悟郎、ナナの二人は。

家、マンションに着いた。

その時、ある男の声が聞こえた。

「くそっ、なんてこったっ、鍵落としちまったら家に入れね~じゃね~か」





幻影の天使たち

第2話




翳りゆく部屋



男の声と一緒に、扉を叩く音がひっきりなしに聞こえる、

――ガンガンガンガンガンガンガンガンガンゴンゴンガンゴンガンゴン

その音を聞いて、叩いている扉の隣の扉から、一人の女性が出てくる、

「何よ、一体、なんの音?」

彼女は、鬱陶しげな顔をして言う。

その声に、扉を叩いていた男はポツリと返す。

「扉叩いている音・・・・・・」

「は?」

彼女は素っ頓狂な声を上げた。

男はさらに言う。

「鍵落としちまって、家にはいれなくなった・・・・・・」

「ドジねぇ・・・・・・」

女は、容赦無く男の核心を突く。

「ぐはっ、ダメージ3500、瀕死です、だれか、回復を・・・・・」

どこから用意したのか、男は血糊を口から吹き出し、その場に突っ伏した。

「あんた、面白いわね・・・・・・・・あ、ご主人様っ♪」

女は、男の行動に吹き出しかけるが、階段を登ってきた男女二人組みに気付くとそちらの方に走って行った。

男はほっといて。

「・・・・・・おいっ!・・・・・ご主人様?」

男の口からは血糊が綺麗に無くなっている、いつの間に拭き取ったのだろうか。

男は女が走っていったほうを見る。そこでは、先程の女が、男の方に抱き付いていた。

「なんだ?悟郎に・・・、ナナか、やっぱり、ここだったのか。そういえば、あの女もさっき、ご主人様 って言ってたな・・・・・・・」

『なるほどね』

忠治はうっすらと口元に笑みを浮かべてそう言った。


「ご主人さま~、おそ~い、ミカ寂しかったんだから~」

「ごめんよ、ミカ、ちょっとトラブルに巻き込まれちゃって」

「トラブルっ?何かあったの?」

ミカは、悟郎から離れ、びっくりした様子で聞いた。

「いや、僕じゃ無くて、ナナが」

「ナナが?ナナ、何があったの?」

「不良にからまれたの」

ナナは、あっさりと言った。

「不良?あんた、不良にからまれたの?良く無事だったわねぇ~、ご主人様に助けてもらったの?」

「いや、僕じゃなくて・・・・・・・・・・」

「俺だよ。」

「ひゃぁっ」

忠治は、いきなりミカの後ろに立っていた。

ミカは、いきなり後ろから声が聞こえたので、びっくりしたらしい。

「まさか、同じマンションに住む事になるとは・・・・・・奇遇だね」

忠治は「偶然とはこれまた・・・」と呟きながら、なにやらうなずいている。

その忠治に、ナナが何かを思い出したかのように尋ねる。

「あっ、そうだ、忠治さん、鍵落とさなかった?」

「ん?あぁ、鍵落とした、今ドアを破壊して中に入ろうと考えていたところだ」

ナナのその言葉に、はぁ、と溜め息を付ながら忠治が答えた

それを聞いた悟郎は、

「それって・・・この鍵?」

と言って、ポケットから1つの鍵をとりだした。

「あぁ~~~、それそれ、それやがな・・・っと、失礼、拾ってくれたのか、ありがとう」

そう言って、忠治は悟郎から鍵を受け取ると、自分の部屋の前まで行った。

そして、扉の前で、3人に向けて言った。

「そんな所にいると、邪魔になるぞ、早く部屋に入っとけ~」

と、言って、扉を開け、室内へと消えた。

3人は、慌てて自分の家の中に入って行った。








3分後




ぴ~んぽ~~~ん



睦家のインターホンを押す者がいた。

「は~い」

赤髪の中学生くらいの女の子が、返事をし。


ガチャっ


ドアを開けた。

そこには、両手一杯に何かを持っている忠治が居た。

「隣に引っ越してきた者で~す、よろしく、ちょっとお邪魔して良いですか~~~?」

忠治は、引越しそばを持っていた、とてつもない量の。

「お邪魔しま~す、はいどうぞ~」

かってに話を進める忠治。

「あ、あの・・・・・?」

少女も当惑している。

そして、ちゃぶ台のある、1番広い部屋に入った。

「こんばんは~、引越しそばで~す」

「おそばっ?♪」

忠治が言った『そば』、という単語に、いち早く反応したのが、頭に2つのお団子がある、中学生ぐらいの女の子であった。

「引越しそば・・・・こんなに」

「あ、俺の分も入ってるから」

「え、どうして・・・・「一人で食べるの寂しいから」

忠治は、悟郎の言葉を途中でさえぎり言った。

「まぁ、食べ切れ無かったら持って帰るさ」

「だめなの~、クルミが全部食べるの~」

少女――クルミ――は、忠治の言葉に、そばを渡すまいと抱きかかえて威嚇する。

忠治は、(名はクルミか)と思いつつ。

「この子も守護天使?」

と、クルミを指して尋ねる。

「あ、うん、クルミって言うんだ、昔飼っていたハムスターなんだ」

悟郎も、あっさりと答えた。

忠治と悟郎の会話の内容から、何かを悟ったまた別の少女がやってくる。

「ご主人様、この人に話しちゃったの?」

少女は、憂いを帯びた目で悟郎を見ながらそう言った。

「うん・・・・ごめんよツバサ・・・・つい・・・・・ね」

「あらぬ疑いかけられるよりその方が良かったんだとさ」

忠治がそれとなく悟郎をフォローする。

しかし、次の瞬間には。

「あ、赤い髪の綺麗なおねえさん、おそば作ってくださ~い」

と、蕎麦のほうに興味が移っていた。

と言っても、その少女より忠治の方が外形年齢的には上なのだが

悟郎は、その忠治の言葉に苦笑したが、彼も同じように言った。

「ラン、そば作り、お願いできるかな?」

「あ、はい、わかりました、少し待っててください、すぐ作りますから」

そう言ってランは、そばの袋をひょいひょいと取り上げると、キッチンへと入っていった。

その後に続いて、クルミも蕎麦を抱えてキッチンへと移動した。

置いといたら持って帰られると思ったらしい。

その様子を見ながら忠治は、

「持って来た物は持って帰らんぞ、ゴミ以外は」

と言って苦笑した。






ランは、慣れた手付きでそばを作っていく。

10分後には、食卓にはたくさんのそばが並べられていた。

そして、全員揃って、『いただきます』と言い、一斉に食べ始めた。

ズズズ~、ちゅるちゅる、ズっ、ズズズっ。

コラ、音を立てるな。

「ところで・・・・・・・」

忠治がそばを食べながら口を開いた。

「ここにいる娘達って、全部もと動物?」

「うん・・・・・・・昔、僕と一緒に暮らしていたペット達だよ」

悟郎は、箸を置いて肯定する。

「昔飼っていたペットか・・・・・・・・なるほど・・・」

忠治がそう呟く。

「自己紹介、お願いできるかな?俺は『後中忠治』歳は19だ」

忠治がそう言うと、待ってましたと言わんばかりに、各々が自己紹介を始める。

「だぁっ、そんな一辺に聞けるかっ、順番だ順番っ」

忠治がテーブルを叩きながら言う。

すると、皆は一箇所に固まってぼそぼそと相談を始める。



「じゃぁ、ボクから、インコのツバサ、14歳だよ、よろしくねっ」

相談がまとまったのか、青い髪の快活な少女が最初に自己紹介を始める。


「金魚のランです、15歳です、よろしくお願いします」

次は、赤色の髪の毛の、大人しめな、そばを作っ少女。


「クルミなの~、ハムスターなのぉ~、13歳なのぉ~、よろしくなの~」

次は、先程のお団子をつけた、茶色の髪の毛の少女が間延びした声で言う。


「犬のナナだよっ、8歳だよ、よろしく♪」

ナナの自己紹介に、忠治は「犬なのになぁ・・・・・・・・・・」と呟きつつ苦笑した。


「ルルたんは、7歳らぉ。カエルらぉ、よろしくらぉ」

大きな黄色の玉で、その緑色の髪の毛を左右にまとめている小さな女の子が言った。


「あ、あのっ、サルの、モモです。9歳です・・・・よ、よろしくお願いします」

桃色の髪が印象的な女の子が、頬を染めながら恥ずかしそうにそう答えた。


「ネコのタマミです、10歳ですよ、計算なら任せてください♪」

メガネをかけた女の子が、そろばんを片手にそう答える。


「12歳、キツネのアカネだよ、よろしく」

前世と見事に重なる、キツネ色の髪の毛の少女が言う。


「11歳、タヌキれす~、ミドリれす、よろしくお願いするれす~」

のほほんとした雰囲気 マイペース の少女がそう言った。


「16歳、カメのアユミですわ、よろしくお願いいたします」

小柄な少女――いろんな意味で――が、深々と頭を下げて言った。

つられて太悟も頭を下げた。


「はぁ~い♪、ミカの番ね、17歳のウサギよ、よ・ろ・し・く♪」

家の前で遭った、彼女であった。

豊満な胸を強調するかのように腰に手を当て、胸を張って言った。


「では、私が最後ですね、ヘビのユキと言います、18歳です、よろしくお願いします」

18歳、高校生とは思えないような穏やかな物腰に驚きながら、忠治は全員の自己紹介を頭の中に叩き込んだ。




「・・・・話は聞いた、この事を知ってるのは俺だけだ。俺は、秘密は絶対に外部に漏らさない、信じてくれるか?」

その忠治の問に、そこにいる全ての人間が黙ってうなずいた。

「ナナとご主人様を助けてくれた人を信じない訳無いでしょ♪」

ミカが忠治にウィンクを飛ばす。

それを見た忠治は、微笑む。

「ふふ、ありがとう。さて、引越しの片付けもあるし、俺はそろそろ家に戻るよ」

と、忠治はその腰を上げた。

「手伝おうか?」

悟郎は、親切心で、忠治に尋ねた。

「いや、良い。片付けと言っても後少しだし、すぐ終わるさ」

そして、玄関先で。

「困った時は、極力俺達が力になろう、協力し合えば、できない事は無いんだからな」

そう言って、忠治は自分の家に帰っていった。








「良い事言うわねぇ~」

「協力・・・・・・か」

「悪い人じゃ・・・・・・ないみたいだね」

「信頼の置ける人物・・・・・・か、心強い人と知り合うことが出来たね」

皆は口々に忠治に対するる第一印象を話し合っていた。

例外無く、悪い印象はもっていないようではあったが。



――忠治邸

忠治は一人で、電気も付けず、まぶたを閉じ、瞑想していた。

しばらくそのままで居ると、忠治が誰に言うとでもなく呟いた



「天使の反応はやはりあの家だったのか・・・、12人はさすがに多いな。
 しかし・・・・・・力の気配があまりに弱いな、未覚醒なのか、それとも・・・・・ほかに意味が・・・・・?
 まぁ、考えても答えは出ないか、少し様子を見る必要があるか・・・・・・」

この呟きは、誰に対して言ったものか、それを知るすべは、無い。

そして、最後に忠治はこう言った。

「伝えておくか・・・・・あいつらにも・・・」





第3話『四聖獣 復活前夜祭』に続く