8月22日(月)
北海道の十勝・帯広名物というのに「豚丼(ぶたどん)」というのがある。このメニューで有名だという新宿の店に行ってみた。
新宿三丁目にある雑居ビルの地下1階で、席は6席ほど。カウンターのみで、主人がひとりでやっている。私が訪れた1時すぎには、お客様がひとりいた。
階段を下り、すぐに目に入った店の出入り口の光景があまりに雑然としている。これは自分の求めるものと違うのではという思いが頭をよぎったが、予想は見事に的中した。
カウンターの前は壁で、北海道のスナップ写真などとともに、雑誌に掲載されたときの内容や「豚肉は体にいい」みたいな切り抜きが貼りつけてある。私の眼前にある切り抜きは「分厚い豚肉に、甘辛いタレが絡んでバカウマ」みたいな雑誌の記事で、デカデカと豚丼の写真も出ている。
ちょっとは期待してもいいかなと考えたが、しばらくして供された実物を見て愕然。
まずは丼の上の豚ロース、これがめちゃくちゃ薄くて貧弱。写真とはまったく違うように見える。食べてみれば、やはりうまみがなくパサパサ。タレにはこくや香りがなく、豚肉に絡んでいない。ごはんもベチャベチャして、量も不足気味というか、やけにタレが多い感じ。
化学調味料くさい風味のグニャグニャわかめのみそ汁と、これまた人工着色っぽい色合いのきゅうりの漬物が付いて、780円とは驚きだ。街の定食屋の「豚しょうが焼き定食」の方が絶対にお値打ちなのではなかろうか。
すっかり意気消沈して食べ終えた後、お茶をもう一杯飲もうとして主人に「お茶をいただけますか」とたずねてみた。
ところが、ここでとどめの一撃ともいえる信じられないことばが、主人の口から発せられた。
「お客さん、たくさんお茶を飲むとせっかく食べた丼の消化吸収が遅れるので、ウチではお茶は一杯しかお出ししないんですよ」
お茶のおかわりを断られた私が、唖然として店を出たのはいうまでもない。
いっていることもおかしいが、やっていることも完全に変である。めずらしい体験をした。東京には、まだ不思議な店があるものだ。