マサラ日記     previous«  »next

12月21日(水)

 夜、昨日の豚汁を再び温めて食べる。やはり味噌の香りが飛んでいる。その代わり、それぞれの具に味が染みたのと、汁に適度のトロミとコクが加わって、それなりにおいしい。そのおいしさはできたてとは異なるものだが。

 よくよく考えれば、このおいしさは、まさにできた翌日の日本のカレーのおいしさに通ずるものである。
 生き生きとした香りは確実に退行している。しかし、独特のマッタリとしたコクが現れ出てきている。シャープさはないが、丸みのあるうまさだ。ここが、大げさにいえば、日本人の琴線に触れる味である。

 インド人は香りを重視する。だから、翌日のカレーはあまり評価しない。それに対して、日本人はスパイスの風味よりも、丸みのある味わいの方を重んじる。だから、一晩経ったカレーのファンが多いのだろう。
 私は日本のカレーにしても、できたてが好きだ。香りがいいからである。

 豚汁を食べる前、新宿のディスク・ユニオンでジャパンのファースト・アルパムの紙ジャケCDを思わず買ってしまった。アナログ盤は持っているが、25年ぐらい前に800円ぐらいで買った中古盤で(やはり新宿のユニオンで購入)、当時から音が悪かった。CDできっちり聴きたいと思ったのである。

 今やりっぱなヒンドゥ教徒であるテビッド・シルヴィアン率いるジャパンだが、ファーストはご本人たちも含めて評価が低い。後期の名盤『ブリキの太鼓』などとはぜんぜん違うキッチュな音世界だ、そりゃご本人たちは恥ずかしいだろう。
 でも私は好きだ。1曲目がいきなり「アーアー、ダバダバダー」という変なコーラスからはじまるところからして、いい。後も絶好調で、スカスカでファンクな音が続く。はっきりいってルックスと妙にギャップのある音だ。そこがまたカッコいい。

 この作品、ジャケットがスゴイのだが、ついでに当時の担当ディレクターがつけた邦題もスゴい。
 アルバムのタイトルが『果てしなき反抗』で、1曲目から順に「魅惑への招待」「奇しい絆」「黒人ならば」「美しき愛欲」「表通りの愛人達」「パレードに雨を降らせないで」「愛の回転木馬」「果てしなき反抗」「コミュニスト・チャイナ」「誘惑スクリーン」というネーミングの曲がズラリ並ぶのだ。スゴいでしょ。

 今やとても静謐でナイーブ、十分にインドっぽくもあるインテリジェントな音楽を紡ぐデビッド・シルヴィアンだが、その出発点は派手でチープでケバかった。ちょっとだけ自分自身にも似た道のりだなと、身の程知らずにも、私は思うのである(デビッド・シルヴィアンのファンのみなさん、比較してすいません)。

(日記を書いているときのBGM:サラーム海上氏のインド〜アラブのコンピ第2弾『ヤッラー・ヤッラー2』。1曲目のクラッシュ「ロック・ザ・カスバ」のカバーからノリノリ)