男は弱し?されど女は強し??

 少し前の某新聞に、こんな趣旨の話が載っていた。
 長年連れ添ってきた夫婦で一方のパートナーと死別した場合、残された者が夫だったら、喪失感や実質的に家庭を支えてきた妻を失うことによって生じる不便さなどからなかなか立ち直れない人が多いが、逆の場合、妻は趣味や生きがいを見つけ、積極的に外へ出かけ、前向きに残りの人生を楽しんでいるという。
 それを読んで、私は思わず笑って納得してしまった。自分が関わってきた多くの患者さんとそのパートナーに感じてきたことが、書かれていたからだ。

 私が働いていた脳外科・眼科の混合病棟には、脳出血やくも膜下出血などいわゆる脳卒中で倒れた患者さんが毎日のように入院されてきたが、その多くは50代以上の世代である。当然、熟年夫婦の片方が倒れて…というケースも多い。
 病院は基準看護なので原則的に付き添いは不要なのだが、容態が厳しい場合は勿論、患者さんが淋しがったり、不安感が強く精神的に不安定になっている場合などには、付き添いを認めたり、あるいは勧めてきた。
 しかし、急性期を脱し、状態的に付き添いが不要になってもずっと泊り込みの付き添いを続けたり、早朝から消灯時間ギリギリまでベッタリ…という人もいる。その付添い人は患者さんから見て夫や妻にあたる人が多いのだが、必要以上に付き添いを続けるのは男性(つまり夫)の方が多かった。
 患者さん本人が行った方がリハビリになって本人の為に良いと思うことまで世話を焼いたり、妻から「もう来なくてもいい」とうっとうしそうに言われても、病院にいて妻の側にいる事以外何もすることがなくても、付き添い続けるのは夫である。

 2人暮らしの70代の夫婦で、妻が脳出血に倒れ、半身麻痺になって食事や排泄などに介助が必要となってしまった。この夫婦の夫も、家に帰るのは入浴の為だけで、後はずっと1日中病院にいた。3度の食事は病院の食堂や売店の弁当で済ませ、夜は狭い付き添いベッドに横になり、時々妻のオムツが汚れてはいないかと心配して起きていては十分体が休まる暇もない。
 夫自身高血圧持ちで内服しているので、心配した私達が、
「御心配でしょうが〇〇さんのことは私達に任せていただいて、1晩くらい家に帰ってゆっくり休まれてはいかがですか?土日には息子さんにも来てもらって、交代されてはいかがですか?」
と言うと、彼は暗い顔でこう答えられた。
「いや、家に帰っても1人で淋しいので帰りません。それに、自分に万一のことがあった時、誰にも見つけてもらえないじゃないですか。その点、ここなら安心です。」
 ‥‥‥‥。そりゃそうなんだけど、ずっとそうやって生きていくの?気持ちはわかるが、なんだか悲しかった。

 話は少しそれるが、妻に倒れられた生活ほどミジメなものはない…という男性も結構いるものだ。食事や洗濯などの家事全般を全て妻任せにしてきたため、妻が入院したら食事はコンビニ弁当、家の中はグチャグチャに汚れ、保険証のありかさえわからなくて困っているという話は日常茶飯事だ。そして、急患で入院した女性の夫に入院準備を頼んだらロクな物が届かなかったということもしょちゅうだし、入院している奥さんより夫の生活や健康状態を心配しなければいけないケースもしばしある。
 時々、世の男性諸氏に、妻がいなくなっても生活出来るよう最低限の家事は覚えていた方が自身のためですよ?と言いたくなってしまう。

 さらに逆の立場になって、患者が夫、付き添う方が妻となっても、付き添ってもらいたがるのは夫の方である。夫が倒れて入院したからといって、妻として、あるいは母や職業人として、家庭や地域でなさなければいけないことはたくさんある。見かねて私達が、
「〇〇さん、奥さんがずっとついていなくても大丈夫ですよね?」
と口を挟んでも、首を横に振り、妻を自分の側から手放そうとはしない。

 逆に倒れたのが夫の場合の妻は…というと、急性期のうちは涙にくれ、病院に泊り込んで献身的に夫の世話をしているものの、ある程度病状が落ち着き、ずっと付き添う必要がなくなってくると、「じゃ、家の事もありますので帰ります。お願いしま〜す」と帰って行く。
 そして、家事をしたり、仕事に出られて忙しくても、元気に振舞って看病疲れを感じさせないのも女性の方が多い。夫が脳出血で入院が長期化するとわかった奥さんがパートに出るようになった途端、若々しくなった人もいたっけ…。「これ、うちで作ったの、よかったら飾って。」と自分で作り育てた花や、趣味の作品(人形とか紙細工とか…)を持ってこられるのも奥さんの方が多い。

 勿論、全ての夫婦が今まで述べた通りというわけではない。
 仕事があるから…となかなか姿を見せず、手術の時にすらそそくさと帰ってしまう夫もいる。
 脳腫瘍で感情のコントロールがきかなくなり、「お母さん、お母さん」と子供のように泣きついてくる夫を、最後まで献身的に付き添い、看取った気丈な妻もいる。
 50代のまだまだ働き盛りに突然の脳出血で倒れ、治療の甲斐もなく、たった3日で亡くなった男性の妻は、医師が死亡確認しようとするのを拒み、泣き叫びながら夫の体にすがりついて、息子さんが説得しても離れようとはしなかった。(結局納得いくまで“添い寝”してもらい、一緒に死後の処置を行ったりしたが、あの後しばらくは、妻が夫の死を受容し、元気にしているだろうか…?と、とても気になった。)
 100組の夫婦がいれば100通りの夫婦のあり方、そして200人の生き方・人生観がある。それは、その人が重ねてきた年月の上に成り立つものだから、私達看護師がとやかく言う権利はないし、その生き方を認めなければいけない。

 ただ思うのは、男の人って淋しがり屋で内面は弱い人や、家庭の為にと仕事一筋に生きてきて人生を楽しむのが下手な人が案外多いのよね〜、そして女性は、物事の見方が現実的で、たとえ困難があってもどうにかして乗り越えようとする強さがあり、人生の楽しみ方の幅が広い人が多いのよね〜、ということである。
 ちなみに私はまだ結婚していないが、もし結婚していて将来夫が病に倒れたら…。夫の世話をし、闘病生活を支えたいとは思うが、彼に自分の残りの人生の全てを捧げるつもりはないな…、多分。