ――ドーン 大きな音と、悲鳴とが混ざり合い、工場が崩れた。 皆は気を失っていた。 「う、うぅ〜ん・・・はっ」 アユミが目を覚ますと、即座に声をかけてくるものが居た。 「だ、だいじょうぶ・・・・です・・・か?」 シンが、アユミの上に覆い被さって、鉄骨から彼女を守っていた。 「あなたは・・・・・・・・・・・」 「どこか痛む所はありませんか・・・・・・・?」 シンのアユミの体を気遣う言葉に、アユミは。 「いえ・・・・・あの・・・・だいじょうぶです」 「そう、よかった・・・・・・・・・・・・・あなたに怪我でもされたら・・・・・・」 二人の世界を作っていた所に、さらにその下から、 「あの〜〜〜〜〜〜〜〜お取り込み中まことに申し訳無いんだけど。とっても重いんだけど〜なぁ〜」 ミカは、二人の下敷きになっていた。 「あっ」 「す、すみません」 2人は体を起こすとミカの上から退いた。 ミカはゆっくりと起きあがる。 「まったく、この大変な時にご主人様をほうっておいていちゃいちゃと・・・・・・・ん?」 ミカが悪態をつこうとしたとき、肝心な事を思い出した。 「ご主人様〜?」 「はっ、そうでしたわ、ご主人様〜〜〜」 ミカがそう言うと、アユミも思い出したかのように悟郎を呼んだ。 「ご主人様〜、どこ〜〜〜?」 ――ガラガラガラ・・・・・がらっ 瓦礫が崩れる音が聞こえた。 2人はその方向を見た。 すると、瓦礫の山から悟郎が顔を出す。 「ふぅっ」 悟郎が無事な様子を見ると、2人は即座に悟郎に駆け寄った。 『ご主人さま〜』 「やっぱりご主人様には敵わないですね」 レイは、悲しげな表情を浮かべたシンを見ながらそう言った。 「ふぅ・・・・・・・・そういえば、ガイのやつは・・・・・・」 と、シンが言おうとしたその時。 「うわぁあぁあぁあ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っあ・・・・あぁ・・・・・・」 ガイの大きな叫び声が工場内に響いた。 「どうしたっ?」 シンがガイの姿を見つけると、即座に駆け寄り、言った。 「あ、あれ・・・・・・・」 と言って、ガイはパワーショベルのアームの先端を指す。 「あ・・・・・あれは」 レイもその場に来ると、戸惑いながら言った。 パワーショベルの先端が、大きな石の上に乗っていた。 ――ピシッ 石に亀裂が走った。 ――ピキピキピキッ・・・・ガラガラガラ 『のわぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜』 三人が声をそろえて叫んだ。 石は粉々に砕けてしまった。 3人は石があった場所に駆け寄る。 「これやばいぜ」 「これでは、睦悟郎を倒す前に、兄者が!」 「青竜のゴウが・・・・・復活するっ!」 『ご主人さま、お怪我はありませんか?』 ミカとアユミが、悟郎の額をタオルで拭いながらそう言う。 「あ、あぁ、だいじょうぶだけど」 悟郎がそう言うと、2人は安堵した。 『よかった〜』 「よくないよ」 悟郎はため息をついた。 「え?」 「だって、バイト先がこんな状態じゃ、バイト代なんて貰えないよぉ〜〜〜〜〜〜」 バイト先の工場、見る影も無く建物の大半がくずれ落ちていた。 「そんな事ありませんわ、こうなったら直接あの人達に掛け合って、せめて半分だけでも」 そう言って、交渉しに行こうと立ち上がったアユミをミカが引きとめた。 「ねぇ、あれ、なんだろ」 ミカが工場の一角を指差す。 その指の先には、手が1本、2本・・・3本、手招きしていた。 「うわ〜、粉々だよ、これじゃ〜兄者に怒られるよ」 「せっかく、生贄をささげようと思っていたのにっ!」 「そういえば、睦悟郎は・・・・・・・・・」 レイは辺りを見まわす。 「ちっ、にげられたか」 レイは舌打ちをする。 とその時、 ――カタ、カタカタカタ・・・・・・・・ 工場が揺れる。 「な・・・なんだ」 ガイが戸惑う。 「これは・・・・・・・・」 「兄者・・・・・・」 眩い閃光で辺りが包まれる 『うわぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜』 3人は絶叫した。 「あ〜あ、なんであそこで帰らなきゃいけないのよ〜、せっかくのバイト代がパーじゃない」 悟郎、ミカ、アユミ、そして、ツバサ、アカネ、ユキは、来た道を戻っていた。 (あの御方、なんだかとっても・・・いけないわ、私にはご主人様が・・・でも、あの方は私を・・・・・・・・・・・あぁっ) アユミはなにやら思考をめぐらしている。 「そうそう、ご主人様、今日不思議な人と会ったんだ」 ツバサがそう言うと、悟郎は聞き返す。 「不思議な人?」 「あっ、それなら私も、いつのまにかいなくなってたけど・・・・なんだか」 と、アカネも同調して言う 「優しかった・・・・・」 「うん、ご主人様みたいだった・・・・・・」 二人の様子に、悟郎は微笑む。しかし、ユキの様子に気付いた。 「へぇ、そうなんだ・・・・・・・あれ?どうしたの?元気無いよ、なにかあったの?ユキさん」 ユキは、突然声を掛けられ、戸惑う。 「え?あぁ、いえ、なんでも・・・・・はぁ・・・・」 ユキの様子を、悟郎が不思議そうに見る。 と、ふと突然、悟郎が足を止めた。 「・・・・ご主人様?どうかなさいましたか?」 皆も足を止めると、悟郎をいっせいに見る。 「いや・・・・今・・・なんか動物の雄たけびのようなものが聞えたような・・・・・」 「おたけび・・・・・・?」 みんなは不思議そうに悟郎を見た。 壊れかけた工場。 崩れた石の場所から、どこからか現れたのか、男が居た。 ――ゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・・・ごんっ 男は片手で軽々とパワーショベルを持ち上げ、放り投げる。 「兄者・・・・・・・」 3人は男にひざまずく 「クックックックック・・・・・・・・汚らわしい臭いがするぞ、腐りきった人間の臭いがなこの俺が浄化してやろう、腐臭を放つ人間どもをな」 空に雷鳴が轟いた。 彼が、四聖獣最後の・・・・・・・・ 青竜のゴウ 悟郎達が、家に向かって歩いてる頃。 睦家の隣の家では。 「・・・青龍が目覚めたか・・・・・・・」 雷光を見ながら、窓際にもたれていた男が言った。 「そうだな、これで四聖獣がそろったわけだ」 「まぁ・・・・・・遅かれ早かれ、戦うことになるだろうし」 口々にそれぞれ別の男が言う。 すると、その家のドアが開く音がして、再び別の男が入ってきた。 「ん・・・・、来てたか、光樹、星牙、虎武、星」 忠治がそう言うと、光樹が答えた。 「・・・あぁ、ここから町を見てた・・・」 「インコと会った、まさか大型トラックを受けとめるハメになるとは痛かった」 虎武がそう答えると、痛みを思い出したかのように両腕を再びさすった。 「あれ?お前、重力操作できなかったっけ?」 星牙がそう言うと虎武はこめかみに汗をにじませながら苦笑した。 「・・・・・・・・・・そうだった、ど忘れ、まぁいっか」 今度は、星が、 「俺はキツネ・・・・だったな」 星牙は、 「俺はカメだった・・・・・・・・・・・・・・・・」 その様子に、忠治は苦笑して、 「そっか、四聖獣がそろった・・・・・・避けることはできない争い・・・・か?」 と呟いた。 光樹も苦笑して言った。 「・・・やるしかないさ、それが、俺達の役目だからな・・・」 光樹の周りを風が舞う。 「・・・聖戦士の・・・・・・・・・名にかけて・・・」 |
第10話『Pure Snow』に続く