吉田健一を読みだしたのは最近のことです.短編「海坊主」がきっかけでした。その著作集を読むほどに端倪すべからざる知力と眼力に圧倒されました。
我々がいくら望んでも適えられないものと思って 自分に対しても黙ってゐたことが 年月がたつとともに次第に自分の方に近づいて来るといふことはある。知らずに努力したのか 天から与へられたのか 遥か向うにあったものがいつのまにか自分とともにあることに気がつく。これが理想である。吉田健一「甘酸っぱい味」