マサラ日記     previous«  »next

12月24日(土)

 クリスマス・イブの土曜日だが昼間は仕事。まあ、毎年年末なんてこんなものである。

 仕事帰り、新宿を歩くと、クリスマス・ケーキの売り込みは盛況だが、人の出自体は思ったほどではない。

 私はといえば、知人と阿佐ヶ谷で待ち合わせて、家の近くにできたパキスタン料理店へ移動して飲み食い。待ち合わせまでの時間、阿佐ヶ谷の街をぶらついたが、飲食店はどこもそれほどの混み具合ではなかった。

 さて、お目当ての店は「ラヒ・パンジャービー・キッチン」(03-3331-7860 以前、私がシェフをしていた店から30秒足らずの路地にある)。
 日本にめずらしいパキスタン・インド家庭料理を看板に掲げ、先月末に開店した、席数12のかわいいお店である。

 本日はクリスマス・スペシャル・ディナーをいただく。
 まずはスターターから。
 左はいわゆる「アールー・パティス」などと呼ばれるサモサ風の揚げもの。中味はマッシュポテトのスパイス炒め。シャープなスパイス感がうれしい。
 真ん中はパコラ。やはりポテト、さらにはオニオンなどが入ったヒヨコ豆の衣揚げだ。南インドだとカリカリのかき揚げにするが、パンジャーブではフワッとやわらかめに仕上げる。これもスパイスの利かせ方が絶妙。酒(ワインとビール)がすすむ。
 右は鶏ドラムスティックのタンドゥール焼き、いわゆる「タングリ・カバーブ」というやつだ。マサラの感じが明らかにふつうのレストラン的タンドゥーリ・チキンなどとは異なる。よりシンプルでストレートな味つけで「あるある、こういうの、むこうで」といいたくなる。

 続いてはマトン・コフタ(羊肉のだんご)のカレーとナーン(ナーンはやや食べ放題)。
 まずはマトン・コフタというのがうれしい。現地ではありでも、日本ではなかなかありつけない。
 そしてグレービー。シャバッとしているがコクも十分だ。カシューナッツや生クリームでコッテリにした「宮廷風」とは明らかに異なる「おいしい家庭料理」の世界である。こういうのはうれしい。

 調子にのって「冬瓜とナスのカレー」を一品料理としてさらに注文。
 こちらも家庭料理の世界だ。シンプルだが深い味のグレービーがナスと冬瓜へとバッチリしみこんで、おいしい。注文があってからコチョコチョ調理するのではなく、あらかじめ素材にきっちりと味を入れる、こういうつくり方のカレーが私は好きだし、自分でもそうしてお客様に供してきたのでうれしくなる。

 ナーンは過度に甘かったりせず、食感もよく、たくさん食べられる。ベッタリとギーを塗りつけないで出されるところも個人的には好きだ。今日は2枚食べた。

 ほかにサラダ、さらには食後のデザートとしてライスキール(お米のミルク煮)をいただき、締めはチャイ。デザート、チャイとも香りがよく美味。

 脂っこくなく、味つけは軽めだが的確、そして満腹するまで食べても胃にもたれないのがインド亜大陸家庭料理に共通した魅力だが、確実にそうした魅力を体現している。一般にはまだなじみのない「パンジャーブ家庭料理」だが、家から歩いて3分ぐらいのところに、こうした店ができたことはとてもうれしい。さすが、ディープな街、西荻窪だ。

 席数が少ないので、予約するのがいいと思う。開店したばかりで何かとたいへんだろうが、これから末永く頑張っていただきたい、そんな店の誕生である。

(日記を書いているときのBGM:デレク・トラックス・バンドのライブ。日本盤は編集なのでダメ。なかなか売っていない輸入盤2枚組CDを聴くべし)