マサラ日記     previous«  »next

6月2日(金)
           

 仕事で品川に立ち寄ったついでに、エキュートecuteにあるインド料理店「シターラ・ダイナー」で昼食。


 インドの炊き込みご飯であるビリヤニ(マトン・ビリヤニ)と、丸いナーンにポテトなどのスパイス炒めを詰めて焼いたマサラ・クルチャ、ビリヤニの付け合せに欠かせないヨーグルトと野菜の和え物ライタ、それに野菜サラダのセット(1300円)。

 ビリヤニはカレーとライスを別仕込みして最後にミックスして蒸し上げる正統派。もちろん米はバスマティ・ライス。骨なしマトンが2ピース入っている。チャーハン流ではないマジメなビリヤニをエキナカで食べられるとはうれしいものだ。

 クルチャは表面に香菜がたっぷりあしらわれ、これまたていねいなつくり。やさしい味わいで、そのままはもちろん、ライタをつけて食べてもおいしい。

 ローストしたクミンのパウダーをふりかけたライタも含め、個々の料理はすべて本場インド式。しかもきめが細かくて、ていねいな仕込みと美しいプレゼンテーション。東京で食べられる最上級の味わいのひとつといえよう。
 もったいないのは全体の構成。ビリヤニとクルチャを合わせるというアイディアは、私ならば採用しない。ビリヤニはビリヤニとしてじっくり味わえるよう、クルチャではないカレーやマサラ、サブジ系のサイドディッシュをつける。実際、インドでもこんな組み合わせは見たことがない。

 

 これはペシャワーリ・ナーン。ナーンにココナッツの果肉などの甘いフィリングを詰め、高価なピスタチオ、カシューナッツといったナッツをクラッシュして表面に散らし、焼き上げたもの。東京の他店ではカブリ・ナーンなどと呼ばれることが多い、ちょっと甘いおやつ系ナーンの代表だ。この店のはピスタチオやカシューがたっぷりで、たいへん香ばしく美味(400円)。そこらのインド料理店の凡庸なカブリ・ナーンとは一線を画す出来映えだ。

 さて。
 私がカウンターで食べていたら、すぐ右に若い長い髪を後ろで束ねた若い男性がやってきて、カレーとライスのセットをオーダーした。見ていると、男性はやってきたセットを右手指で食べ始めた(オーダーしたのがチャナマサラだったような気がする。私だったら、ライスではなくナーンなどのパン類をオーダーしただろう)。かなりのインドカレー好き、あるいはバックパッカー系だろうか。周囲のお客様は皆一瞬、男性に注目。皆の目が気になるのか、男性の手の動きはややぎこちない感じ。象の鼻の動きに似るともいわれる、カレーをライスとまとめて口許に持っていく一連のアクションが板についていない。

 それでも男性は満足げに右手指でカレーとライスをたいらげた。エキナカでインド式を貫いたキミはえらいぞ。
 で、その後どうするのかと私が横目で見ていたら、彼は指を口に持っていき、ペロペロやってフィニッシュした。
 あれまあ、残念。これはインド手食のマナー違反である。指についた米粒やカレーをペロペロぬぐってはいけないのだ。速やかに洗面所に行き、手を洗う。または、店側がさりげなくフィンガーボールを提供するのが正しい作法である。カジュアルなこの店ではフィンガーボールは出ないだろうし、だいたい、まさか手で食べるとは、正直なところ、周囲の誰も考えない。店を出たところがすぐ洗面所。そこに行くべきだった。

 ちなみに私はビリヤニではフォークを使い、クルチャやペシャワーリ・ナーンは右手でつまんで食べた。現地ならばビリヤニは右手で食べただろう。

 日本のインド料理店で手食する際は、事前に店内外の洗面所の位置を確認すること。これは重要である。そうやってから、本場の醍醐味を満喫していただきたい。

★日記を書いているときのBGM:カーシュ・カーレイのニューアルバム『ブロークン・イングリッシュ』。炸裂するグルーヴ感とムーディなチルアウト感覚のブレンドが秀逸だ。ちなみに『ブロークン・イングリッシュ』というと、マリアンヌ・フェイスフルの同名作品も印象深い。大傑作だ)