ジャンボ! アフリカ 〜9.いよいよキリマンジャロとゾウの楽園アンボセリに〜

 

 ナマンガは、それまで通ってきた町の中では1番大きくて賑やかな町だった。果物や野菜、シャツなどの日用品を並べた屋台が続き、青空マーケットを中心に多くの人が集まっている。
 その人だかりの向こうにある小さな小さな黄色い建物を指して、「あれがタンザニアとの国境ゲート」とカロが教えてくれる。感想は…「ふ〜〜ん」だった。なんかちっとも国境という感じがしない。北海道の納沙布岬で展望台に上がって、歯舞諸島の島々を望遠鏡でのぞいた時には、「望遠鏡で見たらあちらの建物も見えるのに、行きたくても行けない場所なんだ」
と、ビリリと妙な緊迫感を感じたものだったが、ここではちっともそんな感じがしない。おおらかな雰囲気で、「どうぞ、どうぞ」と通してくれそうな感じすらする。(本当はそうじゃないんだろうけど)
  
 国境ゲートの少し手前で左折し、いよいよ舗装道を外れ、オフロードの道へと入っていく。
 しばらく土壁作りの小さな民家が続くが、それもほんと数分の道程で、あとはひたすら見渡す限りサバンナが広がる。低いアカシアの木がまばらに生え、その周りを人間の腰か胸くらいまである草が大地を覆っている。今の時期は小雨季が終わり小乾季に入ったところなので、まだ緑が多いとのこと。そして、カロは「ここは木が少ないのでキリンはあまりいないかも」と言っていた矢先、いきなり目の前に現れたのがマサイキリンだった!まだアンボセリ国立公園のゲートのはるか手前の道で、いきなり道の左手から現れ、少し距離は離れていたけど車の前を横切っていったのである。ワオ〜!アフリカだ〜♪周りにはいつのまにかグランドガゼルも現れて興奮するが、「ガゼルはどこに行ってもたくさん見れるから、今、写真を撮る必要は無い」とカロが冷静に言う。(いや、そのお言葉通り、ガゼル類はこの後あきるほど見たわけですけど…)
 
 ナマンガから1時間位走って、アンボセリ国立公園の入り口ナマンガゲートに到着する。ゲートの側には数軒の民家もあって、車が停まるやいなや、あっというまにカラフルなマサイの服を着て、マサイビーズのネックレスやイヤリング、ブレスレットをじゃらじゃら身につけた女の子の物売り達に取り囲まれてしまう。「ジャンボ!」彼女らは車の窓に顔をくっつけるようにして覗き込み、マサイビーズのアクセサリーを買わないかと売り込んでくる。だが、カロは「買ってはだめ。こういう物売りは値段の割には粗悪品が多いから」と言い、窓を閉めたまま知らん顔していると、そのうち彼女らはあきらめて、あっさり車から離れていった。(こういうところは、各地の土産物屋の兄ちゃんみたいにしつこくなくてカワイイ)
 フレッドさんが公園内に立ち入る手続きを済ませ、それから鉄製の柵が開けられると、いよいよアンボセリ国立公園だ。
 
 右手にはアンボセリ湖という乾季には干上がってしまう湖があるが、まだ、はるか遠くの湖の中心部にはわずかに水があるようで、陽射しを受けてキラキラ輝いている。でも、周りは乾ききってひび割れた地面がむき出しになっている。そのさらに向こうには有名なキリマンジャロがあるのだが、山裾から厚い雲に覆われ、その姿は全く見えない。ちょっとガッカリだが、今の時期は朝と夕方の数時間しか見えないとのこと。
 同じような白く乾いた道を土埃たてながら走りつづけると、前方に小さな森が見えてきた。その中に入って行く…と思ったら、いきなり木製の入場門みたいなものがあり、上から何本か針金がブランブラ〜ンと垂れ下がっていて、車の天井が思いっきりこすられる。うわ〜、何なの?周りにも木の柵に有刺鉄線を張り巡らせたものがあり、英語で“触るな危険”ということが書いてある。実は、この森の中にロッジがあって、これらの鉄線に電気を流して、大きな動物(ゾウやライオンなど)がロッジに進入してくるのを防いでいるそうなのだが、今は壊れて電流は流れていないとのこと。
 森に入ってすぐ、木立の中に今日から2泊するアンボセリロッジの入り口が見えてきた。
 13:15過ぎアンボセリロッジ到着。
 ここは、サバンナの中にあるとは思えない、まるで南の島の楽園のようなロッジだった。(後に訪れたマサイマラやナクル湖のロッジもそうだったけど…)屋根は萱葺で、泊まる部屋は1つか2つずつで独立したコテージタプ。敷地内にはブーゲンビリアの花が咲き乱れ、とりわけプールの周りに多く咲いていた。そう、プールもあるのだ。他にも素敵なテラスがあって、そこで午後の紅茶を飲みながら、雲が無ければ目の前にキリマンジャロの雄大な姿を見ることも出来るのだ。
 しかし、こんな素敵な楽園のようなロッジにも1つや2つは欠点(?)がある。1つはバブーンにサバンナモンキー。彼らは、ロッジの敷地の内外をウロウロ歩き回っているのだが、馴れると人を怖れないため、ロッジの建物や車の中まで入ってきて物を盗ったり、時には直接人間を襲ったりと悪さをする。だから絶対エサをやってはいけない。“エサをやらない”“ゴミを捨てない”“動植物及びその部分はもちろん、石に至るまで持ち帰らない”“その他、野生生物の生活に介入しない”…これは、あるガイドブックに書いてあったことだが、まさしくその通りだと思う。(そういえば日光のサル問題はどうなったんじゃろうか?とケニアに来て思い出した…)カロに、「部屋の入り口を開けっ放しにしていたら、バブーンが来て悪さするよ!」と注意されたが、バブーンが部屋まで来ることはなかった。ロッジにバブーンが入ってきてイタズラするのを防ぐため、日中は常に、マサイの服を着た青年が棍棒を持って敷地内を歩いていたからだ。
 それからもう1つの欠点は、私は全然気になることはなかったが、アンボセリとマサイマラのロッジでは自家発電のため夜11時から明け方5時までは送電がストップして全てが真っ暗になってしまうこと。(日中も電気はつかなかった) さらに、どこのロッジに行っても、学校や町民プールにあるようなシャワーだけで(もちろんホースはついていない。はるか高い所から落ちてくるお湯をかぶるのだ)バスタブはないし、そのシャワーのお湯も時には出なくなったりするらしい。(幸い、私が泊まった所は全てちゃんとお湯が出たが、他の方の旅行記を読んだら、お湯ではなく水だったりすることもあるらしい)日本のホテルで考えたらえらいサービスかと思われるかもしれないが、ここはケニア、シャワーが浴びられるだけでも十分だ。日本の山小屋で何日もお風呂に入らず、夏山や紅葉のハイシーズンには畳1畳分のスペースで2人が寝る体験をしてきたら、ここはちゃんとベッドもあるし、しかも王女様のベッドのように蚊帳が天蓋に吊ってあるし、夜の停電に備えヘッドランプを持ってきたけど素敵な燭台とロウソクはあるしで、私には快適なロッジ生活だった。

 ロッジに到着後、まずは泊まるコテージに案内され、それから食堂で遅めの昼食をカロと一緒にいただく。「夕方のサファリドライブは4時からね」と言われ、食事の後はロッジの敷地内を探検して歩いて回った。
 歩き疲れるとプールサイドの木陰にある椅子に座って、ノンビリ本を読んで過ごす。プールでは、ヨーロッパからのお客さん達が泳いでいた。ケニア=野生動物のサファリと思う人もいるかもしれないけど、それらも全てひっくるめてここは素晴らしいリゾート地なのだと思う。