街の人気の無い路地裏に男は立っていた。
男の周りには、複数の人が倒れている。
男が口を開いた。
「・・・・・・・・・・あいつら、今日来るかな?」
幻影の天使たち
第8話
「それでは、ちょっと出掛けて来ますね」
守護天使の一人、ヘビのユキは、その日、どこかに出掛けて行った。
『行ってらっしゃ〜い』
残りの守護天使達が、見送りの声をかける。
そして
ずずず〜〜〜〜
「ぷは〜〜〜お茶はやっぱり緑茶に限るね」
と、皆でちゃぶ台を囲ってお茶をすすっている。
いや、さんぴん茶も結構美味しい。
「あ、ご主人様、汗が」
と言って、ツバサが悟郎の額の汗を拭う。
なぜか『キュッキュッキュッ』っと言う音がなる・・・・・・
「あ、ありがとうツバサ」
と言って、しばらくまったりとお茶をすすっていた。
すると、そこへいきなり。
「ご主人様〜〜〜〜〜〜〜〜」
と言って、ネコのタマミが1枚のチラシを持って玄関から部屋に入ってくる。
「なんだい?タマミ」
「これですっ」
と言って、チラシの表面を、悟郎に向ける。
みんなは悟郎と一緒にそのチラシを読む
『工場解体作業アルバイト募集、時給・・・・・・3500円っ!?』
皆が一斉に大声を上げる。
クルミがとっさに口を開く。
「凄いの〜、そんなにい〜っぱいあったらひまわりの種がたっくさん食べれるの〜」
何かどこかに恍惚の表情を浮かべて喋っている、悦に入っているようだ。
そこにツバサが口を挟む。
「いつもい〜〜〜っぱい食べてるじゃないか、たまには遠慮したら?」
「おねがいなの〜、クルミの小さな幸せに水を差さないで欲しいなの〜」
ツバサの棘の混ざった言葉に、クルミは落涙しながら言う。
・・・・・・ひまわりの種が幸せか・・・・幸せは人それぞれか・・・・
「でも、そんなに時給が高かったら仕事は大変なのでは・・・・・?」
ランがそんな事を言うと、チラシに書いている文字に気付いたアカネが言った。
「あ、軽作業って書いてる・・・・・」
と、アカネが書いている部分を指差す、するとその隣でミドリもほえ〜、とチラシを見た。
「あ、本当れす、軽作業って書いてるれす」
その様子に、タマミは胸を張って。
「だから、大丈夫ですよ。さらに、ほら、ここのところ見てください」
と言って、チラシの1部分を指差す。
「え〜っとなになに?メガネ着用・・・・」
「動物好きの・・・・・・・・・・・」
「はたち以上、29歳以下の男性らぉ?」
ミカ、モモ、ルルがタマミが指している所を口々に読み上げる。
ルルだけは振り仮名を読みながら喋っていた。
「ねっ?御主人様にぴったりでしょ?」
と言ってタマミがにっこりと微笑む。
そして、みんながいったん無言になる。
タマミと悟郎以外の守護天使ズが、ぼそぼそと呟く。
【なんかあからさまに怪しくない?】
【あやしいあやしい】
【ユキさんに相談してからの方が・・・・・・・】
【大事な用があるってどこか行っちゃったの〜】
と、何か言っているのを、タマミがジト目で見ている。
気のせいかもしれないが、額に青筋が見えているような気がする。
「もう、早く決めなきゃダメ、アルバイトの募集は、今日の4時までなんですよ」
と言って、タマミは悟郎の方に向き直り詰め寄る。
悟郎は一瞬ビクッとなる。
「さぁ、ご主人様、決めてしまいましょ」
「さぁ」
「さぁ」
「さぁ!」
ついには悟郎も根負けして。
「う・・・うん」
と、返事をしてしまった。
ご主人様である悟郎が承諾したため、他のみんなも反対する訳にはいかなくなった。
皆は、バイトに行く悟郎の為の準備をしている。
「らんらんらららんら〜ん」
ランは鼻歌を歌いながら悟郎のための弁当を作っている。
弁当、通称愛妻弁当。
具を入れる弁当箱はテーブルの上に置かれている。
重箱二段・・・三段?
そこまで食べれるのかが疑問だが、とりあえず作っている。
しばらくして料理が完成すると、弁当箱に詰め、包みリュックに入れた。
そこへミカがやってきてランに聞く。
「ねぇ、こんなに食べれるの?」
ミカが、あまりの量の多さにため息混じりの口調でそう言った。
「肉体労働ですから、沢山カロリーを取ってもらわないと。それと、冷たいレモンティー、うふ♪」
とあっさり言い放つと、レモンティーの入った水筒を自分の頬に当て、冷たさを確認する
そのランの様子をミカは無言で見つめる。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
ミカ妄想開始。
もやもやもやもやもやもや
『はい、ご主人様、冷たいレモンティーよ』
と言ってミカはコップにレモンティーを入れて悟郎に渡す。
『ミカってさぁ・・・・・・』
『はい?』
『とっても気が効くんだね』
と言って悟郎はミカに向かって微笑む。
ミカは赤くなる。
「いやだわ、ご主人様ったら、そんな本当の事言って〜、ミカ照れちゃう」
と言って、ミカは両手で頬を押さえていやいやをしながら笑っている。
「なにがです?」
ランは冷や汗を流しながらミカに言った。
「へ?」
妄想のつもりが実際に声に出し、からだが動いていたらしい、
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
それに気付いたミカは自らの奇行に対し、滝のように汗を流している。
そのミカの様子にランも思わず体を強張らせた。
「な、なんでもないのよ、なんでも、ホントに」
ミカはランに背を向けるとそういった。
ランは、それ以上詮索するのをやめた。
「そ、そうですか」
『なんとか気をそらさないと』
と、ミカが思ったかどうかは定かではないが。
「あ、そうだ、汗かいた時のためにタオルでも入れといたほうが良いんじゃない?」
と、ミカが言うと、即座にランは行動に移る。
「そうですね」
て言って席を立ち、タオルを取りに行った。
ミカが数秒間一人でいると
「・・・・・・・・・・・・(にや)」
とわずかな笑みを見せ。
カバンに手をかけた。
と、その時。
「ミカね〜〜〜〜さ〜〜ん?」
「ミ〜〜〜カ〜〜ちゃ〜〜ん」
と、アカネとアユミが、壁から顔を半分だけ出してミカを見ていた。
おぉ、ダブルアタック、こわっ。
二人の声にビクッとなるミカ。
「何をしようとしてたのかしら〜〜〜〜?」
「ミカね〜さん、また悪巧み?」
「な、なによ、悪巧みなんて人聞きの悪い・・・・」
ミカは思わず弁解しようとする、が、否定しない時点で何かを考えていた事はモロバレなのである。
「私はミカちゃんの悪巧みにかんしてはすっごく勘が働くんですの」
「ある意味、神の領域だよね」
アユミの言葉にアカネが付け加える。
「なんで私がそんなことしなきゃいけないのよっ!」
ミカが怒り出す、しかしその時。
「はいはい、そこまで、白旗だ〜、もう降参だ〜なんちゃって♪」
ランが、その場の雰囲気を和ませようと、軽い冗談を言う。
しばし沈黙。
「・・・・・・すいませぇん」
ランは肩をすくめ、しゅん、となった。
と、そこへ、
「お〜い、僕のTシャツどこいったっけ〜?」
と、悟郎の呼ぶ声がした。
「あ、は〜い」
ランが行く。
「それと、靴下は〜〜〜〜?」
アユミがチラッとミカを見ると。
「それなら、タンスの奥に・・・・・・」
と言って、アユミも行った。
その場に残されたのは、ミカとアカネ、そして。
「僕のGパンどこにあるかわかる〜〜〜?」
「あぁ、昨日干したから、ベランダに・・・・」
と言って、アカネも立って、悟郎の所に行った。
その場に残されたのは再びミカだけになった。
「・・・・・・・・・・・・・・・(にへ)」
ミカが、リュックをつかみながらにっこりと笑った。
「じゃぁ、行って来るから、留守番はお願い」
『行ってらっしゃ〜い』
マンション前の階段の最上段で、最下段に立っている悟郎にみんなは手を振っている。
ふと、アユミは、辺りを見まわした・・・・・・・
そのあと、悟郎の背負ってるリュックに、怪しげな気配を感じたのか険しい表情で見る。
そしてその直後、アユミの顔が一層険しくなった。
まるで、睨んでいるかのような形相であった。
悟郎は、土手を歩いている。
片手には、目的地までの地図を持っている。
「へぇ〜、結構遠いんだ〜」
一定の速さで歩いていると。
「あれ?」
悟郎は、土手の川岸に男が立っているのを見付けた。
(・・・・・・あんな所で何をしているんだろう・・・・)
しばらく思考をめぐらしていると。
「まさかっ!」
何を思い立ったのか、悟郎はカバンをその場に置くと、人に向かって一直線に駆け出した。
数メートルに近づいた頃。
その男が、後ろから迫る悟郎に気付いた。
(・・・・・・なんだ?)
と、思った次の瞬間。
――ドンっ
悟郎はその男に猛烈な勢いでタックルをした。
「ぐはっ」
男は沈痛なうめき声を漏らすと、
――ゴロゴロゴロゴロ
そのまま悟郎のダッシュの勢いが、タックルに移り、男と悟郎は土手を転がって行く。
「くっ」
男は土手に右腕を伸ばししがみつこうと爪を立てる、必死に止めようとして腕に力を入れてブレーキをかける。
数秒後
二人は止まった。
「はぁ・・・・・・・・・何するんですかあなたは」
男が上半身を起こすと不満気な口調で悟郎に言う。
「はぁ、はぁ・・・ダメだよ、自殺なんて考えちゃ」
「・・・・・・はぁっ!?」
悟郎が突然言った言葉に男は思わず大声を上げた。
「人生はまだまだ長いんだし、ちょっと失敗したからって、そんな軽々しく命を捨てるなんて・・・・」
「ちょ、ちょ、ちょっと待て」
「僕で良ければ、相談にのるから」
「・・・・・・・・・・・・・・」
男の声を無視して勝手に喋る悟郎に男は呆れ沈黙した。
「・・・・・・?どうしたんだい」
悟郎は怪訝顔で男の顔を覗き込む。
「はぁ・・・・・・俺は川の流れ見てただけです、自殺なんてこれっぽっちも考えてないんすけど?」
と、男は呆れ声で話す。
「え?」
「つまり、そっちの勘違いってこと」
男は、悟郎をビシッと指差すとそう言った。
「あ・・・・ごめん、つい早とちりしちゃって」
自分の早とちりだとわかって、悟郎は表情を曇らせる、とそこへ。
「いや、半分当たってるから」
男がさらりと言い放つ。
「ぇ?」
「ウソだよ」
と言って、男は立ちあがり、服についた土や草を払い落とす
そして、男は悟郎に手を差し伸べる。
悟郎は、その手をとって、立ちあがる。
「ふぅ〜、来たそうそうこんなことになるなんて思って無かったよ」
男は苦笑交じりにそう呟いた。
「え?来たって・・・・・?」
「あぁ、最近ここに引っ越して来たんだ、4人で」
「4人?どうして?」
「・・・・色々とね、おれは『舞朱雀 星』よろしく」
悟郎の質問にお茶を濁したように答えると、彼は名乗り、手を差し出す。
「あ、うん、よろしく、」
と言って、悟郎が星の手を握る。
と、そのとき。
「あててててててっ」
星は悟郎の手を必要以上に力を入れて握った。
悟郎は、振り払うかのようにして手を離す。
「いたたた・・・何するんだ・・・・・」
と、悟郎が言おうとした時。
「タックルのお返し」
と星が言ったので、悟郎は何も言えなくなってしまった。
「さてと・・・・・・・・・どっか行く途中だったんじゃないの?急がなくていいの?」
と星が言うと、悟郎は慌てて時計を見た。
「あっ、急がなきゃ遅刻しちゃうよ、じゃ、僕は先を急ぐから」
と言って、カバンを拾い、悟郎は走って行った。
星も笑顔で無言で悟郎に手を振っている。
30秒後
星の場所に女の子が一人歩いて来た。
ベレー帽をかぶった少女、小柄な女の子だった。
しかし、女の子は星を素通りした。
星は、それを見て。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・なるほど、あの子か、『あいつ』の言うとおりだな」
星の呟きは、川のせせらぎにかき消された。
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