マサラ日記     previous«  »next

8月2日(水)           

 夜遅くヤフーのニュース欄を見ると、「白いカレーが人気。全国発売へ」とある。

 私にしてみれば、白いカレーなどさして珍しくない。もともとインドにこうしたカレーはある。私のレパートリーにしても白いカレーがあるし、料理教室で紹介したり、かつて店で出したりもしてきた。大手メーカーもそうした製品を全国で出すようだが、私に聞いてくれれば、いくらでもこういうメニューは企画開発できる。

 カレーに限らず、料理の色は大事だ。私の場合、師匠たちから「料理の色は極力きれいに仕上げること」と修業のときから口うるさくいわれてきた。自分ではその教えを守ってきたつもりで、今はたいへん感謝している。

 カレーの色で、勘違いされやすいもののひとつが、ホウレンソウのカレーだ。
 パラク、サーグ、サグなどといわれ、日本でも特に女性に人気があるが、あまりにグリーンが鮮やかなのはダメである。なぜかといえば、それは煮込まれておらず、極端にいえば半生みたいなものだからだ。

 パラクやサーグはある程度煮込んでホウレンソウの中までよく味を入れ、青くささを取り、代わりに独特のいい風味を引き出すのがインド料理の正統。
 以前、ある都内高級インド料理店の厨房で、インド一流ホテル出身という若手シェフがフライパンでチャッチャッと軽く炒めただけのホウレンソウカレーをつくる場面に遭遇した。なるほど色はきれいなのだが、はっきりいってホウレンソウが生。これじゃあカレーではない。「ああ、わかっていないな」という感じ。たまたま私といっしょにその場にいたベテランインド人シェフもあきれていた。

 その若手は驚いたことに、仕上げに刻んだ生のホウレンソウをカレーもどきにふりかけてサッと混ぜ合わせていた。小粋な感じのトッピングのつもりだろうが、さらに生っぽいムードが増大し、まったくおいしそうには見えなかった。
 日本で一流とされる料理店でもこういうことがあるわけだ。

 話を元に戻せば、パラクやサグの場合、ある程度きちんと火を入れて、ややグリーンがくすんだものの方がおいしいケースが多い。きれいに仕上げてしかも味を染み込ませるテクニックもあるが、それをきちんと実践できるのはインド人シェフでもそうは多くないし、日本のインドレストランでは諸所の事情から難しい。
 
 同じグリーンでも香菜たっぷりで緑色のカレーもある。これはこれでイケる。
 ホント、本場のインドカレー世界はディープなのだ。

★日記を書いているときのBGM:リトル・フィートの『セイリン・シューズ』。表面上はインドっぽくないが、リーダーの故ローウェル・ジョージが昔シタールを勉強していたことからもわかるように、何となくインドっぽいフィーリングを感じさせる。1曲目はタブラ全開。